表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1258/1480

★ヘムペローザとゴーレムのお勉強


「えー、では王政府主催、次世代交通インフラ整備事業、魔力駆動建設用ゴーレム選定のための性能実証試験を始めます」


 部下が横から抱きかかえる大きな円錐形の筒に向かって、白髪の王政府国土開発局の次長が笑顔で開会を宣言する。


 工事現場全体に響く声は『音声拡張魔法(メガホニア)』が仕込まれた魔法道具によるものだ。

 主催者が挨拶を終えると、まばらな拍手が聞こえてきた。

 工事現場を「貸した」形になる現場責任者は、あきらかに早く終わってくれというしかめっ面をしている。現場の土木作業員達は思わぬ休暇が与えられ、気楽な様子で見学を決め込んでいるようだ。


「ヘムペロも勉強のため見ておくといい。これも魔法の一つの可能性だよ」


 俺たちは「来賓席」と書かれた場所に案内され、仮設の天幕(テント)の下に並べられた椅子に腰掛けている。

 プラムとヘムペローザが両脇に。チュウタはプラムの更にとなり。


 一列前の最前列には、ハイエルフの三人娘が並んで座っている。彼女たちはゴーレムには興味が無さそうだが、「殿方は……?」「早く殿方を」「賢者さまに抗議を」などとブツブツ話している。


「あんな大きな人形を動かすなんて、ワシにはできないがにょ」

 切れ長の瞳で二機のゴーレムを眺めながら言う。


「ヘムペローザの使う蔓草の魔法は、成長の途中なら自由に動かせるだろう? 基本はそれに近い感覚さ。土や木などで作った人形を、意のままに動かすのさ」


 それが所謂(いわゆる)『第一世代ゴーレム』という分類だ。古くから、多くの魔法使いが使役した単純な動きをする土人形や木の人形。戦いの際には石や鉄の破片で形成された人形なども使われた。だがそれらは使い捨てで、魔法使いが魔力の供給を止めると分解してしまう。


 目の前で対峙しているのは、ゴーレムの形状を固着。さらには製品化した『第二世代』ゴーレムと呼ばれるものだ。魔力供給無しで形状を保つ人形の鎧に、魔力で駆動する仕組みを仕込んでいる。

 細かな動きをさせたいなら、人が乗って直接操縦してもいい。そのあたりは『第三世代』と呼ばれる機種になるが定義の線引は若干曖昧だ。


 うんちくをたらたらと説明してやると、ヘムペローザは「ふぅん」と頷いた。飲み込みの早さと賢さに関しては相変わらず素晴らしいが、興味の有る無しは横顔でなんとなくわかる。


「でも賢者にょの『フルフル』と『ブルブル』は、外から操っておらぬし。ゴーレムの中に魔法を仕込んでおるんじゃったにょ?」


「その通り。あれらは自律駆動の『第三世代』だな。あとで魔法術式は全部教えてあげるよ」

「いいのかにょ?」

「もちろん。あの魔法工房(マーセナル)のゴーレムに、賢者の弟子として負けたくはないだろう?」


「向こうにはレン兄ぃの()みたいなのが居るしにょ。負けたくはないにょ」

「ははは」


 ナルルを遠目に、むー? と目を細めるヘムペローザ。


「でも、難しそうじゃにょぅ」

「大丈夫。難しくはないが面倒なんだ。たとえばあの魔法工房(マーセナル)では、『記憶石(メモリア)』に制御用の魔法術式を細かく書き込んでいるのさ。『この場合はこう動け』『左足がつまずいたら、左足を素速く持ち上げて前へ』とかな」


「うわ、何万通り書かなきゃならぬにょー」


 呆れ顔をする魔法使いの弟子。そこに気がつくとは流石だな。


「動きをパターン化したらキリがない。完全に自分で判断して動けないから、半自律駆動(セミオート)。あんなふうに人が乗り込んで操縦するほうが早いのさ」


「なるほどにょ」


 戦闘が目的で進化したゴーレムも、平和な時代に成れば仕事をサポートする機能が必要になるだろう。例えば目の前で穴掘りを始める「土木作業用ゴーレム」は、需要次第では開発が加速していく分野かもしれない。


 二台のゴーレムが工事の現場へと向かう。

 軍用のゴーレムを改造した建築用ゴーレム、74式改・ドーザがゴゥン、ゴゥン……とゆっくりと歩いていくと、右足が沈み、ぐらりと姿勢を崩した。


「うぁああ!?」

「ゴルァアア! 穴を崩すんじゃねぇ!」


 ドワーフの作業員達が叫ぶ。


 二足歩行の真鍮製のゴーレムは、骨格が鉄でできているので重い。下水工事用に掘られた作業用の穴を踏み抜いたらしい。


 一方、『忘却希望通(フォガーホプス)』町内会、組合連合の『ケロッ君ワーカ』は四足歩行なので重量が分散されその心配はない。だが、機構が複雑で後でメンテナンスが大変そうだ。

 

 ――無限軌道(クローラー)をつかえばいいのに……。


 って、あれ?

 クローラーってなんだっけ……?

 何かが回るヤツだったような、虫の幼虫の名前だっただろうか。思い出せない。

 何かいいアイデアが思い浮かびそうだったが、記憶の彼方から掘り起こすことはできなかった。アイデアの尻尾はするりと指先から逃げてしまった。


「……穴を掘るだけなら、賢者にょのお得意のワイン樽を回転させて、地面を削ったほうが早いんじゃないかにょ?」

「いきなりいいアイデアだな。あんな大掛かりなゴーレムを用意した彼らに聞かれたら申し訳ないくらい」


「にょほほ」


 白い歯を見せてヘムペローザが楽しそうに笑う。

 俺はヘムペローザの師匠なのだから、もっと色々なことを教えていかなければならないだろう。


 ヘムペローザが魔法使いとして生きていく上で困らないように、しっかりと自立して生きていけるように。


 お気楽な様子で座っているハイエルフ三人娘。彼女たちのおかげで、切実にそう思うようになっている自分に気がついた。


 そういう意味ではこの三人娘に感謝……だな。

 

 と、プラムが反対側から俺の袖をちょんと引いた。ヘムペローザとばかり話していて、プラムのほうを向いていなかった。寂しがりやさんめ。


「ググレさまー、どの髪型が好きなのですー?」


 ひそっと小声で、プラムが前の三人娘に視線を向ける。


「え? あ、いや、別にうーん?」


「今、前のエルフさんたちをじーっと見て、ニヤッとしていたですしー」


「そういうんじゃないよ、感謝! 感謝の気持ちを感じたんだよ……」

「そうですー? エルフさんたちの髪はすごい綺麗ですしー」

「あぁ……まぁそうだな」


 アレーゼルのウェーブしたロングヘアーもお姫さまみたいで、いい感じだ。、

 エフィルテュスのセミロングのストレートは、ちょっとレントミアっぽい。

 カレナドミアの男前な感じのベリーショートは、首筋がちょっと色っぽい。


「アレーゼル。何か(よこしま)な視線がどこからか」

「エフィルテュス、背後からでは……?」

「魔眼なら破壊すべきかしら?」


 慌ててプラムの顔に視線を戻す。

「プ、プラムのポニーテールが一番好きだな」

「相変わらずお上手ですねー……」


 仕事中に余計な事を考えると、ロクなことにならない予感がする。


 と、その時。


 ゴゥン……と、穴に右足を取られ、早速動きを止めた軍用ゴーレムのハッチが開いた。中から操術師が上半身を出して、苛立たしげに叫ぶ。


「おい主催者ァ! 向こうと条件が違うんじゃねぇか!? 整備兵! 泥濘地用の脚底部パーツを用意してないのか!」


 それは、ハイエルフの操術師だった。メタノシュタット王国軍魔法兵団所属の軍人か。

 ヘルムを外すと、青っぽい髪をオールバックにしている。軍人らしくビシッとした表情をしている。


 だが、今まで出会った穏やかな男性たちとは一転、傲慢で嫌な感じのする男だった。


「まぁ、殿方ですわ」

「ゴーレムの中に!?」

「素敵、荒々しい殿方」


 だが、三人娘の印象はそこそこのようだ。


「あ、ああいうのが好みかよ……」


<つづく>


【作者より】

既にご存知の読者さまも多いと思いますが、

第六回ネット小説大賞にて本作も一次選考を通過しました。今回は『賢者ググレカス』のほかに『異世界ナマハゲ』『社用車がチートでした』の三本が同時に一次選考通過しました★


これもすべて皆様に応援いただいたおかげです!

というわけで、記念に久しぶりにイラストを描きました。


挿絵(By みてみん)


いわゆる『きららジャンプ』wというワンシーンですw

萌えアニメなどのOPでよくあるアレですね。


何か適当なOPにあわせて脳内変換してださいね!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ