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 再会とルゥローニィの稽古

【作者よりのご挨拶】

 新年あけましておめでとうございます。

 賢者ググレカスも今年で6年目を迎えます。

 長い長いご愛顧を頂き、読者様には感謝の気持ちでいっぱいです。

 ここまで続けてこれたのも、ひとえに読者様から様々な応援があったからこそです。

 物語は今年、ある「節目」を迎えることになると思いますが、お付き合いいただければ幸いです。

 (※節目 =第一部完?w なろう坂END?w)


 ◇



 ◇

 

 涼しい風が夏の終わりを思わせる。


 本を小脇に抱えたプラムとヘムペローザとの帰り道。おしゃべりに興じる二人の歩く速度に合わせ、ゆっくりと進んでゆく。


 気がつくと三日月池の湖面にはオレンジ色の空が映り込んでいた。黒い影が横切るのに気がついて空を見上げる。数騎の飛竜(ワイバーン)が羽を広げ、王城への着陸態勢へと移行していた。勇壮なシルエットは王都防衛を担う空中騎士団だ。


「ラーナとマニュ姉ぇは、先に帰ったのですよね?」


 夕焼けの空を見上げながら、二人を気遣うプラム。


「大丈夫、ちゃんと家にいると思うよ」


 逐一みんなの居場所を把握しているわけではない。だが『賢者の館』に常時展開している結界の一つが、30分ほど前に二人の帰宅を検知し、知らせてくれていた。

 ルゥローニィの駆る馬車も帰っているらしい。館では夕飯の支度を始めているころだろう。


「ベーコンを買うって言ってましたけど、今夜のご飯は何ですかねー?」

「薄切りのベーコンと野菜の炒め物は好きじゃにょ」

「ベーコンは分厚いまま食べたいですけどー」

「うむ、俺はトマト味の温かい煮込みが食いたいな」


 三人で晩ごはんの事をあれこれ話しながら歩いていると、腹が減ってきた。


 やがて赤い瓦屋根が見えてきた。賢者の館はは湖面からの夕焼けの照り返しで輝いていた。

 

 館の方から軽快な音が響いてくることに気がついた。


「……ん?」

「庭でルゥ兄ぃが誰かと剣術をしてますねー」

「剣術、一体誰と……」


 ときにリズミカルで、まるでダンスのリズムのようだ。

 プラムの言うとおり、カコ、カコッ! と軽快な響きは木剣での稽古らしい。とはいえ、館には今剣術の相手をする者は居ない。スピアルノがたまにじゃれて遊んでいるが、そういう感じでもない。

 剣術ならば、もしかしてチュウタだろうか?


 足を早めて近づくと、肩ほどの高さの石積みの塀越しに庭先の様子が窺えた。ガレージ横に見慣れない荷馬車が居て、馬は少し離れた裏庭で草をはんでいる。


 庭先の芝生では、二人が剣術の稽古をしているのが見えた。周囲ではリオラやスピアルノ、その子どもたちが見学しているようだ。


 猫耳の剣士ルゥローニィが剣を振るう。紺色の道着から伸びる腕は細く見えるが、しなやかに動く筋肉の塊だ。横一文字に放ったルゥローニィの木剣を、同じ木剣で気合とともに受け止めた。

 その相手を見て思わず声を上げる。


「イオ兄ぃにょ!?」

「イオ兄ぃですねー!」

「ほんとだ、イオラだ!?」

 リオラと同じ色の栗毛、少し日焼けした顔。ルゥローニィと同じぐらいの背格好。以前より体つきが、がっしりとしたように見えた。だが間違えるはずもなく、イオラだった。


「里帰りしてきたのか!」


 リオラやルゥローニィ一家は今日、フィノボッチ村に買い出しに行っていたはずだ。

 もしかすると偶然に再会したのだろうか。


「はっ!」

 ルゥローニィが放った横薙ぎの剣技を、切っ先を下に向けた木剣で受け止めるイオラ。

 対処の難しい横からの一撃を、木剣同士がぶつかると同時に、上に跳ね上げるようにして弾き返す。剣術の大先輩に対してパワーで負けていない。


「――!」

「たあっ!」


 ルゥローニィの木剣を弾くと同時に、イオラは気合一閃。一歩前へと踏み込んだ。腕が跳ね上げられたルゥローニィの胴体めがけ、木剣を繰り出す。

 次の瞬間、硬い衝突音が耳朶を打った。


 ――入った!?


 素人目にはそう見えたが、ルゥローニィは僅かに半歩後ろに下がり、剣を受け止めていた。跳ね上げられていた木を瞬時に半回転。逆手に持ち替えてイオラが繰り出した剣撃を受け止めたのだ。


 イオラは一撃をルゥに入れることは出来なかったが、剣を受け止めて押し負けなかった。以前なら受け流すか、後ろへと跳ねて避けていたように思う。

 剣術については詳しくはないが、成長の証というやつだろうか。


 イオラは一礼をしながら剣を収めた。ルゥローニィも一礼して構えを解くと、緊迫した二人の表情が緩んだ。

「っくそ、やっぱ無理かぁ……」

「今のは良い一撃でござったよ!」


「ありがとうございました、ルゥ師匠」

「にゃは、おかえりでござる、イオラ」


 上に向けた手の平同士を熱く掴み、握手。


「すごいにゃー」

「おにーさんだれー?」

「リオ姉ぇににてるー」

「だからイオニーだってー」

 ルゥの四つ子たちがドドドとイオラに飛びついてまとわりつく。


「うわ!? ははは、なんだかめっちゃ大きくなってない!?」


 俺はそこでプラムとヘムペローザと共に庭先へ足を踏み入れた。


「おかえり、イオラ」

「ぐっさん!」


 イオラが振り返り瞳を輝かせた。


 本当なら感動の再会だが、四つ子たちがガッチリと足元をおさえているので抱きつくわけにもいかないだろう。

 体つきはすこし大人っぽくなったが、はにかんだ笑顔は少年のまま。思わず懐かしさがこみ上げる。

「久しぶりだなイオラ、元気そうで何よりだ。今日はどうしたんだ?」


「ぐぅ兄ぃさん、フィノボッチ村で偶然に再会したんですよ。セシリーさんのところにご挨拶にお伺いしたとき、イオラも来て……そこで」

 するとリオラが笑顔で教えてくれた。リオラもなんだか嬉しそうだ。


「なんと、そうだったのか」


「うん。俺達が育てたジャガイモをさ、セシリーさんのところに持っていったんだ。ささやかなお礼だけど……」


 イオラはガレージに駐めてある荷馬車の方を向く。『陸亀号(グランタートル)』の横に駐車してあるそれは一頭立ての馬車で、荷台には麻袋入りのジャガイモが10袋ほど積んであった。


「ぐっさんやみんなを驚かそうと思ってさ。ジャガイモで」

「ははは! 驚いたよ、おかえり、イオラ」

「うん!」


<つづく>


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