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 ラファート・ア・オーディナルの器(うつわ)

 戦術情報表示(タクティクス)の魔法の小窓(ウィンドゥ)の上で、幾つかの輝点が動いている。

 

 アークティルズの中心部――城前広場へと向かっている12個の光が、量産型『(バール)』一個小隊を示している。

 綺麗な三角形の陣形を組んで上空およそ100メルテを飛び、一直線に広場の中心部へと向かっている。そこは異常な高密度魔力の集中地点だ。

 

「賢者ググレカス、あと60秒で会敵、交戦(エンゲージ)します。いかがいたしますか?」


 妖精メティウスが、戦闘の指示を待つ。

 迷っているほどの時間はない。自律駆動しているワイン樽ゴーレム達に、次の行動の命令を送らねばならない。


「8機を空中で飛行状態のまま待機、高度50メルテを維持して周回飛行。残り4機を地表に降ろし、回転による物理突撃モードで目標に対して、直接打撃攻撃を行い、出方をみる」


「了解ですわ!」


 俺の残存魔力は相変わらず10%程度と少ないが、索敵結界(サーティクル)による敵味方の位置確認、三層だけに絞った「賢者の結界」の維持に支障はない。


 更に今行っているのはワイン樽ゴーレムたちへの指令だが、魔力波動による魔法通信だけならば、さほど魔力は消耗しない。


 ――頼む、回復しろ……俺の魔力!


 魔力の消耗に伴って感じるのは、独特の「疲労感」だ。しかし大抵は一晩寝れば回復できるし、時間の経過と共に徐々に回復する。

 つまり、生きていて、意識がはっきりしていて、気合に満ちてさえいれば、簡単に「ゼロ」状態にまではならないものだ。(無論、『封魔の闇穴』の岩のように、強制的に吸われてしまえば別だが)


 それに、経験則でしか無いが、「戦わねば!」という意志の力や、気合(・・)といった、自らの魂を揺さぶるような方法で、ある程度は持ち直すことも可能のはずだ。


 魔力とは何か、魔法協会でも未だにハッキリと結論付けられては居ない。だが、思うに、強い精神が放つ波動や、強い感情による波動、つまりは「熱い魂の叫び」こそが魔力を生み出す根源のようなきがしてならない。


 と、上空からシュゴォオオ……と圧縮された空気が吹き出すような音が聞こえてきた。戦術情報表示(タクティクス)には、俺の方に向かって飛んでくる2つの輝点が映し出されている。

 距離はおよそ30メルテにまで接近、減速しながら高度を下げる。


『フルフルッ!』

『ブルブル……!』


「賢者ググレカス! 参りましたわ!」

「あぁ! 来てくれたか『フルフル』『ブルブル』ッ! よぅし賢者合体、空中飛行モードだ!」


 二体のワイン樽ゴーレムがまるで空中を駆けるように、鉄の四肢を動かしながら舞い降りてきた。

 目前で左右に分かれると「賢者のマント」の両側の肩部分、左右の結合パーツで連結する。


 ガキインン! ガシィン! という音と共に、戦術情報表示(タクティクス)が「合体」の成功を告げる。

 同時に、魔法術式の自動詠唱(オートロード)が行われる。


 ――流体制御魔法(ハイドロステマ)制御術式(コントリーリア)、オンライン!


 シュゴァオオオオオ! と両肩の樽が俺の魔力に呼応し、空気の噴出を強める。すると、ゆっくりと足が地面から離れ、身体が空へと舞い上がった。


 以前は地に足がつかない状態は怖いと感じたが、もう慣れた。妖精メティウスが懐へと潜り込む。


「いくぞ……! 目標は1キロメルテ先の……城前の広場だ!」

「ここからなら、30秒もかかりませんわ!」


 魔法力を注ぎこみ、二体のワイン樽ゴーレムの飛行モードを垂直に上昇させる。


 ――まってろよ、レントミア! そしてみんな!


 ◇


 レントミアは円環魔法(サイクロア)の詠唱へと入っていた。


 『円環(サイクロア)錫杖(カカラ)』を、足場代わりの屋根の上に突き立てるようにして、両腕で持ち構える。

 加速させる魔力素材は、安定的に励起できる火炎系の魔法、火槍魔法(ファランシア)だ。

 ――あと30秒……!


 と、焦りを感じていたその時。

 

 広場の中心部で渦巻いていた赤黒い嵐のような渦が細くなり、やがて一箇所へと収斂してゆく。


「うっ!? あれが……!」


 そこに現れたのは、人間の形をしてはいるが見るからに「異形」の存在だった。


 全身は生肉のような色合いで、剥き出しの筋肉がビクビクと脈動している。身体のラインは女性らしいが、背丈は普通の大人ほど。


 最大の特徴は、()がないことだ。

 腹から胸、首の部分にかけて、まるで内臓を摘出したあとのような惨状で、バックリと肋骨が開胸されている。

 それは、吠える事もなく、声を発することもない。

 ただ静かに、不気味なまでの静けさのまま広場の中央に佇んでいるのだ。周囲では高密度に圧縮された魔力が周囲で陽炎のように揺らいでいる。


「失敗した……? いや、でも魔力の密度は維持されている」

 レントミアは緊張した表情のまま 魔法の励起を続行する。


 異形が佇むその様子は、まるで何かの訪れを待っているかのようにも思えた。


「ば、化物だ……!」

「狼狽えるな。まずは戦力を集めろ、隊列を整えよ!」

 周囲に居た衛兵たちや、駆けつけた竜撃戦士たちに動揺が広がってゆくが、衛兵隊長が毅然と指揮をとる。


 レントミアは魔法の目を通し、出現した異形の正体を推論する。


「あれは……肉の強化外装(・・・・・)? まさか……魔女ラファート・ア・オーディナルの(うつわ)ってこと!?」


<つづく>


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