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 イオラ、貴族に絡まれる【前編】

※今回はイオラくん視点です。


 ◆


 振り返ると、館の庭先で家族たちが手を振っていた。


「イオ兄ぃ、元気でねー」


 大きく弧を描くように手を振っているのは、緋色の髪が綺麗なプラム、そして妹のようなラーナ。

 それに、最愛の双子の妹、リオラだ。


 三日月池を渡る風を感じながら、息を吸い込んで。イオラはおおきく手を振りかえした。


「じゃぁな! みんな! また!」


 後はもう、振り返らないことにする。


 思い出深い「第二の実家」で過ごした日々が、色鮮やかに蘇る。

 賢者と称されるほど、特殊で最強の魔法使いであるググレカス――ぐっさん。同じく最強の呼び声高いレントミアさんに、剣術の師匠のルゥローニィ。

 もちろん、妹のリオラや、憧れのマニュフェルノ夫人も忘れてはならない。それに楽しい兄妹であるプラムやラーナ、ヘムペローザとの日常も。


 三日月池の波紋に視線を向けると、館が鏡のような湖面に映っていた。白い雲がゆっくりと動いてゆく。

 青空と赤い瓦屋根の館を懐かしむように眺めると、広い芝生の庭先には色鮮やかな薔薇が咲き誇っていた。

 ――『賢者の館』と人々が親しみを込めて呼ぶその屋敷は、王侯貴族たちの成金趣味とは程遠い。質素で簡素な造りは味わい深く、築年数を越えた味わいと深い趣が感じられる。


 それは館の(あるじ)である賢者ググレカスの、深い知恵と、謙虚で飾らない人柄が滲み出ていると言ってもいいだろう。


 屋敷を囲む美しい庭と周囲の緑との調和もまたすばらしい。三日月池まで含めれば、まるで一枚の絵画のように美しく、いつまでも眺めていたい程だ。

 この景観を作り上げたのはググレカスの愛妻、マニュフェルノの努力によるものだ。

 薔薇に愛情を込め、風に揺れる柔らかな風合いのハーブや小花を育てたのは、趣味と実益を兼ねているという。僧侶系の魔法使いであり、治療薬の材料にするためでもあるらしい。


 いろいろな思い出にこれ以上浸っていると、別れが辛くなる。

 イオラは意を決し、再び歩き出した。


 ――ティバラギーに帰ろう。


 湖面を左手に眺めながら王城裏公園を進んでいくと、絵画のような風景の湖面を、小さな手漕ぎのボートが滑るように動いていた。

 

 池に波紋を生じさせているのは、その小舟だったようだ。

 見れば、品のいいドレスを着た少女二人が、赤毛の少年(おそらくは小間使いだろう)に指示を出している。


「ほらチュウタ、もっと速くお漕ぎなさい!」

「やってますよ、イスタリア姉さま、静かにしてください」

「あまり速いと怖いですチュウ兄ぃ……」

「ごめんねルミナリア、怖かったら僕に掴まってて」


「な、何よその違いは!?」

 イスタリア姉様と呼ばれた少女が立ち上がると、舟がぐらりと揺れた。


「きゃぁ!?」

「立たないで、危ない!」


 どうやらキーキー叫んでいるのが姉、大人しい方が妹。赤毛の少年は弟らしい。

 

「貴族の遊びって優雅だなぁ……」

 

 イオラは貴族の遊び――手こぎボートの珍しさを眺めながら歩き出そうとした。


「そこの君、おまちなさい!」


「……え? 俺?」


 ボートの上の縦巻きロールの金髪少女が自分に声をかけているようだ。

 

 思わず立ち止まり、訝しげに目を細める。見覚えのない3人組だが、明らかにボートは岸辺へと近づいてくる。


「そう! 賢者様の庭先で……剣の稽古をしていた君よ!」


<つづく>


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