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 イオラの里帰りと、賑やかな夜

 ◇


 イオラの里帰りはちょっとしたサプライズとなった。


 賢者の館を旅立ち、顔を見なくなってもうすぐ一年になる……と思ったが、違う。実は2ヶ月ほど前にティバラギー村で再会を果たしていた。元気でやっている様子を館の全員が知っていたわけだ。

 あの時はルーデンスへの旅の途中。ティバラギー村へ立ち寄った時は仕事だったのであまり話ができなかった。だが、村でイオラの様子を見た限りでは「心配ない」と思ったのも事実だ。


「沢山。こんなにお芋を頂いて嬉しいわ。けれど、イオくん……大丈夫?」


 山積みのジャガイモの袋を見てマニュフェルノが笑みを浮かべつつも、心配そうに小首を傾げる。


 お土産だと言って馬車の荷台から降ろしたジャガイモは、家族がひと冬越せそうな量だった。

 ハルア家の居候、いや実際は婿養子候補(・・・・・)だ。それを(かんが)みれば、婿入りの支度金にも思えなくもないが……。


「大丈夫だよマニュさん。ハルアん()で育てたジャガイモを、オレの賃金(・・)でちゃんと買ったんだからさ」


 と、イオラが胸を張る。ちゃんとフィノボッチ村で世話になったセシリーさんのお宅にもお礼をしてきたのだというから驚きだ。


「そうか、なるほどな。ありとうイオラ。ありがたく頂くよ」

「うん! たべてくれよな」


 礼を言ってジャガイモを袋から取り出してみると、丸々と大きくて形もいい。実に見事なティバラギー産のジャガイモだ。


「リオラとお世話になったお礼……にしちゃ足りないかもだけど、気持ちだけ」

「イオってば、大人みたい」

「うるせー」

 リオラが軽やかに笑い、安堵の混じる眼差しを向ける。


「大人みたいなことを言うようになったな、イオラ」

「成長。イオラくん大きくなったわね」

 俺とマニュフェルノが手放しで褒めると、照れくさそうだ。

「いやぁそれほどでも」

「抱擁。よしよし、おかえりなさい」

「う、わ、あ……」

 マニュフェルノが優しくハグをすると、デレデレになるイオラ。

「イオ……嬉しそうね」


「それにしても律儀だなぁ……。婿養子(・・・)なんだから、わざわざ買わなくても」

「む、婿養子!? オレはそういうんじゃなくて、その……」

「その、なんだ?」

「い、居候……」

「おいおい? 冗談はよせ。まさか、その……なにもないのか?」

「なにもって、何だよ」


 顔を赤くしてしどろもどろ。イオラとハルア。二人の仲が進展しているのか、とても気になる。

 それはマニュフェルノもリオラも同じようだ。ギラッと視線を鋭くし、互いに頷くと俺に視線を向た。どうやら一番訊きたいところらしい。


「で、ハルアちゃんはどうしたんだ? 今日は一人で来たのか」


「え? あぁ、ハルは今日は家で留守番だよ。ちょっと体調が悪くて」


 マニュフェルノがハッとして丸メガネを光らせ、リオラが「まさか!?」という顔で一歩下がる。


「懐妊。おめでとう!」

「イオ……」


「ちょ!? な、何勘違いしてんだよ!? 違うよ、ハルアはカゼだよ、ホントに!」


「おめでとう、パパ」

「リオ、何言ってんだよ!?」

「村の復興に貢献してるのね」

 イオラが「え!? え!?」と目を白黒させると、リオラが無表情でパチパチと拍手を送る。双子の兄妹の愉快なやりとりを久々に見た気がする。


「照れなくていい。大丈夫、俺はイオラの気持ちを理解するよ」

「ぐっさんまで!?」


祝福(フェス)。今夜はお祝いしましょう」

「泊まっていくんだろ? 遠慮するな」

「楽しい話を聞かせてほしいでござる。村を護った冒険の話とか」


「うん……!」


 俺とルゥローニィは両側からイオラの肩をガッシリとと掴んで、館へと連行した。


 ◇


 夕飯のメニューはベーコンとジャガイモのスープ、ジャガイモの細切りフライ、マッシュポテト……とまぁ、ジャガイモづくしになった。


 香油ランプの暖かな明かりに、リビングダイニングに賑やかな笑い声が響く。


「イオ兄ぃの育てたジャガイモですかー」

「まぁ、フライドポテトは好きじゃし」


 プラムとヘムペローザは美味しい料理にご満悦だ。


「農作業も慣れると楽しくてさ。それに、害獣退治とか、結構いろいろあったんだよ」


「うむ、詳しく聞かせてくれないか? みんなイオラの話を聞きたがっている」


 みんながイオラに注目する。そしてイオラの膝の上にはラーナが座っている。緋色の髪の幼子は、べったりで一番喜んでいるようだ。


「そうだなぁ……何から話そうか」


「ふむふむ、なるほどデース」

『ヤー』

 気がつくとラーナが、手のひらにピンク色のスライムを乗せていた。それは、旅立つときにイオラに託した「分身」のラナ子だった。さっきからラーナは、ラナ子と額を合わせて何やら会話しているようにも見えた。いや、通信と言うべきか?


「ラーナ、何をしているんだ?」


 恐る恐る尋ねてみると、にこりと可愛らしく微笑む。


「ラナ子に聞いていたのデース。イオラの冒険のお話を少しお先に」


「分身とは常時、話ができるんじゃないのか?」

「流石にそこまでは無理デース。お母様なら出来るとおもいますデスが」


「そ、そうか。凄いなラーナは」

「はいなのデース」


 何気に恐ろしい力を発揮している幼子に思わず苦笑するしかない。


 無邪気なラーナを見ていると忘れそうになるが、ラーナのお母様とはつまり『原初流動体(プロメテア)(ドロップ)女王(・・)』だ。

 超空間スライムネットワークによる全個体の情報共有――。原初的な生命体だと思っていたスライムに秘められた、時間と空間を超越する力の一端が今、目の前で展開されているのだから。


「ぼ、冒険はいいけど、プライベートは勘弁してくれよな!?」


「……個人じょーほーは保護するデース。んー? 意味の分からない部分もあるのデース……」

「ッ!?」


 イオラが少し青ざめつつ、膝の上の幼女の身体を抱きしめた。


<つづく>


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