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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆8章 闇の復活と、賢者の戦い (ググレカスの受難 編)
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 勇者エルゴノートとファリアの本気

【これまでのあらすじ】


 魔王と植物系魔物の融合生物である魔王妖緑体デスプラネティアとの死闘の末、ヘムペローザを救出することに成功したググレカスだったが、逆にその体内へと取り込まれてしまう。

 デスプラネティアの精神世界に迷い込んだググレカスは、魔王デンマーンと邂逅する。元の世界へ戻ることを望むググレカスに、力を貸したのは敵であるはずの魔王デンマーンだった。それは、魔王が寵愛していたヘムペローザを賢者が命がけで救った事への礼だった。

 元の世界に復帰したググレカスは、マニュフェルノから譲り受けた腐朽(ペドス)の力を解放し、内側からデスプラネティアを破壊することに成功する。

 メンバー六人が揃ったディカマランの英雄は、ググレカスの戦術に沿って反撃を開始する――




 デスプラネティアが巨体を揺らすごとに麦畑の表土が(えぐ)れ、道端の木々が薙ぎ倒されてゆく。俺の館から5百メルテは離れているとは言え、ここはまだフィボノッチ村の中なのだ。

『ギシャァアアア!』

 体の内側で腐朽(ペドス)の猛毒を炸裂させ大ダメージを与えたにもかかわらず、未だにこの化け物は健在だ。その理由は簡単で、動物と違い植物系の魔物には明確な「急所」が存在しない。魔王の細胞と食人植物の融合体であるこの魔王妖緑体デスプラネティアも例に漏れずその特性を引き継いでいるのだろう。


「これ以上村の畑を荒らされるわけにはかんな……」

 俺はマニュフェルノの手を握ったまま苛立ちと焦りを覚えていた。

 眼前に展開している戦術情報表示(タクティクス)には『魔力充填……15%』の表示が浮かんでいる。

 マニュは戦闘で魔術を駆使することは無いので、余剰魔力を貰い受けても大丈夫だが、魔力糸(マギワイヤー)が魔力を伝道する性質を応用した充填方法は、あまり効率がよくなかった。

 このペースだと、目標である30%に達するまで少なくとも3分は必要だ。仲間たちが戦っているこの状況下で3分と言う時間はとてつもなく長いのだ。


 手のひらがじわりと汗ばんでくる。

 女の子と手を繋いでいる時に汗ばんだら基本アウトと以前何かの本で読んだことがあるのだが、今はそんなことはどうもいい。


「マニュ、レントミア、少し場所を変えるぞ」

 マニュの手を握ったまま、僧侶の歩幅に合わせて小走りで移動をはじめる。巨大な魔物の死角になるような位置に回りこむのだ。


 円環魔法(サイクロア)の呪文詠唱で一分以上の時間が必要なレントミアも瞳を閉じ、難しい顔で精神を集中している様子だ。

 魔法の(かなめ)である『円環(サイクロア)錫杖(カカラ)』を右手で水平に構え、口元で唱えた制御術式を流し込んでいるのだ。

 魔法使いにとって、無防備ともいえるこの瞬間に敵に狙われるのが一番怖い。


「レントミア、足元に気をつけろ」

「うん……」

 俺はレントミアの左手をそっとつかんで、ゆっくりと移動する。集中しながらもレントミアは口元に笑みを浮かべる。


 視界の隅では、エルゴノートとファリア、そしてルゥローニィが、一撃離脱で小さな打撃を与え続けていた。必殺技レベルの打撃を抑制し体力を温存し俺の合図を待っているのだ。

 デスプラネティアはまんまとその攻撃に誘われ、足が止まっているようだ。ぐるぐると同じ場所で暴れ、進攻が止まっている。


 『魔力充填……21%』と魔力残量が増えると共に、戦術情報表示(タクティクス)自動詠唱(オートロード)可能な術式が青い文字で表示されてゆく。

 

 ――あと一分、エルゴノート、ファリア、ルゥ。もう少し、もう少しだ。


「焦燥。ググレくん、やっぱりハグとかしたほうがいい!?」

 

 流石のマニュフェルノの顔にも焦りが浮かぶ。仲間たちがいつ毒のブレスを浴びて倒れるかわからないのだ。


「いや、魔力充填は接する部位や面積じゃないんだ、魔力同士の適合性の問題さ」

「相性。わたしとググレくんは、相性いいのよね?」


 走ったせいかほんのりと朱色に染まった頬のマニュが、ズレた丸メガネをちょいと指で持ち上げる。共通項はメガネだけかと思ったが魔力の波動が似ているのだ。


「あぁ。何故だかわからんが性質が近いんだ。レントミアの魔力がホワイトシチューだとするなら、俺の魔力は味噌汁、マニュのはすまし汁だ」

「困惑。それ、喜んでいいの?」

「ググレ、わかんないよっ!?」


 異世界のたとえ話は判りにくかったかもしれないな。集中していたハズのレントミアでさえ頭にハテナマークを浮かべている。

 と、そうこうしているうちに魔力充填は、30%に達していた。

「よし! 準備完了だ、レントミアもいけるか?」

 俺の問いかけにハーフエルフの魔法使いが静かに頷く。


「マニュ、ありがとう! 距離をとって、全員に祝福(フェス)をかけてくれ!」

「了解。きをつけて、ググレくん!」

「あぁ――! いくぞ、レントミア!」


「うん! でも……円環魔法(サイクロア)の材料が……」

「それなら心配ない」

 レントミア自身が極大級の円環魔法(サイクロア)を唱えた為、火炎魔法の励起まで手が回らないのだ。だが、ちゃんと手は打ってあった。


 馬の蹄の音に振り返ると、馬に乗った王国の騎士と魔法使いの一団がこちらへと駆け寄ってきていた。戦闘は全身を鉄の鎧で固めた団長のヴィルシュタインだ。その背後に数名の騎士と戦士、そして魔法使いが続く。


「ルゥローニィ殿からの伝言により馳せ参じた! 賢者殿の協力の申し出、あり難く(うけたまわ)る。総員! ――ここで最終防衛の陣を張り、レントミア殿に我々が全力で魔力を供給する!」

「ググレ!?」

「あぁ、ルゥに頼んで来てもらったのさ。メタノシュタットを防衛する精鋭たちにな」


 素早く移動のできるネコ耳剣士ルゥの脚力を生かし、前線の騎士達への伝言と、ファリアとエルゴノートへの作戦の伝令を頼んでおいたのだ。


 彼らはヴィルシュタインの号令で、ザッ! と一斉に馬から飛び降りると、騎士と戦士たちが前面に立ち壁となり、背後に魔法兵士5名ほどが立ち並んだ。

 魔法使い達は最初の12名から数えれば随分と減ってしまったが、彼らの目には強い決意の揺るぎ無い光が宿っていた。

 王都や人々を守ろうという気持ちは本物なのだ。主義信条が違っても、協力し合えることだってある。


 自らの魔法が通じないという無力感と絶望感、そして次々と倒れていった仲間達の無念をはらずべく俺たちに協力を約束したのだ。


「全員、自らが放てる極大の火炎系魔法を励起――! レントミア殿に集めるのだ」


 規律の取れた指揮で応じ、王国の魔法使い達は一斉に呪文詠唱にはいった。今まではローブに隠れていて判らなかったが、全員が若く、俺とさほど年の変わらない者達だ。

 頭上に次々と強力な火炎魔法を収斂させてゆく。


「レントミア、一分後、かき集めた火力を円環魔法(サイクロア)で収斂し加速射出、方向はデスプラネティアの直上だ。最終誘導は俺が手伝う。遠慮なく、全力で頼む!」

「う、うんっ!」


 流石のレントミアにも緊張の色が浮かぶ。俺は万が一に備え、レントミアの背後に回り、いつでも支えられるように抱きとめた。

 5人分の極大級の火炎魔法を受け止める衝撃はとてつもないのだ。

 

 ――と。

 火炎魔法の輝きを見て、合図と受け取ったエルゴノート、ファリアが、動きの止まったデスプラネティアから一瞬距離をとり、一息ほどの静寂が訪れた。


「待ったいたぞ、この瞬間を!」「あぁ、ウズウズしていたのだ!」


 大柄な勇者エルゴノートと女戦士ファリアが並び立ち、裂ぱくの気合と共に――吼えた。


()雷神(サンダガード)断空牙(ダンクゥガ)!」

竜撃羅刹(ドラゴンスクリュー)十六連撃(シクスティア)!」


 二人は渾身の、本気の最強必殺技を放った。

 瞬間、巨大な虹色の光の柱が立ち昇った。その輝きは同時に周囲の木々を根こそぎ吹き飛ばすような爆風を巻き起こす。

 天を貫く光が、エルゴノートが持つ宝剣の輝きであると認識が追いついた時には既に、煌々とした光の刃が魔王妖緑体デスプラネティアの体に叩き込まれていた。腐り始め再生能力を失ったとはいえ、山のように巨大な化け物の身体を、火花のような閃光を散らしながら文字通り二つに溶断してゆく。

『ギィギュアァアアアアア!?』

 剣気と魔力により形成された光の剣は、花弁のような頭部はおろか、胴体中央部にまで達する深手を負わせていた。口蓋は切りかされ毒気のブレスを吐き散らしていた頭部は粉々に砕け散った。

「はぁあああああああッ!」

 神の一撃にも似たエルゴノートの一閃と間髪を置かず、ファリアが全力で放つ、竜撃羅刹(ドラゴンスクリュー)の白刃が、次々とデスプラネティアに叩き込まれた。轟雷が響くたびに不定形の黒い巨体がぐらりと傾く。


 怪獣はもはや叫ぶ力も残っていないのか、そのまま女戦士の放つ連撃に打ちのめされてゆく。4発、8発……16発と、弧を描く銀色の稲光がファリアの振るう斧だと誰が信じられるだろうか? それほどまで早く強烈な斬撃は、化け物を体を容赦なく引きちぎってゆく。

 

 音速を超えた衝撃波(ソニックブーム)が百メルテも離れている俺たちに襲い掛かった。巻き上げられる爆風で目を開けていられないほどだ。


「くっ……!?」「す……凄すぎる!」「バ、バカな……、ディカマランの力とは……これほどのものなのか!?」

 メタノシュタットの王国の騎士や戦士たちが、信じられないという様子で、口をあんぐりとあけて呆けている。

 ――ディカマランの英雄を超えるという夢を持っていたクリスタニアの騎士達は、そのあまりの破壊力と威力を前に、自分達とのレベルの差をまざまざと見せ付けられてしまったのだ。

 

 ――だが、これで終わりではないのだ。


「今だ、レントミアに火炎魔法を!」

 

 化け物の断末魔を眺めていた魔術師達が、ハッと我に返り一斉に火炎魔法を放ってきた。勢いは弓矢よりも遥かに遅いが、受け損じればこちらが丸焼きになってしまうほどの威力がある。


「いくよ! 円環(サイ)……魔法(クロア)ッ!」

 凛と澄んだレントミアの声色と共に、炎の渦を一つに纏め上げる。炎の魔法は姿を変え、熱く眩い輝きを放つ熱エネルギーへと変換されてゆく。

 その神秘的な光景に、俺は思わず息をのんだ。

 

<つづく>



【次回予告】

 遂に巨大怪獣編完全決着――!


 そして、年末の休筆へw(29日-31日 )


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