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 賢者のやり口と、古の魔法使いたち

 索敵結界(サーティクル)が捉えた反応、それは戦術情報表示(タクティクス)に幾つかの小さな光点として出現した。


 教会に馬並みの速度で接近しつつある青い光は、何故か反応が小さい。


 ――隠密(ステルス)化した特殊部隊か?


 詳細は何も知らされていないが援軍が来たのは間違いなさそうだ。


『――現在、敵勢力は賢者ググレカスに注意が集中している。50秒後に到着予定の戦闘部隊と合流、フォーメーションBにて挟撃せよ』


 短い文字だけの魔法通信が届いた。

 それは、教会脇に停車した軍用馬車で待機中の「魔装特殊急襲部隊(MSAT)」の隊員6人と、教会の正面で魔道士三人と戦闘中の俺に向けたものだった。


 妖精メティウスも無言で頷く。


 現在、街外れの古びた教会を取り囲んでいる敵勢力はおよそ15程。戦闘用の人造生命体(ホムンクルス)どもを率いている数名の魔法使いも居るようだ。

 ゴブリンに似た敵の人造生命体(ホムンクルス)は、目まぐるしく動き回りながら警備兵たちと交戦している。警備兵は素早さに手こずっているのか12体も残っている。


 今は敵の目を引きつける(おとり)として攻撃に耐え、教会内の公爵とエージェント達を護りながら、援軍を待つのが俺の仕事となる。


 主犯格(・・・)と思われる三人は、俺の目の前に居る。


「ならば――倒してしまっても構わんのだろう?」


 ニヤリと分厚い結界の内側から視線を向ける。


「抜かせ若造が、調子に乗るな。それに……時間切れのようじゃ、一気にカタをつけさせてもらうぞぃ、賢者ググレカス!」

「食らって吹き飛びな、ヒョロメガネ!」

「三者同時攻撃であることをお忘れなく」


 ドウッ! と凄まじい勢いで三人が同時に魔法攻撃を仕掛けてきた。


 老魔道士ガードルフハイデルン・ザッハ・リードバーンが、無数の拳を一度後ろに退き、左右に立つ二人の手下が攻撃するのを見計らって一斉に叩き込んできた。


「円輪の刃、味わっていただきます」

 青年貴族風ハーフエルフのノーレシアンが『円輪の刃』を水平に放った。青白い魔法の氷で構成された刃は、回転しながら『賢者の結界』に激突。

「スカァアアーィ! ドリルファイァアアキィイイック!」

 肉弾戦を好みそうな女魔道士カイデルハインは、案の定ジャンプ。高空から放物線を描き、ドリル型の赤い光を右足に励起して回転キックを叩き込んできた。


「きゃぁ!? 賢者ググレカス!」

「ぬ、ぐぅう!?」


 ギュドドド……! バリバリバリ……!

 三人の魔道士の同時攻撃は、流石に結界の耐久限界を超えている。一気に結界が10枚近くも剥ぎ取られ、連鎖的に崩壊してゆく。

 戦術情報表示(タクティクス)に複数同時攻撃の警告が鳴り響く。


 足がズズッと滑り、後方に押し返された。


「流石に凄い威力だ……! だが――ここだッ!」


 全ての魔道士が一斉に技を放った直後。それこそが、最も無防備な瞬間だ。


 俺は視線誘導で戦術情報表示(タクティクス)を操作。老魔道士(ヤツ)が展開しているオレンジ色の魔法円に接続(コネクト)済みの隠蔽型(ステルス)魔力糸(マギワイヤー)を操作した。


 制御を奪い拳のベクトルを捻じ曲げる。


 ギュドバババと、俺に連打を浴びせていたオレンジ色の拳が突如、鋭角に曲がる。そして真横に立っていたハーフエルフの身体を殴り付けた。


「なっ……なにィイイイッ!? 何を……何をなさるリードバーン老――」

「ふああっ!? な、何じゃこれはぁあああっ!?」

「ぐはぁっアアアアッ!」

 

 ハーフルエルフの魔道士、ノーレシアンは顔や身体を乱打され、真横にぶっ飛んでゆく。


「ノーレシアン!?」


 キックを放った体勢のまま俺と対峙していた女魔道士、カイデルハインが振り返り叫ぶ。


「余所見をしている場合か?」


 俺の言葉にカイデルハインが「ハッ!?」と瞳を見開いた瞬間。

 

 上下左右から痛烈なオレンジ色の拳が襲いかかった。ズドドド! と全身を拳で殴りつけられた女魔道士は、そのまま俺の頭上を飛び越え教会の壁に激突した。

「ぎゃあっ!?」


 俺を攻撃していた魔法が2つ同時に消滅する。

 残るは連打を浴びせているオレンジ色の拳だが、実は既に俺の制御下(・・・)にある。老魔道士ガードルフハイデルン・ザッハ・リードバーンから奪った魔法は、既に俺しか操れない。

 魔力供給が途絶すれば消滅するが、余力であと数秒は消えないまま維持できる。


「きっ! 貴様か、貴様の仕業かぁああああ!? ググレカス!」


 老魔道士が驚愕と怒り混じりの表情で叫ぶ。深く刻まれた顔のシワを更に深くして、血走った目をひん剥かんばかりだ。


「ご明察のとおりです、老魔道士殿」


「どこまでも、どこまでも卑劣ッ! 他人の魔法を奪い……なんら恥じること無く! それが……それが賢者の、貴様のやり口かググレカァアアス!」


「お褒めに預かり光栄です」


 パチン、と指を鳴らすと、一斉にオレンジ色の拳が老魔道士目掛けてUターン。次々と殴りかかった。

 直撃したかに見えた次の瞬間。

 

 ブュアァア、と黒い霧がオレンジ色の拳の隙間から噴き出した。


『――おのれ……! もう、許さぬ!』


 黒い霧は少し離れた場所に再び凝集し始める。だが、それは既に老人の姿ではなかった。馬車の客室(キャビン)よりも大きな竜、禍々しい黒いドラゴンの姿に変じてゆく。

 

 燃えるような赤い光を放つ眼、鋭いキバと馬でも噛み砕きそうな大顎。全身を覆う鎧のようなウロコ。棘の生えた長い尻尾――。


『殺す……! 殺してから奪うガァアア!』


 ――老魔道士ガードルフハイデルン・ザッハ・リードバーン、黒竜体(ブラックドラゴン)

 

「『(いにしえ)の魔法』ですわ!」

「ここからが本気(・・)、というわけか」


「賢者ググレカス! 他の二人も変化しますわ!」

「くっ?」


『……許しません。引き裂いて差し上げましょう』

『すり潰す、ぜってぇ……殺す!』


 魔法の拳で乱打され吹き飛ばされた二人の魔道士、ノーレシアンとカイデルハインが、よろよろと立ち上がる。するとみる魔に黒い霧状に変化。

 そして、それぞれが竜の形へと再び凝集し姿を変えてゆく。

 青白く全身が刃のような鱗で覆われた『氷結竜』。

 燃えるような鱗で覆われた『火炎竜』。


「おいおい、まだやる気か……」


 流石に俺は顔が引きつるのを感じていた。


<つづく>


【作者よりのお知らせ】

 というわけで敵は強いですね。

 ググレカスくん一人ではここらが引き際でしょうか。


 なのですが明日はお休みを頂きます。

 休載:11月13日(月)

 再開:11月14日(火)

 またぜひ読みに来てくださいね!

 ではっ!

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