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 ケンジャ・ググレ・ゲーム

 魔法の馬車、『空亀号(スカイタートル)』は空に舞い上がった。


 賢者の館の上空を旋回し、見送りに出てきたマニュフェルノとスピアルノ、そして元気よく跳ね回っている四つ子達に手を振る。


「いってくるよー!」

祝福(フェス)。無事に帰ってらっしゃい! お土産も忘れずに!」

「あぁ!」


 マニュフェルノが旅の無事を祈ってくれたので、安全な旅になることは請け合いだ。

 やや強行軍の日程だが、日が沈むまでには戻ってこれるだろう。


 徐々に高度を上げて三日月池と周囲の森を飛び越えると、王都メタノシュタットの王城と尖塔が、朝日を浴びて輝いているのが見えた。

 秋の朝は空気は澄んでいて、程よい気温と風が心地よい。


「飛んだのデース」

「良い眺めですねー」

 ラーナとプラムが客室の横の小窓から外を眺めて歓声をあげる。


「城より高く飛ばぬのがググレにょの礼儀かにょ」

 御者席の後ろに腰掛けたヘムペローザの黒髪が風に揺れている。


「おっ、いいところに気がついたなヘムペロ。王様が住んでいるからな!」

「今は一階にいるかもしれぬがにょ」

「いちいちひねくれたことを……」

「にょほほ」


 まぁ、少し離れてしまえば関係ないが、王城に近いところでは慎重に高さにも気を使いながら飛ぶことにする。


 朝の哨戒(しょうかい)任務から帰投中らしい二匹の飛竜(ワイバーン)とすれ違う。プラムたちが手を振ると、空中騎士たちも手を振り返してきた。


 眼前に浮かぶ戦術情報表示(タクティクス)上には、高度・速度・気温などの他に、周囲1キロメルテ範囲に及ぶ対空(・・)索敵結界(サーティクル)の情報が映し出されている。


 魔法円が重なり合い、幾何学的な図形を描きながら、飛行制御用の魔法術式が安定稼働している様子もわかる。


「――各飛行制御用の魔法術式群正常。飛行モード『(バール)』出力60%で推力安定、内蔵魔力の残量は99%ですわ」


 妖精メティウスが賢者のマントの襟首の内側からサポートしてくれる。


「高度15メルテを維持しつつ、あとは自律駆動術式(アプリクト)半自動制御(セミオート)飛行を行う……っと」


 量産型の『(バール)』や『フルフル』『ブルブル』に蓄積された魔力だけで、おそらく世界樹までは飛べるだろう。だが、完全に魔力を消耗すると内部の人造スライム達が弱るので、程よく俺が魔力糸(マギワイヤー)を通じ、魔力の供給を行いながら飛行する。


 時速70キロメルテで巡航飛行に移行、馬車の最高速度のおよそ3倍の速度で飛翔しながら滑るように南を目指す。


 王都の密集した街並みを抜けると、徐々に家々はまばらになった。飛行開始から5分ほどですでに緑と茶色の畑がパッチワークのモザイクタイルのように並ぶ農村風景に変わりつつある。


「賢者ググレカス、高度が15メルテでは……低すぎませんこと?」

「今日はこれぐらいでいいんだ。実は今回の旅に際しては、王政府……『世界樹開拓府(ユグドパイオニア)』や王国軍から地形情報の収集も依頼されているからな」


「まぁ、そうでしたの? その調査とはどんな?」


「新交通網を施設する予定の候補ルートが幾つかあるのだが、その一つをトレースする。地面の様子、高低差、地面の硬さ、水分量……。下方向に向けた索敵結界(サーティクル)からの反射波を数値化して、『千年図書館(サウザントライブラリ)』内に記録。あとで、水晶の『記憶石(メモリア)』にアウトプットして渡すのさ」

「あら、ただ飛んでいくのではなかったのですね」

「せっかく飛ぶのだからな。約にも立つし」


 調査隊が馬車で測量しながら同じことやっていたのでは、それだけで数ヶ月を要するだろう。


「ちゃんと報酬も出るもんね」


 ヘムペローザの対面に腰掛けていたレントミアが口を開く。


「これからは働いた分ちゃんと報酬が出るからな。特に世界樹関連のお仕事は。もちろん、ヘムペローザもプラムも、役に立てばそのぶんお小遣いがもらえるぞ!」


 実は例のお茶会の後、ヘムペローザは王政府から「世界樹に関係する功績」という名目で専属魔法使い(現:見習い)として契約を持ちかけられた。報酬も目の飛び出るような額が提示されたが詳しい金額は言えない。だが、俺と家族達が「後見人」としてなら良いと、契約同意書にサインして、王政府のお役人と固い握手を交わした。


 そのため俺やヘムペローザ、レントミアやルゥローニィ。それにマニュフェルノ。あるいは家族であるプラムやリオラ、スピアルノであっても、世界樹に関係する事で、形として何らかの「功績」を示せれば、仕事に対して報酬がもらえる事になった。


 その点、以前のルーデンスのように死にそうな目にあっても危険手当さえ出ないより、随分とマシな気がする。


「報酬ですかー。それは凄いのです。……串焼き肉何本でもいいですかねー?」

「いいともさ、何本でも」


 ふふ、プラムめ串焼き肉の「特上」ぐらいは好きなだけ食わせてやる。


「プラムにょ、上前(うわまえ)を跳ねられぬよう、『明細』を出してもらうのじゃ」

「明細ですー? メーサイですねー」


「……おまえは誰からそんなこと」


「マニュ姉ぇやリオ姉ぇは家計簿つけてるしにょ。明細は大事にょ」


「うぐぐ……」


 プラムは子供っぽさが心配なほど可愛いが、ヘムペロは大人達の会話を聞いては、いつの間にかメキメキと成長しているようだ。まぁ、成長は嬉しいが魔法の修行もきちんとしてやらねば……。


 ともあれ飛行は順調だ。

 地形の情報を集めながら南へと飛んでゆく。


 戦術情報表示(タクティクス)の飛行制御関連術式はすべて順調、オールグリーン。索敵結界(サーティクル)も異常なし。


「ケンジャー」

「ググレ」

「フハフハ!」


「ケンジャー」

「ググレ」

「フハフハ!」


 いつの間にか、客室(キャビン)ではみんなが車座となって座り、楽しそうなゲームを始めていた。


 最初にプラムが「ケンジャー」といいながら誰か他の人を指差す。

 するとその指を差された人――この場合はルゥローニィ――が「ググレ」と言いながら、今度はリオラを指差す。

 そこでリオラは「フハフハ!」と高笑いのポーズで両腕を顔の横で動かす。

 その後は「ググレ」と言われたルゥローニィが、次にだれかがミスをするまで繰り返す……という単純で、実にしょうもない遊びだ。


 その名も『ケンジャ・ググレ・ゲーム』実に謎のゲームだが、王城から最近流行り始めたものらしい。いったい誰がやり始めたのかしらないが、いろいろな人物でのパターンもあるのだとか。


「どうでもいいが、何故に俺の名前でゲームなんだ……」


「あ、ごめんねググレ。僕がさ、魔法協会で流行らせたんだ。ググレ、フハフハ! とかやっているうちに」

 レントミアがキャハハと屈託なく笑う。


「おまえか!」

「えへへー」

 レントミアめ、どれだけ俺が好きなんだ。


 ともあれ――

 そんなこんなで1時間半ほど飛行したところで、既に120キロメルテほど飛行していた。

 追い風だったこともあり、かなり順調に飛行距離を伸ばしている。これならばあと1時間半もかからずに世界樹へとたどり着くだろう。

 

 気がつくと眼前に広がる風景は、森と湿原が入り交じる緑豊かなものに変わっていた。森が途切れれば、やがて湿原と草原の続くヒカリカミナの土地へと至る。

 森の影に隠れるようにいくつかの人家や、小さな村のような集落も見える。

 

「そろそろ疲れてきたな……小休止といこうか」


 眼の前に比較的大きな集落、おそらくは村が見えてきた。検索魔法地図検索(グロール・マッパ)で確認するとマハテーラ村とある。

 家々は茅葺屋根で、ココミノヤシやバナナの木々が南国を感じさせる。喫茶店とまでは言わないが、トイレと食べ物の屋台ぐらいはあるだろうか。


<つづく>


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