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 賽(サイ)は投げられた


 ――(ザッ)目標、ゾルダクスザイアン本拠地、人造生命体(ホムンクルス)密造拠点、『千年墓所(・・・・)』!


 暗号化された魔法通信は、『鉄杭砲(・・・)』が起動した事を示唆していた。

 攻撃目標は、王都メタノシュタットで活動を行ったテロ組織、魔法秘密結社ゾルダクスザイアン本拠地だという。最大射程1500キロメルテとも言われる『神威鉄槌砲(カムイキャリバー)』による空爆だ。

 だが、王都メタノシュタットからでは西国ストラリア領内を直接、狙うことは出来ない。そこで西方のイスラヴィア州都、インクラムドにある鉄杭砲を使うのだろう。


 以前盗み見……偶然『検索魔法(グゴール)』で目にした事のある資料によれば、イスラヴィア領内にあった元祖(・・)鉄杭砲(・・・)をメタノシュタット王国が接収。王都近郊にある3基の鉄杭砲と同じ仕様に改装したものだという。


 確かに、そこから狙えば西国ストラリア諸公国の領内は射程内になる。


 俺は眼前に浮かべた魔法の小窓に地図を映し位置関係を確かめた。イスラヴィアの州都(・・)インクラムド――エルゴノートの居る総督府から更に西に、発射施設がある。


「まずいだろ! 『千年墓所』には、ノルアード公爵の御子息の遺体が安置さているんじゃなかったか?」


 そこが鉄杭砲で破壊されたり焼き尽くされたりしたら、公爵は怒り狂うかもしれない。平和的な方向で進んでいた関係改善の話し合いも、全て元の木阿弥(もくあみ)だ。


 公爵が乗った魔法の馬車は、前後を護衛の馬車に挟まれながら、動き始めた。


 今から追いかけて事実を伝えるべきか……。だが、軍事行動の内容を安易に教える訳にはいかないと、思案する。

 その時、妖精メティウスが賢者のマントの襟首の内側から声を上げた。


「賢者ググレカス、落ち着いてくださいませ」

「メティ?」

「ノルアード公爵は確かに、ご子息の遺体を『千年墓所』で魔法の処置を施した……とは、申されていましたが、今もそこにあるとは限りませんわ」


「む、そう言われてみれば」

「ご自分のお屋敷とか、もう少し違う場所とかに移されているのでは?」


 妖精メティウスが思慮深げな眼差しで囁く。確かにその可能性もある。あるいは逆に『千年墓所』でないと保存できないのならそこに安置したままだろうが。


「それと、魔法通信を傍受しているのは私と賢者ググレカスの秘密ではなくて?」

「……そうだな。まずは上手く鉄杭砲発射についての情報を訊き出さねば」


 その後で公爵を追いかけて、必要な対応を取れば良い。だが、カウントダウンは進み、現在は240。残り4分を切るところだ。


 俺は魔法の通信回線を開き、作戦参謀本部を呼び出した。


「あー、もしもし。作戦参謀長フィラガリアさんですか?」


『――(ザッ)ググレカス殿、どうなされた? 今、忙しいのですが』


 作戦中だけあって、冷静で感情の乱れを感じさせない声だった。


「ひとつ、確認なのですが」

『――(ザッ)何でしょうか?』


「一連の王都におけるゾルダクスザイアン一味の行動に対して、王国は何か行動に打って出るのですか? たとえば……報復のような」


『――(ザッ)その点についてググレカス殿がご心配するには及びません。軍事機密ですが、当然然るべき対応をとることになります』


「そうですか。それは国王陛下の厳命なのですか?」


『――(ザッ)無論です。国王陛下及び、王国軍総司令であらせられるギルケス将軍閣下も含めての決定事項です。作戦の詳細はググレカス殿であれば……王国公文書として開示された情報をご覧いただけると思います。スヌーヴェル姫殿下の勅命でもあれば今すぐにでも開示できますが。……では、忙しいのでこれで』


「あ、待ってください! 私はたった今、ゾルダクスザイアンに襲撃された現場にいるんです。近くには西国ストラリアの大使、ノルアード公爵もいます。今の話は、大使の耳には入っているのですか?」


 一瞬だけ沈黙する。発射までのカウントダウンは180。


『――(ザッ)ご心配なく。我が国は無法なテロリストとは違います。正式な事前通告を、ストラリア諸公国に対し、本日づけで通達済みです』


「なんと、そんな事が……! 知りませんでした」


 俺が知らないと言ったことが歓心を買ったようだ。僅かに口調を早める。


『――(ザッ)……まぁ、こうして秘匿回線に堂々と割り込んでくる権利をお持ちの貴殿なら、遅かれ早かれ耳にするでしょう。事態は進行中、申し上げても差し支えのない事項のみですが……、鉄杭砲によるピンポイント空爆を行います。これは覆せない決定事項です』


「本拠地を直接!? 想像したよりもずっと強行措置ですね」


『――攻撃目標はゾルダクスザイアン、つまりテロリストの本拠地。我が国に対する度重なる挑発の代償を支払っていただきます。ですが、国境付近に位置しているので、関係各国への通知を行っています。各国からは多少の反発はありましたが、明確な反対はありませんでした。当然でしょう。なぜなら……ゾルダクスザイアンは国際的なテロ組織ですからね』


「……なるほど、実に巧妙かつ効果的だ。事前攻撃の情報が漏れたら、テロ組織に通じる内通者(・・・)が居るということになりますね」


 万が一ゾルダクスザイアンの本拠地への攻撃が知られた場合、鉄杭砲が今度はストラリア諸公国の首都、王都に向けて放たれることもあり得る、ということだ。

 

 これは完全な「踏み絵」だ。


『――流石は姫殿下の懐刀(ふところがたな)。お話が早い』


 発射までのカウントダウンは120。


「この話を、ノルアード公爵にしても?」


『――構いませんよ。もはや、(サイ)は投げられましたから』


<つづく>



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