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 ロベリー女史の秘密

 ◇


「一帯を緊急封鎖し、検問を強化しています。ですが、今のところ不審な人物は発見されていないんです」


 スカーリ特別補佐官の言葉に俺は首をひねった。


 七色プリズナー更生学園から30メルテほど離れた路上で、多くの住人が野次馬として集まってきていた。

 軍属や関連する業者の家族が暮らす村の真ん中で、不審者が人体発火(・・・・)。人間が焼失したのだから騒ぎにもなってしまう。


「おかしいな。あんな状況判断力(・・・)しか持たない『人造生命体(ホムンクスル)』なら、近くで操っている者が居てもおかしくないのだが……」

「同感です。まるで子供の御使い。水晶を回収しろという命令に、ただ忠実に従っていただけに思えましたわ」

「忠実すぎて状況判断力と判断力に欠けていたようですしね」


 学園を訪れた謎の人物は、偽の軍人だと判明した。


 狙われたのは、オートマテリア・ノルアード公爵の元・美人秘書だったロベリー女史。

 彼女もまた『人造生命体(ホムンクスル)』だったが、寿命(・・)を迎えたのか、あるいは外的な要因かで身体が分解し、土に還元されてしまった。

 黒い焦げ跡のような残骸の中には、煤けたような水晶――正確には情報を蓄積する魔法道具である『記憶石(メモリア)』だけが残されていた。

 ロベリー女史本人というよりは、おそらく体内にあった水晶を狙ってきたのだ。


「スカーリ、ググレカス様。あの偽軍人(・・・)の燃えカスの中に、水晶などは見つからないようだ」

 金髪の背の高い青年、モノレダー特別補佐官が汚れた手袋を外しながら近づいてきた。黒い物質に還元した偽軍人の残骸を調べていたのだ。

 鑑識役の別の補佐官達も首を横に振る。


「何も見つからない……か」

「ググレカス様、どういうことかしら。ロベリー女史の体内には水晶……『記憶石(メモリア)』があった。でも、あの偽軍人の体内には無いなんて」


「スカーリ、僕が思うに仕様(・・)が違うんじゃないかな?」

「……なるほど。目的ごとに異なる……ということは考えられる」


 モノレダー特別補佐官の言葉に俺も同意する。


「創り主の意思による違い、ということね?」


「そう。ロベリー女史は秘書として創られた。いわば記憶力が欲しかった。だから『記憶石(メモリア)』が植え付けられていた。でも偽軍人は『記憶石(メモリア)』の奪還だけを目的に創られた、簡易的なエージェントだったんだと思う」


 俺は自論を開陳べた。


「奪還計画が失敗した場合は、自動的に証拠隠滅も図る、焼失するように仕掛けられていた……とも考えられるね」

「同感ね。めずらしく冴えているわねモノレダー」

「おいおい、僕はいつも冴えているよ」


 二人のやり取りに苦笑しつつ、推理にも概ね同意する。だが魔法使いの眼から、ひとつだけ付け加える。


「もしかすると、水晶球を入手できないと自壊(・・)……焼失してしまう仕様だったのかもしれないな」

「だから、偽軍人から水晶が見つからないのか!」

 モノレダーが納得いったように頷く。


「おそらく、な」


 使い捨ての『人造生命体(ホムンクスル)』を自在にデザインするなら、それぐらいはするだろう。


「オートマテリア・ノルアード公爵の秘書だったんだ。何か秘密めいた情報がこの水晶に記録されている可能性がある。だが……それなら、なぜすぐに自壊させなかったんだろうか?」


 だが、新たなる疑問が湧く。


「ググレカス様、それは……確かに」


 スカーリ特別補佐官もそこが気になったようだ。


「禁呪レベルの魔術である『人造生命体(ホムンクスル)』を自在にデザインし創造する。そういう相手が何故、1年もロベリー女史を野放しにしていたんだと思う?」


「……逆スパイか? 長く生かして、メタノシュタットの内情を探らせる……とか」

「ありえなわモノレダー。よかった、いつもの貴方ね」

「おいおい……」

「いいモノレダー。外国からの大使の秘書が亡命。連日の取り調べと行動監視。その後は危険なしと判断されて、経過観察と監視目的でこの学園に収監されていたの。何も得られる情報なんて無いわ」


 収監という言葉が、カミラとカルバ姉弟に聞こえていないかと振り返る。すると、二人は建物入口付近に園長先生と一緒に、不安そうな様子でこちらを見ていた。


 30メルテも離れているのでここの会話は聞かれていないようだ。


 初めて出会ったとき、ロベリー女史はまるで人形のようだった。感情らしい感情を持たず、使い捨てと公爵も言い放っていた。

 だが、この学園では徐々に「感情」のようなものを獲得し、姉弟とも仲良くなったという。


 こんな辺鄙な閉鎖された学園で暮らし、得られる情報など何があるだろうか?


 二人が知っている世界樹の情報という可能性もあるが、構造や入り口など、世界樹に戦闘員やちょっかいを出し続けていた公爵ならば、ほとんど既知の情報ばかりだろう。


 となれば何が得られたのだろう。

 

 1年間放置して得られた、情報。


 いや……まてよ。


 まさか……感情、そのもの?


「……やはり、この『記憶石(メモリア)』を解析するしかなさそうだ」

「同感ですわ、ググレカス様」



 ◇


『それで、魔法協会の方は如何ですか?』


 魔法通信の向こうから、スカーリ特別補佐官の声がした。


「今、魔法協会の建物にいる。だが、解析は時間がかかりそうだ。ロベリー女史の体内に埋め込まれていた『記憶石(メモリア)』は、深層学習用の蓄積型らしいというところまではわかったが、中身はこれからだ」


 面白い情報が得られそうだと、魔法協会の魔法使いたちは色めき立っていた。


 解析班の中心にはレントミアがいる。


「それで……俺の家族についてなんだか当面、安全の確保を……」


 あの公爵が動き出したと考えれば、何らかの因縁があると言っていたマニュフェルノや、同じく人造生命体(ホムンクル)であるプラムやラーナが心配だ。

 俺もこうして出歩く時間がある以上、24時間見守り続けることも出来ない。王政府の力を借りるしか無い。


『――その点もご心配なく。ご依頼どおり、ご家族の身辺警護はランク3にて行うと、上が承認したようです。内務省の治安維持部局と、王都衛兵隊が連携し対処しますわ』


「ありがとう、スカーリ特別補佐官」


 ランク3の警戒とは、「騎馬衛兵の巡回」と「衛兵の定期巡回時間を1時間毎に」程度のものだ。

 ランク1の警備は王族などの24時間の接待的な警備体制。ランク2は外国からの要人警護など一定期間の警備体制のこという。一般的な貴族の警護もランク3なので贅沢は言えない。

 

 時刻は午後3時。

 もうひと仕事ぐらいはできそうだ。


「さて、俺も解析を手伝うとするか」


<つづく>


【作者よりのお知らせ】

 というわけで、新作の連載をはじめました!

 ↓

『異世界ヒッチハイク』

 

【あらすじ】

 失恋し、ヒッチハイクで「自分探しの旅」に出た18歳の夏希(なつき)は事故に遭い、異世界へと転移してしまいます。そこはドラゴンが空を舞い魔物が闊歩する異境――。でも、夏希は「ペンとスケッチブック」そして笑顔とコミュ力でヒッチハイクの旅を続けます。


 なんとチート無しの冒険です。

 あたらしいたまりワールドがここに!

 一風変わったファンタジーです。


 1エピソードが1~2話完結型の物語ですが

 旅する世界にちょっと秘密があります。


 応援いただけたらうれしいです♪


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