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 魔法工房ギルド組合の奮闘

 作業着姿の人型ゴーレムがスコップを地面に突き刺した。


 全長5メルテに達する大型のゴーレム、『74式改・ドーザ』が両手で持っているのは、普通の人間が使うスコップの優に三倍ほどもある代物だ。それを軽々と地面に押し込むと、ゴーレム特有の駆動音を響かせながら土を掘り起こした。

 穴は次第に深く、大きくなってゆく。その仕事ぶりは生身の土木作業員10人分にも匹敵するだろうか。


 対する『忘却希望通(フォガーホプス)』の工房連合、合作ゴーレム『ケロッくん・ワーカ』の穴掘り作業のほうも順調だ。

 カエルに似た四足歩行ゴーレムの安定性を活かし、機体を傾けながら背中から伸ばした自在腕(アーム)を巧みに操って掘り進んでいる。


「穴掘りに関しては、甲乙つけがたいな」

 俺は顎を親指で支えながらつぶやいた。


「軽々とやっているように見えますが、あれって凄く重いのでしょう?」

 妖精メティウスが金色の髪の毛先をもてあそびながら尋ねる。


「そりゃぁ大変な作業だよ。俺がやったら腰が折れるな」

「インテリアピールをなさらなくてもよろしくてよ」

「まぁ、あんなふうに苦もなく掘り進めるのはゴーレムのパワーのせいもあるが、秘密はあのスコップだな。先端に土系魔法……掘削を楽にする魔法が仕込まれているようだ」


 常時展開している索敵結界(サーティクル)が検知している、受動的(パッシヴ)な魔力情報からもそれは読み取れる。


「賢者ググレカスの『共振破砕術式(レジナンシア)』みたいなものかしら?」

「おそらくな。確か74式には『近接戦闘用ダガー』のような護身装備があったはず。それは大型魔獣の皮膚を貫通し、骨を破砕するための衝撃発生魔法が仕込まれていたと聞く。その魔法技術を転用したんだろう」

 振動で対象物に衝撃を与えて粉砕する、という発想は一緒だろう。

「ふぅん」

 とはいえ、ゴーレム対決とはいっても見た目は地味なものだ。

 妖精メティウスが興味なさげに伸びをする。


 メタノシュタット大文化祭の各国代表による『ゴーレムバトル』のように、ガチで殴り合い戦うゴーレムファイトが見たい気もする。だがそれは「乗用(ライド)ゴーレムこそ男のロマン!」と俺が感じているからにほかならない。


 競技の進行を見守っている主催者たち――王政府関係者の反応を眺めると、意外にもナルルたち民間側に好意的な意見が多いようだった。


「事前に提出された仕様(・・)によると、魔法使いでなくても操れるゴーレムとある。あの少年であそこまで動かせるというのは、実に凄いことですね」

「駆動動力源として、元々軍用に開発していた高性能の『魔力蓄積機構(キャパシスタ)』を搭載しているようですな。コスト高により延期になった例の国産新型ゴーレム開発計画の余波……。それを再利用した結果が、あれというわけですか」


 下町連合ゴーレムの仕様のユニークさと、操術師が普通の少年である事に注目しているようだ。


「事前の魔力充填は必要のようですが、現場での交換も可能とも書いてありますね。これは面白い設計思想だ」

「疲労した魔法使いを交代させるのではなく、機体側の部材を交換か……。それは発想の転換じゃのぅ」


「機体は以前、メタノシュタット大文化祭で使われたものを転用しているようだがな」


 すると、監督(・・)のような立ち位置で、作業の指示を出していたナルルが、天幕の中の王政府関係者や軍のお偉いさん達のいる方をふり向いた。

 エルフ耳でばっちり話が聞こえていたのだろう。


「確かに……ウチは全て手づくりパーツの寄せ集めです。性能は良いのに高額だとか言われて採用されなかった『魔力蓄積機構(キャパシスタ)』に、耐久性に欠けるとか言われてボツになったゴーレムの腕ですから。でも性能は軍用にだって負けませんよ」


 どうやら、ナルルたちの『ケロッくん・ワーカ』は、様々な魔法工房(マーセナル)が、いろいろな部材や技術を持ち寄って組み上げたものらしい。


 頑張って動いているカエル型ゴーレムに、万感の想いを込めた眼差しを向ける。そんなハーフエルフの少女の言葉に、王政府の関係者は思わず耳を傾ける。


「私達、魔法工術師(マギナテクト)怨嗟(おもい)、散っていった数多くの魔法工房(マーセナル)(もう)……いえ夢! これは私達の敗者復活戦(きぼう)なんです!」


 一瞬、本音を漏らしたようにも思えたが、笑顔で語る彼女の熱い想いは確かに伝わったようだ。


「うむ。我々は今後の需要を予測し、必要な製品、部品、技術。それが本当に役立つものなら、採用してゆくつもりだよ」

「あとで組合(ギルド)長に聞いてみると良いよ。悪いようにはしない」


 どうやら、どちらか一方を採用して片方を捨てる……というコンペでもないらしい。王国軍の『74式改・ドーザ』はむしろ「出来てあたりまえ」という扱いなのか、あるいは旧型機体を改造しての再利用は既定路線なのか。あまり注目を集めていないように思われた。


 やがて時間は経過し、穴掘り対決は双方とも時間内に作業を終えたようだ。


 見た目は『ケロッくん・ワーカ』の掘った穴のほうが丁寧で、キレイな仕上がりに感じられた。

 けれど結局のところ、双方時間内に所定の作業を終えたということで「合格」となり、判定は「引き分け」となった。


 次の勝負は、建築用の石材を運搬するものだった。

 縦横それぞれ30センチメルテ、長さは90センチメルテ。城の壁や城壁などに使われる重くて大きな石材だ。

 これは、王国軍の『74式改・ドーザ』が勝利を収めた。自由に使える二本の腕が、重量物の運搬に対して迅速に対応できたからだ。

 それに対して『ケロッくん・ワーカ』は自在椀(アーム)の先からロープを伸ばし、吊り上げる方法を使った。運搬は可能だったが、準備と作業に時間がかかりすぎた。


『見たかよ出来損ない(ハーフエルフ)! これが実力だぜ。カエルは舌で運ぶのか?』


 メネリュオン中尉は相変わらず大人げない。下町の工房組合の応援団がブーイングすると、流石に上官も苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「あいつ、ムッカつくわね……!」

「ナル姉ぇ落ち着いてよ」

 ナルルは負けた上に挑発されて相当カッカきているようだ。操術師のティリア君は冷静のようで何よりだが。


「……次の勝負は殴り合いかしら?」

「え!? そなの?」

「いい、ティリアくん! 例の作戦でいくの。懐に飛び込んで必殺(・・)の『魔力蓄積機構(キャパシスタ)』大放出ブレイカー! あいつのゴーレムの駆動系、魔力回路、全部焼き切るの! いい? わかった!?」

 びしっと指差すナルル。相変わらずおもしろいヤツだ。


「しーっ! 聞こえちゃうよ!」


 一応、元軍用ゴーレム相手の格闘戦(・・・)になった場合、「相打ち」に持ち込む算段まではつけてあるようだ。


 しかし、残念なことに三本目の勝負は地味な「埋戻し作業」だった。


 土木作業員が土を運搬し、穴を埋め戻す作業。これを二台のゴーレムがそれぞれ代わりに行うという、実務に即した勝負だった。


 今回は地下の下水管が埋設されたばかりの穴の埋戻しを、実際の現場を借りて行うことになっていたようだ。


「双方、用意……はじめ!」


『よっしゃぁああ! 速攻でケリを……あっ!?』


 ズゴォオオン……と、また『74式改・ドーザ』が穴の縁を踏み崩した。しかも埋めたばかりの新しい陶器製の下水管ごと粉砕するという体たらく。機体が重すぎて周囲の地盤が耐えきれず崩落したようだ。機体が傾き、片膝をつく。

 最初の事故の教訓を忘れていたのだろうか。


「ぅおい!」

「コラてめぇ!」

「降りてこい! 埋めるぞワレァ!」

 ドワーフの現場作業員たちが血相を変え、ツルハシやスコップ片手にゴーレムに殺到。取り囲んで一斉に抗議の声をあげた。


「す、すみません……。って――ちっきしょおおお!」

 流石に操縦席から出てきて平身低頭。けれど結局はキレて、ヘルムを思いっきり地面に投げつけるハイエルフのメネリュオン中尉。


「……ティリアくん、作業開始してくれる?」

「はーい」


 三本目の勝負は、その後悠々と作業を完遂した『ケロッくん・ワーカ』の完全勝利となった。


 これで勝負は、一勝一敗一引き分けの互角ということになる。


「ははは、あの中尉、作業員たちにボコられる寸前だぞ。いい気味だな」

「もう、賢者ググレカスったら。でもその……脳筋なハイエルフもいらっしゃるのですね」


 妖精メティウスがひそひそと耳打ちする。ハイエルフはみんな賢くて上品で、俺のようにエレガントというわけでもないのだろう。


 ハイエルフの三人娘たちはそれでもフォローに回っている。

「メネリュオン様はお元気ですわねぇ」

「失敗はだれにでもありますわ」

「あの下品なドワーフを蹴散らすお手伝いをするべきかしら?」

 口々に言っているが、一体どういう心理なのかと理解に苦しむ。


「なかなか無駄に凄いもんを見た感じじゃにょぅ」

「落とし穴が楽々つくれますねー」

 ヘムペローザとプラムがそれぞれ焼菓子を頬張りながら、飽きた様子で拍手を送る。

「ははは」


「プラムにょ、でも良いことを思いつたにょ」

「なんですー?」

 ヘムペローザが何か思いついたらしく、俺を挟んで反対側のプラムと話し続ける。


「あのゴーレムに頼んで『三日月池』に水路(・・)を掘ってもらうのじゃ。それを(ウチ)の庭先までずっーと伸ばして……ボートを玄関前に置けたらどうじゃろうにょ?」

「おー! それはナイスアイデアですー。早速カエル君に頼みますか!」


「こらこら、あの湖は公共の貯水池だから。勝手に水路を掘るわけにはいかん」


「……ジョークじゃにょ」

「子供じゃないのでそれぐらいわかりますー」


 うっ、子供扱いして悪かったな。


「ん……水路?」


 ……あれ?

 

 ――三日月池、水、水路、ボート。


 今、何かものすごいアイデアが閃いた気がする。


 それはゴーレム同士の対決のそもそもの目的、世界樹にまで連なる「新交通機関の構築」に通じる何かだ。


 例えばだ。

 世界樹を「魔力の湛えられた湖」と考えたらどうだろう? 


 そこから魔力の流れる水路……何か溝のような物をつなげて、あたかも人造湖(ダム)から水が低い方に流れるがごとく、魔力水路のようなものを作り導いたら……。


 構造物を作るコストと、穴を掘るコストではどちらが大きいだろうか?

 魔力の流れる水路にボートを浮かべる?

 いや、ボートでなくてもいい。魔力を汲み上げる装置を搭載した車輪付きの乗り物でもいい。


 プラムとヘムペローザの他愛もない会話から、なんだか俺もアイデアの一つぐらい提供できそうな気がしてきた。


<つづく>


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