襲来、ゾルダクスザイアン強硬派
突然、教会の外で起きた爆発音。
警備担当者の叫び声と、足音が響き渡る。
俺はノルアード公爵の背中を押して、壁際にある柱の陰に退避させた。
「ノルアード公爵殿、柱の陰に隠れてください。ここを動かないで」
「これは……まさか!?」
ノルアード公爵は驚いた様子だが、何か思い当たる事も有るようだ。
しかし先程からずっと索敵結界で様子を観察していたが、魔法で外部に指示したり何かを仕掛けたりした気配は感じられなかった。
外で起こった爆発は、何者か「第三者」の仕業だろうか。そもそもこのタイミングで公爵が仕掛けたところで何かを得られる状況ではない。
そう判断した俺は、妖精メティウスと共に入り口に駆け寄って、教会の分厚いドアのドアを押し開けた。
するとドアの外の壁際に、モノレダーとスカーリ、二人の特別補佐官がしゃがみこんでいる。
「大丈夫か!?」
「えぇ、なんとか。ググレカス殿は中にいてください」
「バカを言え。俺が出ないでどうする!」
「要人二人は教会内に保護! 軍の即応部隊が応戦を……!」
スカーリ特別補佐官は俺と建物内のノルアード公爵を確認すると、腕に巻き付けた簡易通信用の水晶球に向かって状況を伝えている。
「軍の特殊作戦群が既に展開しているんです。今回の襲撃は想定内なんです」
「ググレカス様には内密に、とお達しが出ていました」
モノレダーとスカーリが小声で語った事実に、軽い衝撃を受ける。
「なにぃ!?」
検索魔法で内務省の機密文章を読んでおかなくて正解だったのか、あるいは迂闊だったのか……。
どうやら今回の俺とノルアード公爵の接触と会合は仕組まれていたようだ。
一連の事件を起こしている何者か――おそらくはゾルダクスザイアンの『急進派』を、引き寄せる為の餌として。
「兎も角、教会の中でじっとしてなどいられるか。ここで被害を出さぬよう、迎撃を手伝うよ」
「頼もしい限りですが、自己責任でお願いします」
「承知の上だ」
モノレダーが筒状の武器を構えて辺りを警戒する。
外は薄暗い夕暮れの時刻。太陽が西の地平線に沈む直前だ。
黒とオレンジの陰影に彩られた景色の向こうで、何人かの警備担当者が叫びながら走っている。
爆発の余波か、淀んだ土埃が舞い視界も悪い。
俺は戦闘出力の『賢者の結界』を周囲5メルテ圏内に重層展開、動的な索敵結界で教会周囲の人の動きを探る。
「賢者ググレカス! 不明の赤い光点が5! いえ……まってください。そのうちの1人は、以前遭遇したことがありますわ!」
――魔力反応パターン照合開始、完全一致、1名。
「こいつは……大魔導師、ガードルフハイデルン・ザッハ・リードバーンか!」
俺がその名を口に出し、背後を振り返るとオートマテリア・ノルアード公爵が表情を険しくしていた。
「ググレカス様、一体誰ですって!?」
モノレダーもスカーリも聞き返す。
「忘れていた。魔法秘密結社ゾルダクスザイアン最強の大魔導師の一人……。かつて、イスラヴィアでエルゴノートが総督に着任した日、王宮の裏で戦ったことがある」
――戦闘狂の老魔法使いか……!
トゲだらけの閉鎖空間型の結界を展開し、黒霧の『古の魔法』を自在に駆使した戦法を得意とする。
最後はレギュオスカルを模した飛行形態で空に逃げたが、俺とレントミアが二人がかりでも勝てなかった強敵だ。
魔法戦闘のセンスも抜群で、同じ『古の魔法』使いでも、その実力はノルアード公爵よりも上かもしれない。
「奴は老体だがかなりアクティブなやつだ。前回はイスラヴィアにまで出向いて来たが、王都メタノシュタットまで出張してきても驚かんな」
それに奴はオートマテリア・ノルアード公爵と同じく、俺が『賢者の石』を持っていることを知っている。
イスラヴィアで遭遇して戦った際に、今回と同様に『偽の賢者の石』がしゃしゃり出て、存在を晒したのだから。
つまり、引き寄せられるべくしてここに来たのか。
「とんでもない相手が釣れたわけですな」
天を仰ぐモノレダーを尻目に、スカーリが水晶球に更に報告を加えている。
「敵はガードルフハイデルン・ザッハ・リードバーン……と。ゾルダクスザイアン『急進派』いえ『強硬派』の頭目と言われる大魔法師。以前イスラヴィアで起こった事件の報告書で読んだわ、調べてみて!」
オートマテリア・ノルアード公爵が俺と接触したことで、焦っているのかもしれない。
「賢者ググレカス! 教会を囲む敵の数、全部で15に増えました。何でしょうこれ……人間ではありませんわ!」
「大方、人造生命体の兵士だろう」
「敵、散開します! 警備兵が……あぁっ!」
妖精メティウスが賢者のマントの襟首の内側で叫ぶ。既に何名かが動かなくなり、『戦闘不能』の赤い表示に変わってゆく。
「援護しないと全滅する!」
その時だった。
黒い霧が凝縮し、赤黒い夕陽を背に人影を形作った。
まるで幽鬼のようにゆっくりと身を揺らして姿を見せたのは、西国ストラリアの黒い貴族服に身を包んだ老紳士だった。
手にはステッキを持ち、優雅な仕草でオールバックの白髪をなでつける。
つり上がった目の眼光は鋭く、深い眉間と額のシワが年齢を感じさせる。だが、危険な気配を漂わせる。
「フフフ、久しいのぅ、賢者ググレカス」
「大魔導師ガードルフハイデルン殿か」
「さよう……。イスラヴィア以来かの? 今日は、お主の持つ『賢者の石』を頂きに参上した。よもや……ノルアードの裏切り者に渡したわけではあるまい?」
「肌身離さず持つ秘宝。易々と渡すものではございませんよ」
「それを聞いて安心した。ささ、ワシに渡されよ。怪我をされぬうちに」
しなびた手に持つ、細いステックをこちらに向ける。
「メタノシュタットの地下牢は、ご老体には厳しいかもしれませんな」
俺は賢者のマントを振り払いながら、一歩進み出た。
「ぬかせ若造が」
ゴゴゴ……と地鳴りのような気配とともに、凄まじい魔力波動が押し寄せてきた。
<つづく>
【作者よりのお知らせ】
というわけで敵のボスは、以前イスラヴィアで対戦して取り逃がした
老大魔導師ガードルフハイデルン・ザッハ・リードバーン(長いw)さんでした。
(◆28章 世界樹の種と新時代の女神 編 954話あたりで出てきましたね。
覚えていないでしょうが、今回の伏線です! ←ロングパス伏線w)
実はレントミア&ググレカス、ルゥローニィが束で戦って
唯一勝てずに引き分けた「最強クラス」の敵です。
ですが、郊外とは言え王都近郊にまで引き込んだ以上、
今回はメタノシュタット側にも秘策がありますので、お楽しみに。




