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 空飛ぶ馬車、離陸(テイクオフ)

 ◇


「では行こう、世界樹へ!」


 目指すは王都から距離にして、およそ200キロメルテ南方。ヒカリカミナ湿原の南端に位置する『世界樹』とその開拓地だ。

 

 現在はレンブラント卿が騎士駐屯団の代表として代理統治しているが、総督の統べる保護国でもなければ、辺境伯の領地というわけでもない。世界樹と周辺の土地はメタノシュタット王国直轄領という扱いだ。

 町として機能し始めれば、そのうち『神託の十六騎士』を束ねるヴィルシュタイン卿、もしくは同等の称号を持つ騎士の誰かが拝領し、統治することになるのだろう。


 それはともかく、太陽も昇りはじめた。朝八時の庭先は出立の準備で慌ただしい。


「拙者はいつでもいいでござる」

「僕も、別に荷物もないし、いいよー」

 ルゥとレントミアは装備と荷物を整えて木陰で休んでいる。


「お気軽だなぁ。以前の冒険なら大荷物だったのに」

「空飛ぶ馬車で3時間でござるから、つい気が緩んでしまうでござる」

「便利だもんね。ググレもさ、空飛ぶ馬車を量産して儲けたら?」

「うーん。制御する部分が……極秘だからな」


 空に浮き上がる秘密はマリノセレーゼから鹵獲(・・)した流体制御魔法(ハイドロステマ)による空気の噴流。その制御の根幹は、自律駆動術式(アプリクト)超駆動(アクセル)。それは他者には晒したくない部分だ。

 ブラックボックス化して、それだけを魔法工房などに売り払う手もありそうだが。


 今回同行するメンバーは、レントミアにルゥローニィ。それと新しい魔法学舎の見学を兼ねたヘムペローザ。プラムとラーナも一緒に行く。

 そこでラーナはリオラも一緒に行って欲しい、と俺の袖を引いた。

 ラーナが主張することは珍しい。あるいは何かの虫の知らせか、単に寂しいのか。留守番予定だったリオラにも同行を頼んだ。

 リオラは快く引き受けてくれたが、昼食の心配をしている。


「家でゆっくり……の予定だったのに悪いな」

「いいえ。みんなとお出かけは楽しいです」

 にこにこしているリオラが、ラーナを抱き上げる。

「でもお弁当、準備していませんね……」

「それは大丈夫。昼前には到着するから。世界樹の開拓村で食べればいいさ。食堂ぐらいあるだろうし」


「そうですか。辛いものばかりだと困りますけど」

「あー……そうえいばマリノセレーゼ風の辛い料理が多かったな。あと巨大キノコのステーキと」


 キノコと聞いてプラムが瞳を輝かせた。


「そういえば、ググレさまのキノコのゴーレムは元気ですかねー」

 キノコ型のモンスターいや、『幸運の妖精』シュルムを模った俺のゴーレムはどうしているだろうか。

 元気だとは思うが、大増殖して迷惑かけたり討伐されたりしていないだろうか?


「会いたいのか?」

「可愛いですしー」

「だな」

「にょほほ、触手つきのキノコゴーレムにょ。あれは微妙じゃったにょー」


 ヘムペローザが笑うが、キノコゴーレムは可愛いと思う。ワイン樽ゴーレムと同じぐらい。

「来い! 『フルフル』『ブルブル』!」


 俺の命令で『フルフル』と『ブルブル』が馬車を牽いてガレージから現れた。


 馬車『陸亀号(グランタートル)』を力強く()き、金属の四肢をガショガショと器用に動かす二体のワイン樽ゴーレムたち。


 足踏みするように俺達の前で停車する。


『フルフル!』

『ブルブル!』


「よしよし。メティ、『(バール)』たちを接続する」

「わかりましたわ」


 妖精メティウスとともに戦術情報表示(タクティクス)を展開、魔法の制御術式をいくつか自動詠唱(オートロード)魔力糸(マギワイヤー)でガレージの奥で調整済みの量産型ワイン樽ゴーレム『(バール)』たちに指令を下す。


 ゴロゴロと計6体のワイン樽が転がり出て来た。

 『(バール)』たちを馬車を取り囲むよう配置し、続いて金属棒でできたジョイントを伸ばし、車体を支える金属構造体と接続してゆく。

 全部で6体。『フルフル』と『ブルブル』も合わせれば、計8体の『ワイン樽飛行ユニット』が接続した。4体あれば浮上できるが、長距離の飛行なので交代しながら可動させる。


「みんな、乗り込んでいいよ」


 今日は日帰りだが、視察旅行のようなもの。荷物もほとんどない。未開の地に行くわけではなく、町も出来ているので現地調達すればいい。


 全員が乗り込んだのを確認し、俺は御者席に座る。


「では、浮上する」

「はい! 賢者ググレカス」


 妖精メティウスのサポートを得つつ、車体の状態を監視しながら浮上させる。


 6つの樽が空気を噴出し、ヒュィイイイ……と甲高い音を発し始めた。徐々に6つの浮上用(・・・)の『ワイン樽飛行ユニット』の圧搾空気の噴出を高めてゆく。


 戦術情報表示(タクティクス)には、飛行関連制御の魔法術式が次々と励起されている様子が映し出される。

 各モジュールの出力状態、残存魔力の量、車体の傾きを制御する魔法制御、そして高度や速度などを示す数値メータが数値を刻んでいる。


「――離陸(テイクオフ)!」


 魔法の馬車は、ゆっくりと地面を離れ上昇し始めた。


<つづく>


【作者より】

 更新が遅れすみませんでした。

 引っ越しも無事終了。作者も新生活を整えつつ、

 2日おきぐらいに連載を続けていきますね★


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