家族の食卓と添い寝な気持ち
食卓を家族たちと囲みながら賑やかなディナーが始まった。
窓の外はすっかり暗くなり、リビングダイニングには香油ランプの明かりが灯されている。
長テーブルの椅子にそれぞれ腰掛けて、食事をしながら一日の出来事を話し、賑やかなひとときが過ぎて行く。
「ワシとの約束は忘れておらぬじゃろーがにょ」
肉をパン粉で包んで揚げたフライを食べながら、ヘムペローザが俺をじぃと見つめている。
「もちろんだとも。食後の一時間、じっくり魔法の勉強の続きをしよう」
「一時間は長いにょー」
「長いのかよ」
「だってお風呂に入ったり、プラムにょと髪のケアをしたり、夜は忙しいにょ」
「じゃぁ30分ぐらいでいいか……」
そう言われると俺もトーンダウン。
「賢者にょ、ちょいちょいっと簡単に覚えられる魔法は無いのかにょ?」
フォークで肉をくるくるしながら、めんどくさそうに言う。
「お前は俺か。気持ちはわかるが、楽をしても魔法は覚えないぞ」
我ながらお前が言うかと思うが、ここは威厳が大切だ。
「にょほほ、冗談じゃにょー」
「ったく」
流石は我が弟子。どことなく発想が似てきている。だが師として親代わりの大人として、きっちり教育的指導が必要だ。
「兎に角、食後は魔法の基礎を勉強しよう。頑張ったら良いこともあるぞ」
「いいこと?」
厳しいだけでは生徒もついてこない。ムチとアメも必要だ。早速ヘムペローザも食いついてきた。
「そうだな……。例えば俺とヘムペローザ二人の、新しい連携魔法を考えようか?」
「二人の連携魔法?」
「そう! 俺とレントミアのように、熱い友情で結ばれた『精密誘導打撃術式』みたいなのを」
「ワシと賢者にょだと師弟の絆かにょ?」
「まぁそんなところか」
「……そうかにょー。別のご褒美がいいんじゃがにょー。服とかアクセサリーとか」
「勉強しただけで与えすぎだろ」
「むー?」
黒い瞳を一度瞬かせて、少し考え込むヘムペローザ。
「例えば、こんなのはどうだ」
「にょ?」
「まずはヘムペロが『蔓草魔法』を生やして四方から花を咲かせるんだ。そこへ更に俺の『粘液魔法』が、花の中からブシャーと噴き出す……とかな」
「なんか嫌な連携じゃにょ!? 可憐さが台無しじゃし」
短距離と中距離の攻撃を併せ持つ、師弟の魔法。四方八方からの「全射程攻撃」という発想はなかなか良いと思うが……。
「ははは、まぁそこは一緒に考えよう」
「仕方ないにょー」
苦笑するヘムペロだが、一緒に考えることは楽しみなようだ。
さて、向かい側ではリオラがスピアルノから何かを真剣な面持ちで聞いている。
「こう……ッスよ」
「なるほど」
時折、犬耳ママのスピアルノが腕をシュッと動かして、何やら「組み付かれたときの対処法」みたいなものを伝授しているようにも見える。腕を決めて、腹部を狙って打撃がどうとか聞こえてくる。
頼むからこれ以上リオラを強化しないで欲しい。
テーブルの端の方ではマニュフェルノとルゥローニィが、凄まじい勢いでご飯を食べる四つ子を相手に奮闘している。
しつけが良いのでお行儀は良いが、食欲がすごい。あっという間に皿の上の料理を平らげる。これではどんどん大きくなりそうだ。
俺とヘムペロが会話を交わしていた横では、プラムとラーナが肉の味や学舎でのことについて、何やらぺちゃくちゃと会話している。
プラムはセミロングの髪をハーフアップにまとめていて、少しお姉さんっぽい横顔だ。
「プラム、お風呂が済んだら二階の部屋で、マニュに羽根の治療の続きをしてもらうんだよ」
「はいなのですー」
ルーデンスの騒乱で怪我をしたプラムの羽根は、自然治癒が難しい。少しずつマニュフェルノの魔法で縫合して治療してもらっている。
「ラーナも一緒でいいデース?」
「もちろんいいとも、今夜もいっしょに寝ようか」
「嬉しいデース」
ラーナを抱いて寝ると聞けば、そこはかとなく犯罪っぽいが大丈夫。マニュフェルノと並んで一緒なので家族の雑魚寝。何ら問題はない。
「プラムも一緒に寝ますしねー」
「いいけど、狭いんだよな……」
「えへへ」
ロベリー女史消失という事件があった後だからか、ちょっと一緒に居たい気分だった。気休めかも知れないが、離れたくないと思ったのだ。
◇
結局、狭い寝台から寝相の悪いプラムに蹴落とされたのは俺だった。
床の上で館スライムに囲まれて目が覚めた翌朝。
新しい事件の知らせが届いた。
<つづく>




