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  秋の良き日、案内役を請け負う

 ◇


 朝から清々しい秋晴れの空が広がっている。

 風はほとんど無く、涼しくて心地よい。


 とはいえ、気分はあまりすぐれない。


 ――()エルフ探しなんて気が重いなぁ……。


 今日の目的は、3人のハイエルフの娘達の婿探索(・・・)だ。

 ヴィルシュタイン家の方で馬車などは手配してくれるらしいので、案内役として付き合うことになる。


「美味しい朝露がありましたわ。今朝のは、少し秋の味がしました」

「朝露に味の違いがあるとは驚きだ」

「妖精グルメとして本を書ける気がします」

「それは楽しみだ」

 上機嫌な妖精メティウスがひらひらと空中を舞う。俺は賢者のマントを羽織り、身支度を整えた。


「エルフ三人娘と王都の街を散策し、エルフの男性を探すのさ……なんて口に出すと、俺は何やってるんだと思うね」


 靴紐を結びながらため息をつく。


「くすくす。賢者様も大変ですこと」

「ま、仕事があるだけいいか」


 昨夜、寝る前に仕込みは済ませてある。


 王都の住民記録簿を『検索魔法(グゴール)』でちょいと検索。周辺の村まで合わせれば、人口規模は三百万人ともいわれるメタノシュタット王都圏内(・・・・)で、数十人ばかりのハイエルフの男性が暮らしているようだ。


 本来は王政府に名簿の調査を申請しなければならないが、ここはここはスヌーヴェル姫の勅命で調べたことにする。名簿の調査も『検索魔法』ならば数分だ。賢者を引退して台帳管理の仕事なら楽だろう。

 何よりも役人仕事に任せていたら数日、いや翌月になるだろう。


「めぼしい殿方はいらっしゃいましたか?」

「なんだか俺が男を探してるみたいで嫌だなぁ。まぁ、いたよ何人か」


 書類の一次選考で数十人をピックアップ。殆どが何かしらの職についており王都の住民票もある。軍属として働いている者。貴族のお抱え魔法使いになっている者。フリーランスとして魔法協会に在籍している者、薬師として生計を立てている者……など、職業はさまざまだ。


 とはいえ人口規模から見ればハイエルフ種族はかなり少ないと言わざるをえない。


 戦術情報表示(タクティクス)で魔法の小窓(ウィンドゥ)に検索済みのリストを並べ、対象者を見てゆくが、条件に合わない人物が多い。


「あら、結婚されていらっしゃいますわね」


 妖精メティウスが眉を持ち上げる。


「殆どは妻帯者(・・・)か。しかも普通に人間の女性と結婚したり、ハーフエルフ女性と結婚したりしているな」

「あの三人が聞いたら悔しがりそうですわね」


「いや、怒るだろ。民族の誇りはどこへ! ってな」


 いずれにせよ、結婚しているのだから対象外となる。


 独身のハイエルフ男性で一人暮らしを探すと数人は絞り込めた。職業は魔法使いや魔法工房勤めの職人やら。


「まぁ、いきなり尋ねて行くのも不自然だから、上手く三人娘を誘導していくか」

「出会いを演出されるのですか?」

「近くまで連れていけば、あとは魔力波動を感じて勝手に見つけるだろ」


 プロの探偵にでも頼めばいいのにと思うが、姫殿下のお墨付きの仕事ともなれば仕方ない。

 世間知らずの3人娘だけで街をブラブラさせて、危ない目にも合わせられない。ここはもう観光案内と割り切ることにする。


「そこで、今日は助手を連れて行くことになった」


 賢者のマントを颯爽と羽織り、髪をサッとキメる。

 王国の賢者として外を出歩くのだから、それなりの格好をしなければならない。


 身支度を整えた俺は館の玄関を出て、今日の相棒たちを手招きする。


「ワシらも一緒でいいのかにょ」

「お仕事なのですかー?」


 今日は学舎も休みだということで、付き合ってもらうことにしたのはヘムペローザとプラムだ。


「今日は一応仕事だから、お小遣いもあげるぞ」


「それは嬉しいにょ!」

「欲しい髪飾りもありましたしねー」


 黒髪の毛先を気にしながらあくびをするヘムペローザは、青いワンピースに白いカーディガンを羽織っている。肩には小さなお出かけ用のポシェットをぶら下げている。

 プラムはピンクのパーカに、動きやすそうなミニのフレアスカート。そして黒のニーハイソックスで脚が細く見える。


 本当はレントミアに来て欲しいのだが、あの三人娘が相手ということで、「ゴメンネ無理。ほんとにごめん」と固辞されてしまった。


「魔法使いの弟子に、賢者の助手として付き合ってくれよな。むしろ一緒にいてくれ……。お前らがいてくれるといろいろと気が楽だよ」


「にょほほ、しょうがないにょー」


 とはいえ、ダークエルフの血が混じるヘムペローザを見て、どんな反応をするだろうかという心配もある。

 侮辱的な事を言うようなら、ちゃんと躾けてやるつもりだが。


「あ、来たですよー」


 と、プラムが指差す道の向こうから、1台の馬車がやってきた。


 ヴィルシュタイン家の紋章がついた、立派な黒塗りの馬車。それも白馬で二頭立てだ。


「貴族の馬車じゃにょー」

「ウチも客車だけでもピカピカの黒塗りにしようかな……」


 御者は白髪の紳士、確か執事長のナントカさんだ。リオラを妙に気に入っているというか、ライバル視しているような気がしないでもない。


 見事な腕前で馬車を実に静かに停車させると、無駄のない身のこなしで降りてきて一礼。客室(キャビン)への足台を置く。


「賢者ググレカス様、お待たせして申し訳ございません。本日は当家の大切なゲストとして迎えたお嬢様たちの案内役を快く引き受けて頂き、当家の主に代わり御礼申し上げます」


 ヴィルシュタイン家のゲスト扱いなのか。チュウタは大丈夫だっただろうか……。


 深々と礼をして、客室のドアを開けた。

 中には例のエルフの三人娘がすまし顔で乗っていた。俺達を見て、ちょっと微笑んでヒラヒラと小さく手を振る。既に数少ない「顔見知り」として親しみを込めてくれたようだ。

 両脇に居るヘムペローザとプラムを見て、「娘さん?」「養子?」「お弟子さん?」と口々に言っている。まぁ自己紹介はこの後か。


「……ご機嫌麗しゅう、可憐な花のようなお嬢様たち。このような良き日に一緒できるとは光栄です。私もご案内できることを楽しみにしておりました。今日はよろしくお願いします」


「社交辞令の勉強になるにょー」

「ですねー」

「ばっ、しーっ!」


<つづく>


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