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 王都新聞と優しい嘘

【作者よりのお詫び】

時間がなくて昨日は執筆出来ませんでした……。




 朝露に濡れた木々の葉が、朝の光を浴びて輝いている。


 ぱこん! と小気味よく薪を割る音が響く。


「上手くなったでござるね」

「おぅ、一家の主としてこれぐらいは……っと!」


 台の上に立てておいた薪に、斧の先を刺して(くさび)をいれる。その後一度軽く持ち上げると、後は薪と斧の重さにまかせて自然に落としてやる。すると小気味よい音を発し割れる。


「無駄な力は不要」


 次はルゥが割る。力を使わない自然な割り方だ。


 一撃で決まると気持ちいい。斧を振り上げた時の重さに、自分がルーデンス人ではないことを実感しつつ、もう一本割る。


「慣れると苦労しないな」


「剣の道に通じる(ことわり)にござる」

「薪割りしてると剣士になれるのか?」

「動かない相手限定なら、なれるでござる」

「ははは」


 ルゥローニィと二人で薪を割る。猫耳の剣士(サーベリア)は毎朝、剣の鍛錬とは別に薪割りもこなしている。

 俺もこうして薪割りをしているが、イオラが居た頃が懐かしい。


 小さな弟だと思っていた少年が、いつしか大人になり旅立ってゆく……。


 その背中を見送る寂しさと嬉しさは、本当の親ではない俺でも感じることが出来た。

 イオラだけではない。リオラも大人になったし、ヘムペローザやプラムでさえ日々成長している。


 親代わりな俺として、子らと過ごす日々はとても幸せだと感じている。


 だからこそ、ここ数日どうしても「あの男」の事を考えてしまう。


 オートマテリア・ノルアード公爵。彼はストラリア諸侯国リッヒタリア王国の全権大使として、しばらくメタノシュタットに滞在するという。

 動かないご子息と一緒に、だ。


 内務省で共有している情報によると、ギルドの交易関係者や王政府の財務省関係と会合し、公務を続けているという。


 完全に心が壊れてしまったかと思ったが、ご息子の遺体との旅を考えると「心の一部が壊れた」というべきだろうか。こうして紳士的に対応する一面を見るにつけ、ご子息を魔法で蘇らせる事を心の拠り所とし、全てを懸けているのだろう。


 伝説の『賢者の石』を利用しようという腹づもりなら、俺にアプローチを仕掛けてくるはずだ。しかし、あの教会での事件以来、接触してくる様子もない。

 何にせよ、王政府の監視がついている。何かあれば知らせが来るだろう。


 その時俺は――『賢者の石』が偽物だと、公爵に告げるべきだろうか?

 あえて嘘をつきとおし、協力するべきだろうか。


 ゾルダクスザイアンが事実上壊滅し、生命の秘密や魔法の遺物を狙う連中が居なくなった今、『賢者の石』の価値は無いに等しい。

 封じている千年前の悪霊、ゲートキーパーはポンコツで、知識など持っていない。

 

 俺とともに連中の『囮』として活躍することもなくなれば、いよいよ雑談相手にするぐらいしか、使えないだろう。


 告げるべきか、優しい嘘をつくべきか。


 ここは、マニュフェルノに相談してみよう。


「朝食。もうすぐよ」


 マニュフェルノが通りかかった。白いシンプルなワンピース姿で、銀色の髪をいつものゆるふわ編みのおさげにしている。

 片腕にはちいさな(かご)。朝摘みハーブと葉物野菜が入っている。

 庭の畑で育てていたレタスと、スクランブルエッグに混ぜるパセリの一種を収穫していたようだ。


「おぉ、いいね」

「かたじけないでござる」


「新聞。届いてたわよ」

「読むよ、ありがとうマニュ」


 (かご)から丸まった紙の束を取り出す。俺はそれを受け取り、広げてみる。

 検索魔法(グゴール)でも読めなくはないが、本と同じで紙の感触と、インクの香りがいい。

 とりあえずスハーと匂いを嗅ぐ。


「にゃは、それは癖でござる? スッピも食べ物をたまに嗅ぐでござるが」

「スッピのは警戒、俺のは愉悦。ちょっと違うな」

「そ、そうでござるか……」


 俺とルゥは薪割りをやめ、玄関に向けて歩き始めた。


 王都新聞にはこんな見出しが踊っていた。


『テロリスト本拠地へ空爆、正義の鉄槌!』


 ――イスラヴィア州より発射された鉄杭砲は、30分飛翔。ストラリア諸侯国の国境線上にあったとされるテロリストの本拠地に着弾。地上および地下の秘密施設を完全に破壊。民間人の犠牲者は無しと報告されている(略)


 ――ストラリア諸侯国のリッヒタリア王国は「歓迎」の意を示す。ガリアハン王国は反発を強め、イッツブルア皇国は二カ国を批判しつつ、メタノシュタットに親善大使を派遣(略)


 どうやらゾルダクスザイアンは、本拠地とリッヒタリア王国という後ろ盾を失い、事実上「壊滅」したということらしい。

 散々暗躍を繰り返していたが、大国の本気にあっけなく屈した格好だ。


『国王と姫殿下、それぞれのご決断』


 ――王国の最強兵器、鉄杭砲。この発射権限(・・・・)はコーティルト国王陛下とスヌーヴェル姫殿下が持っておられる。しかし、今回の発射をめぐり、ご意見に違いがあったと伝えられている。発射に慎重な主張をした姫殿下に対し、国王陛下は「魔王や超竜同様、脅威は討つべし」と発射を強行した(略)


『世界樹へ専用通路着工を決定。予算承認で研究加速へ』


「……ふむ? いろいろと興味深いな」


<つづく>



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