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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆8章 闇の復活と、賢者の戦い (ググレカスの受難 編)
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★死闘、賢者VS魔王妖緑体デスプラネティア

 俺は二足歩行のスタンディングモートに切り替えた『フルフル』に乗り込み、その(コクピット)で、他の量産型ゴーレムである「(バール)」を魔力糸(マギワイヤー)で相互接続の指示を出した。

 量産型ゴーレム「(バール)」の蓋が開くと、中から緑色のスライムが伸び、互いに絡み合いながら一体化、擬似的な筋肉と関節を形成してゆく。

 続いて協調機動戦闘術式(ハーモクスタクティクス)自動詠唱(オートロード)戦術情報表示(タクティクス)には複数の「(バール)」達が次第に結合し「人型」へと変貌してゆく様子が映し出された。


「スターリング・スライム・エンジン……最終決戦(デストロイ)モード、起動!」


 『ブルブル』を中核として、計六つの「(バール)」が結合し、二足歩行の巨大な脚部を形成する。その上に俺が乗る『フルフル』が合体し上半身となる。


 俺が載っている『フルフル』の肩には二つの小さな樽が接合し、そこから更にぶら下がる形で腕に当たる兵装マウントがジョイントしている。右手にはスライムを魔力強化外装(マギネティクス)で整形したドリル型の打突兵装が取り付けてある。左手には魔法力で形成した光の盾、「魔力防御盾(マギシールド)」を持たせてある。


 巨大な人型のゴーレムとして立ち上がった「樽」の集合体は、俺の魔力で直接操縦を行う賢者の切り札だ。

 他のディカマランの英雄に比べ直接的な戦闘力の低い俺は、対ドラゴン戦闘を想定し密かに開発を続けていたものだ。

 現段階での完成度は45%。つまり半分にも満たない未完成の状態だ。

 本来は複雑な人型制御用の自律駆動術式(アプリクト)で巨体を制御するのだが、今の状態では俺がすべて手動で操作してゆくしかない。

 だが、今の俺にはこれしか巨大な怪物に対抗しうる力が無いのだ。


 ――あいつらが居てくれたらな……。


「賢者さまの……巨人!」

「ググレさま、凄いのですー!」


 二階の窓から歓声を上げるリオラとプラムと目があって、おれはぐっとこぶしを上げて応える。二階の窓よりも高い頭部に俺は搭乗しているのだ。

 本来は頭部を守るパーツも考えていたが、未完成の状態では巨体を動かすことだけで精一杯だ。

 

「――歩け!」

 俺の気迫に呼応するように戦術情報表示(タクティクス)に「前進」の文字が浮かび上がる。途端に、ズギュン! という地響きと共に「賢者の巨人」が歩き出した。

 巨体を構成し全身の形状を保つ為、特別な魔力強化外装(マギネティクス)が施してある。全身のスライムを筋肉として駆動し、樽を外骨格(アウターフレーム)として活用するこの巨大なゴーレムは、膨大な魔力を必要とする。

 だが、あの巨大な化け物――魔王妖緑体デスプラネティアに対抗しうる力を、俺は今これしか有していないのだ。

 徐々に速度を上げ、ぎこちなくも歩き続ける俺の巨人ゴーレムは、躊躇うことなくデスプラネティアめがけて一直線に突撃を開始した。

 襲い掛かる巨大なヘビのような食腕を、剣で斬り払うことで精一杯の騎士団たちは、重傷を負った戦士や魔法使いを守りつつ、じりじりと後退を続けていた。

 魔王妖緑体デスプラネティアは、狙いを魔法使いの魔力に定めたらしく、執拗に魔法使いを取り込もうと食腕をうねらせている。


「よお、魔王くずれ! 俺が……相手だ!」

 

「な、なんだあれは!?」

「おぉ! 見ろ……ググレカス殿が!」

「あれは……賢者さまのゴーレムじゃ!」

「す、凄い! あれならば!」


 突然現れた巨大な人型のゴーレムに、陣形を崩されながらもしぶとく抵抗を続けていた騎士や魔法使いが驚きと歓声の声を上げる。


 デスプラネティアが突進する巨人に気がついたらしく、騎士達への攻撃を止め、こちらへとその巨大な体躯の向きを変え始めた。その動きは鈍重で小回りが利くとは言いがたい。

 まるで山が動くかのような様子でゆっくりと顔に当たる「花弁」をこちらへと向けた。


『ギィ……シャアアアア!』

 威嚇するように巨大な咆哮をあげながら花弁が開く。上下左右にばっくりと裂けたその口の内側には真っ赤な口蓋と、白い牙がビッシリと並んでいた。


挿絵(By みてみん)


「むっ!?」

 俺はその動きに異変を察知し、突撃の速度を緩めると左手に持った魔力の「盾」を正面にかざす。と――その瞬間。デスプラネティアの口から強烈な紫色の毒々しいブレスが放射された。


『ビィシャアアアア!』

「ブ、ブレスだと!?」「賢者殿ッ!?」


 それは魔力で加速された腐食性ガスの吐息(ブレス)だった。

「ぐぅおおおお!?」

 対ドラゴン戦を想定し、火炎・冷却・電撃系のブレス対策として装備していた盾が、辛うじてブレスを受け止めるが見る間にボロボロと崩れ去ってゆく。

 『魔力反射率低40%に低下……防御限界!』

 警告が告げた瞬間、魔力形成されていた光の盾もろともゴーレムの左手が粉微塵に吹き飛び、中からスライムが無残にも飛び散った。

「くっ!?」

 強力なブラスの勢いは、俺の結界さえも越えて頬を掠めた。ジュッ、という強烈な火傷に似た痛みに顔をしかめつつも、俺はゴーレムの勢いを加速させる。


 『レフトアーム損傷! 防御盾(シールド)消失(ロスト)!』

  戦術情報表示(タクティクス)が悲鳴のような警告を発する。


「構う……ものかよ!」

 俺はブレスが途切れた瞬間を狙い、全力でゴーレムの巨体で体当たりの突進をかけた。激しい激突の衝撃でさしものデスプラネティアも動きが止まる。

「これでもくらえ!」

 右腕に装備した右手の打突用ドリルを振りかぶると、自律駆動術式(アプリクト)により「超高速回転」を開始する。キュィイイイイン! という甲高い音を発し始めた右腕を、俺は思い切り化け物の本体へとつきたてた。

「――(つらぬ)けぇええええ!」

 行く手を阻む食腕を次々と粉砕したドリルアームは、デスプラネティアの本体へと達し、硬い木の幹をえぐるような破砕音を響かせながら表面の魔法装甲を打ち砕き、怪獣の体内へと深々と突き刺さった。


『ギィシャアアアアアアアア!?』

 魔王妖緑体デスプラネティアが初めて苦悶の悲鳴を上げた。


 もちろんこれは唯のドリルではない。先ほど騎士団が時間を稼いでくれたおかげで、デスプラネティアの表面を覆う相転換魔力結界(フェイズシフト・マギナバリア)装甲を突き破る特殊な防御決壊の解呪(ディスペル)の術式を纏わせる事ができたのだ。

 更に物理衝撃を加えるために超回転させることで化け物の体内を掘削する。その先端はやがて、俺が狙っていた一点――ヘムペローザのいる中枢へとたどり着いた。


 ――見つけた!


「ヘムペローザをッ……返してもらうぞ!」


 俺は叫び、右手のドリルを元のスライムに戻す。そしてスライムで小さな少女の体を包み込んだ。更にそのままドリルを形づくっていた「樽」の体内へと吸い込むように収容した。

「うぉおおおお!」

 魔力を更に注入し右腕のスライム筋肉を超駆動アクセル、腕を引き抜くような格好で、樽ごとヘムペローザを怪物の体内から外へ引きずりだすことに成功する。

 俺と繋がった魔力糸(マギワイヤー)は確かな鼓動と呼吸を伝えていた。

 右手の先端の「(バール)」の中には、意識を失ったヘムペローザが確かに居るのだ。

 

「ヘムペロ……!」


『ギィシャアアアアア!?』

 感慨に耽る間もなく、腹を突き破られたデスプラネティアは、怒りと苦悶の咆哮をあげ、狂ったように何本もの食腕で俺のゴーレムを撃ちつけた。

 次々と衝撃が走り、俺のゴーレムの耐久限界を超える。

 食腕の先でキバをむき出しにするアゴで噛み付くと、ビキビキと樽を砕き始めた。人間の胴体なら一発で噛み砕いてしまうほどの食腕が、ワイン樽ゴーレムの腕や脚を次々と破壊してゆく。

「くっ……! 逃がさぬつもりか!」

 気がつくと更に巨大な口を開いた「花弁」が頭上から覆いかぶさるように迫っていた。更に口の中心に、紫色の光を放つ魔力が収斂してゆく。

 

 ――第二射!? まずい、ゼロ距離でこれをくらっては……!

 

全樽(バール)緊急解除(パージ)ッ!」


 俺はゴーレムを形づくっていた魔術式をすべて解除し、元の簡易量産型の「(バール)」と、二体の四速歩行ゴーレムへと戻した。

 巨人を形成してた樽同士の魔術結合が消え、樽達は次々と地面へと落下、しゴロゴロと転がり始めた。

 肩や脚を構成していた「(バール)」は残念ながら、食腕に噛み砕かれてしまった。割れた樽の隙間からダラリとスライムが漏れ出す。


「『フルフル』『ブルブル』! ヘムペローザの入った(バール)を遠くへ運べ!」

 俺はそう指示を出すと、忠実な僕である二体のゴーレムは暴れる食腕を避けながら、ヘムペローザを収容した右腕だった「(バール)」へと駆け寄った。

 二体は、協力しながら館のある方向へと樽を転がし始めた。


 その瞬間――。

 巨大な口蓋に収斂していた紫色の魔法エネルギーが、逃げ始めた四速歩行ゴーレムめがけて放たれた。その射線軸上には――ヘムペローザの入った「(バール)」があった。


「させるかぁあッ!」

 俺は魔力強化外装(マギネティクス)超駆動アクセルさせ、跳んだ。


 一瞬でブレスとヘムペローザの間へ立ちはだかると、ブレスが着弾する寸前、残存の魔法力すべてつぎ込んで、対腐食用の結界を張った。


 ――賢者結界、全開ッ!


 全身を砕くかのような衝撃と、気が遠くなるほどの轟音が、俺の視界を奪い去った。


<つづく>


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