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 亜空間バブル・アブソーバ


『拝聴せよ。ワシの偉大なる知識の一端を、披露してしんぜようぞ!』


 ニセの『賢者の石』の中身(・・)、太古の亡霊が意気揚々と語り始めた。


 コイツの正体はかつてヒカリカミナ湿原に存在した『異界の門』を司るゲートキーパーで、名前はプロキシアン・コーラル。滅んでしまった旧世界、あるいは「別の次元の宇宙」と繋がっていた特殊な場所の「門番」だった……らしい。

 超竜ドラシリア襲来後にゲートは破損し機能していないというが、どこまで信じていいかわからない、眉唾な話ばかりする存在だ。


「ググレ、いいの?」

「こういう場所ならプロキシアン・コーラルが意外と詳しいかもしれないぞ」

「まぁ、そうかもしれないけどさ」


 レントミアは少し心配そうだが、誰もこの場の知識を持っていないのだから、語らせてみるのも面白い。


 検索魔法(グゴール)で調べてみる事も考えたが、文献で見つかったとしてもこの場で突然「ここは実は」と知識を披露するのも怪しすぎる。

 

 事前に「賢者の館」で下調べを行い、最初から知っていましたという風に話を持っていくのなら別だが……。


 兎に角。

 少なくともオートマテリア・ノルアード公爵は、死んでいた目に光を宿している。今も俺の手のひらにある黒い球体を、興味津々で見つめている。


「ググレカス殿、やはり知恵の源とは……その石なのですか?」

「……まぁ否定はしません」


 ノルアード公爵に余裕の笑みで返答する。

 

「それは一体、なんなのです?」

「黒い水晶球、記憶石(メモリア)の一種ズラ?」

「賢者様の持っている品だよ、これは事によると……伝説の……賢者の石?」


 他の三人の魔法使いたちも口々に、驚きの表情を浮かべている。


「ご明察。そう、賢者の石……のようなものだ」


 最後の方はちょっと小声でトーンダウン。


「な、なんと! あの伝説の!?」

「魔法の知恵の源泉! 永遠の命さえ手に入るというヤツズラ!?」

「流石はメタノシュタットを代表する魔法使い、ググレカス。というわけですか」


 興奮の熱が秘密のサロンの中を伝播してゆく。


「様々な冒険を重ねるうち、ある宝物庫で入手したアイテムです」


 レントミア以外全員の表情が、更なる驚きで満たされる。オートマテリア卿も「やはり」という表情で、頷いている。


「……悪霊を封じ込めた監獄ですわ」

 ボソッと首筋で小さな声がした。珍しく辛辣な言葉を発する妖精メティウスだが、コイツが嫌いなので仕方ない。

 指先で妖精の頭を撫で、なだめる。


 そして部屋の中央、テーブルの上に置いてあったカップ皿をひっくり返し、皿の高台に玉を乗せた。


『グゥフフ。我こそが賢者の知恵の源! 忠誠を誓い、余を神と同格に扱うのなら、ここがどんな場所か、哀れにも知らぬ愚昧なる諸兄に、教えてやらんでもな……』


「コホン」


 さっさと喋れ、叩き潰すぞ。……と言う意味でメガネを光らせると、大人しくなった。


『……あ、アー、テステス。拝聴せよ。よいか、まずここは「亜空間バブル・アブソーバ」と呼ばれる一種の緩衝装置じゃ。元々は聖剣戦艦で大地を――世界を切り取った際、次元干渉における重力振動衝撃波を吸収し、分散。船体への衝撃を和らげるために生成した無数の泡状の空間……まぁ、『くっしょん』じゃな』


「珍しくスラスラ喋ってるな!?」

「何言ってるか良くわかんないけど……」

 レントミアが切れ長の瞳を、ぱちくりさせる。


 他の魔法使いたちも呆気に囚われている。

 だが、超竜ドラシリアと聖剣戦艦での決戦を経験している俺は、なんとなく意味を理解できた。

 絶滅に瀕した人類が、聖剣戦艦で「元の世界」を切り取って別の宇宙……世界を作った際に、生じた泡のようなものなのだ。


『これらの泡は、場の状態や情報を保持したまま、極小の空間……亜空間(・・・)として分離。聖剣戦艦の周囲で衝撃波を吸収する役目を帯びて周囲に漂ったのじゃ。その残りが……共にこの世界へと流れ着いたのじゃな』


「何故、そこまで断言できるんだ?」


『余はゲートキーパ。そうした亜空間については知見が、「いんすとーる」されておるのでな。どうだ、尊敬したか? んん?』


 ますます調子にのるプロキシアン・コーラルだが、情報は有益だ。


「で、魂がどうとか、ここに関係はあるのか?」


『……ある。というか、利用価値があった、とでも言うべきか』


「どういう意味だ?」


『この空間は、不安定で消失することもあるが、曖昧さ故、水晶の記憶石(メモリア)に封入した人間の魂と記憶の基本構成情報……80ペタバイトに及ぶ圧縮情報を一時的に解凍、人間の形を成す、原初細胞塊に移し替える作業をするのに好都合……。転用されたのじゃ。確か……今から千年も前の……あぁ、えぇと。聖剣戦艦から……人間を……生み出して……ゴホン』


 途中から声が小さくなり、知識も曖昧になった。


 おそらく得意な亜空間から話題が離れたからだろう。


 だが、少なくともノルアード公爵は完全に陶酔したような表情で「素晴らしい……!」を繰り返している。


 蘇生や転生に通じるかはわからないが、そういった知識へ通じる「何か」を感じる事ができたのだろう。


「……ノルアード公爵。どうですか?」


「あぁ、素晴らしい……こんな、叡智が世界にあったとは……。なんでもいい、私はこの国に協力は惜しまない! この……『賢者の石』を、もう少し知りたい!」


 未知の知恵、異界の叡智。それに触れ、完全に魅入られている。


 懐柔せよ、というのならニセの「賢者の石」はこれ以上無いカードに化けた。


「そうですね、上に……相談してみましょう」


「感謝します! 賢者ググレカス殿!」

 オートマテリア・ノルアード卿は感激した様子で、俺の手を強く握った。


 その手は、生きている人間の熱を確かに帯びていた。


 ◇


<つづく>


次回、章完結!


ですが明日はお休みとなります。

再開は12月11日(月)です。

お楽しみに!


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