イオラの部屋と寝台(ベッド)の裏
テーブルに並んだ料理を、香油ランプの柔らかな炎が照らしている。
「これも美味いぜ、リオ」
「あ、そう? よかったね」
リオラの料理をイオラが美味しそうに食べる。けれどリオラはそっけない顔で眉を持ち上げる。
仲良しだった兄妹の再会だが、二人は照れているのか遠慮気味に思える。
ティバラギー村からの土産のジャガイモと、ルーデンス産のベーコン。ご当地グルメ的なリオラ作の炒め物を、イオラはあっというまに平らげた。
「もっとはしゃいでいいのに……」
俺は晩酌にワインをちびりと舐めながらつぶやいた。
ウチに来たころのイオラとリオラみたいに、きゃっきゃとじゃれあうシーンが見たかったのだが。
するとマニュフェルノが何かを思いついたようだ。顎を指先で撫でながら、むふふと微笑む。
「今夜。イオくんは、リオっちのお部屋に泊まればいいじゃない? 積もる話もあるだろうし」
「名案だマニュ」
「いっ!?」
「いやです! べ、別に二人で語り合うほどの事、無いです」
「無いのかよ!?」
「無いわよ」
「うぅ……」
マニュフェルノの提案にリオラは即時否定。
けれど一瞬、イオラが凄く嬉しそうな表情を浮かべたことを、俺とマニュフェルノは見逃さなかった。
残念そうだが、すぐにクールな顔に戻ったのは、成長の証だろうか。
二人のやりとりに、ちょっと昔に戻ったみたいな気分になる。
「まぁ冗談はさておき、今夜は一階のゲストルームかな」
そこはエルゴノートとかファリアとかが泊まっていた部屋だ。綺麗な寝台と机、ゲスト用の調度品も置いてある。
「えっ? 俺の部屋は無いの?」
イオラは少しガッカリしたように鳶色の瞳を丸くする。
「にょほ、ワシとプラムにょで使っておるにょ!」
「リオ姉ぇの部屋の隣ですよー」
ヘムペローザとプラムが、デザートのフルーツを頬張りながら小さく手を挙げた。
早生のブドウは酸っぱいらしく、眉間にちいさくシワを寄せる。
「そ、そうか。へぇ……」
イオラがなんだか妙な笑いを浮かべている。
「大丈夫にょ、イオ兄ぃの使っていたシーツや毛布は、三日三晩天日と寒風で消毒したからにょー」
「もう全然平気ですよー」
手をひらひらさせながら、二人は「ごしんぱいなくー」という風に笑う。
「何がもう大丈夫だって!? くさくねーだろ」
「にょほほ、今は二人の女子部屋じゃからにょ」
「いい匂いになりましたですしー」
「うぉい!?」
顔を見合わせるプラムとヘムペローザ。イオ兄ぃをからかうのが実に上手くなった。
イオラがまんまとのせられて顔を赤くする。
「ははは、男子は多少臭いときもあるのだ」
「そうでござる」
一応、俺とルゥローニィが援護する。
「微笑。イオくんは男の子ですから。しょうがないですよ……寝台の下とか」
だが、マニュフェルノがメガネを光らせてボソリと言うと、ガターンと音を立ててイオラが椅子から立ち上がった。
「――は!?」
何か「寝台の下」に心当たりでもあるのだろうか?
「どうしたのよイオ」
リオラがじぃと半眼で兄に視線を向ける。
「いやいや! ちゃんと処分し……ハッ!?」
そこで目をひん剥いて、自分が罠にかけられたことを悟るイオラ。
「誘導。ひっかかりましたね」
「何を隠していたのデース?」
「イオ、白状なさい!」
「薄い本ですー?」
「しっ、見なかった事にするにょ」
「ちょ!? 嘘だろ!? 何も隠してねぇよ!?」
「そのへんで勘弁してやれよ!」
「そうでござる!」
「……男子の結束は固いっスねぇ」
援護に回る俺とルゥローニィに、頬杖をついたスピアルノが苦笑し鼻を鳴らす。
だが俺は知っている。
元イオラの部屋の寝台の裏側には、お宝本が何冊かあったことを。
まぁ俺が昔、街の古本屋で買ったものだが。
イオラは気がついていたのだろうか?
ちなみにタイトルは内緒だ。
<つづく>




