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 純血ハイエルフの一族


「レントミアさま、どういうことでございますか?」

「今、お嫁さんになる……と聞こえた気が」

「聞き間違いですわよね?」


 謎の『エルフ族結婚情報誌』を勧めてくる三人娘は、凍てつくような無表情で尋ねてきた。


 麗しい美女たちは全員がハイエルフ。白く透き通るような肌に尖った耳。髪はややグリーンがかった金髪、そして印象的なエメラルドグリーンの瞳。

 

 誰しもが一度見ればその美しさに息を飲むだろう。

 

 だが、性格と中身は少々、難点があるようだ。


「僕はググレと強い絆、友情(ゆーじょー)で結ばれているんだ」


 レントミアは俺に腕を絡ませたまま、もう一度いう。


「確かに友情は深いが、嫁……なのか!?」

「男女ならその流れで結婚しているとおもうけど、僕とググレの間柄はじゃぁなんて呼ぶの? 強い絆で結ばれている。これで間違ってないよね」


 迷いのないまっすぐな瞳で言う。なんとなく良いことを言ったようで、間違っていないような。そんな錯覚に陥るから始末が悪い。


「う、うーむ」


 ビキシ! と周囲の空間がひび割れたような音がした。


 レントミア流の冗談(・・)のつもりだろうか。しかし、真面目そうなハイエルフの娘達には衝撃が大きかったようだ。

 しつこい勧誘を諦めさせる。それがレントミアの狙いだったのかもしれないが、後の祭り。


「なんてこと……!」

「つまり、レントミアさまは」

「この男性と結ばれたいと……!?」


 悲鳴とため息と。次に突き刺すような冷たい視線が俺に向けられる。

 美しい顔には、哀しみと怒り、そして軽蔑さえも浮かんでいる。


「誤解だ! 俺とレントミアは確かに強い絆で結ばれている! だがそれは魔法の師弟関係だからであって。師匠と弟子は強い絆なくして魔法の真髄を極められない! それは魔法に詳しいエルフ族である君らにもわかるだろう?」


 出会った最初のころは、確かに恋愛的な感情を抱いていた事も事実だ。だってレントミアのことを「女の子」だと思っていた時期もあったのだから。うむ……懐かしいな。


「概ね間違っておりませんわよねぇ」

「だよね。だいたい合ってるでしょ」


「うぉい!?」

 妖精メティウスが余計な援護射撃を放つ。


「ま、そゆことだから。僕は今のままで幸せなの。帰って帰って」


 レントミアはこれにて一件落着。このエルフ娘達が諦めて帰ると思ったのだろう。


 だが、やはりというかなんというか。彼女たちの行き場のない憤りの矛先はこちらに向き始めた。

 

 一人は唇を震わせて、一人は両手の拳を胸の前で強く握りしめる。


「エルフ社会から男性が減って幾星霜。元凶がここにあったとは」

「これでは少子化が止まらないのも無理はありません」

「私達の未来を奪おうというのですか」


「え、ぇ!?」


「賢者さまが男性すら魅惑するとは思いませんでした」

「返してください。私達の未来を……希望を」

「レントミアさまは優秀なハイエルフの血脈」


 魔法を生まれながらにその身に宿すハイエルフ。その精神的な波動に感応し、周囲の森の木々がざわめき始めた。

 小鳥が逃げ出し、湖面にさざ波が立つ。


「お、落ち着きなさい。話を……そうだ、話をしよう。まずは対話が重要だ。その、なぜ、そんなに優秀な男性が、レントミアが必要なんだ?」


 メガネを指先で持ち上げて、冷静さを装いながらまずは話を聞く。

 ついでに、レントミアの細い首を手でガッとつかんで、引き剥がす。


 流石に相手も興奮しすぎたと思ったのか、一呼吸。


「すみません、つい興奮してしまいました」

「そういえばまだ……」

「名乗っておりませんでした」


 一礼をすると、三人娘は名を名乗った。


 リーダー格のウェーブしたロングヘアー娘が、アレーゼル。

 可憐なセミロングのストレート娘が、エフィルテュス。

 男前な感じのベリーショート娘が、カレナドミア。

 

 エルフらしい良い響きの名だ。エルフ語でそれぞれ意味があるらしい。ちなみに顔は三人共美形ぞろいで特徴が無いので、髪型で見分けることにする。


「ハイエルフはとても長寿です」

「私たちに言い寄る人間の男性も数多い」


 エフィルテュスが嫌悪感も露わに言う。


「私たちは優れた純血種。血の(けが)れは、種の弱体化への道」


「穢れとは言い過ぎでは? 混血のハーフエルフを全て否定することになる」

「そう。わたしたち純血の一族からみれば、全て劣等種です」


「……貴女がたは純血かも知れないが、歪んでいる」


 思わず俺は反論してしまう。


 メタノシュタット王国を始め、世界中でレントミアのようなハーフエルフが多く暮らしている。それにヘムペローザや魔法工房で働くナルルのような、「クォーターエルフ」と呼ばれる人間側の血が濃い人も普通にいる。

 俺の大事なヘムペローザを侮辱するのと同じことだ。話しにならないのであれば、やはりお帰りいただくしか無いだろう。


 だが、彼女たちに俺の言葉はあまり理解できなかったようだ。


 カレナドリアは小首をかしげながら「何を言っているの?」という怪訝な表情をつくる。


「歪んでなどおりません。私達こそ世界創生と同時に、創造主により造られし神聖な種族。神に愛されし、祝福を受けた種族(わたしたち)。だからこそ、これほど長命であり、頭脳明晰で、魔法の力にも富んでいるのですわ」


 アレーゼルは天を仰ぎ見ると、熱に浮かされたような瞳で語る。


「まぁ、なんだか怖いですわ」

 妖精メティウス肩に腰掛けて首をすくめる。


「君たちの言うとおりなら、レントミアだって穢れたハーフエルフだが?」


「いえ、レントミアさまの出自は調査済みですわ。私達の族長、古きハイエルフの血を引く由緒正しきレントリア・アーデルハイン家の血が……。人間の血が多少混じっていたとは言え、そちらも西のはずれの古き王国の王子だったと。ならば問題はありませんわ」


「だからこそ優秀な魔法使いとして、この()しき王国で認められているのでしょうし」

「お喜びください。ぎりぎり私達の基準の範囲内ですの」


 ニコリと微笑んでレントミアに手を差し向ける。


「僕を……村外れの、病人と老人だけの家の前に捨てて、今更よくいうよ」


 レントミアは敵でも睨めつけるかのような表情で言い放った。

 それは、初めて明かした悲惨な幼少期のことだった。


 俺はレントミアの肩に手をおいて、一歩前に進み出た。


「話をこれ以上もう聞く必要も無さそうだ。お引き取りいただけませんか?」


 さて、どうやって追い払おうか。


<つづく>


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