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 解かれし、闇の封印


 戦闘魔導師達が占拠する広場の中心へと向かって、堂々とした足取りで進んで来るのは、銀狼族の青年だった。


「あれは……『森の主』!」

「何故、このような危険な場所へ!?」


 城門を守っていた衛兵たちが驚きの声を上げた。


「――ヤァ! 我こそは銀狼族の長、ウォルハンド・ライアース! 我らが友邦、深き絆で結ばれしルーデンスの危機に……微力ながら助太刀いたしたく馳せ参じた!」


 精悍な顔つきの狼半獣人の青年は広場の前で、高々と名乗りをあげると、腰に下げていた直刀を抜き払った。

 それは、(やいば)の付いていない「鉄の棒」のような武器だった。長さは120センチメルテほど。幅は10センチメルテもあろうかという分厚い鉄の棒にも見える。

 それは、鍔迫り合いをした場合、刃こぼれすること無く相手の剣や武器をへし折ることを目的としているように見えた。それを体格のいい『森の主』が繰り出せば、(やいば)がなど無くとも、鎧や骨ごと砕かれるだろう。


 呆気にとられていた戦闘魔導師達が、一斉に殺気立った視線を向けた。


「なんだ、貴様ァア!?」

「我らの儀式を邪魔だてなどさせぬ!」

「殺されに来たか、丁度いい触媒(・・)になりそうだ!」


 近くに居た戦闘魔導師の一人は、そう言って黒いマントを脱ぎ去ると、背中から湾曲した巨大なナイフのような武器を抜いた。

 そして両手に巨大なナイフを持って構えると、勢い良く剣から炎が噴き上がった。


「ヒヒ、見たか! 肉を切り裂き骨を焼く、オレ様の火炎の剣――」

「ぬぅんッ!」

 相手の話が終わる前に、森の主は地面をけると懐に飛び込み、直刀を躊躇いもなく振り払った。

 ボギャッ! という鈍い音と共に、炎の剣が砕け散り戦闘魔導師の身体が「くの字」にひしゃげた。

「グハッ!?」

 戦闘魔導師は砕けた剣の破片と共に真横へと吹き飛び、近くの壁に激突。そのまま動かなくなった。


「きっ、貴様ァアアアア!?」

「我らが悲願……! 邪魔する気か……!」

「えぇい、殺れ!」


「暴力は駄目クマァアアア!」

 後ろで荷物を抱えて来ていたクマの半獣人、ベアフドゥが叫んだ。そして無人の屋台の横にあった巨大な樽を持ち上げて、駆け寄ってくる戦闘魔導師に投げつけた。

「うわっ!?」

「危ねっ!」

 バリンと砕けて相手を足止めした瞬間、『森の主』は次々と黒衣の戦闘魔導師を薙ぎ払った。

 抜刀術並みの剣速で直刀を振り回すと、まるで魔法のように敵の体が折れ曲がり吹き飛ぶ。


「くっ!? 間合いを取れ! 火炎魔法班! 奴を狙撃しろ、下がれ!」


 黒衣の戦闘魔導師のリーダーらしき人物が、仲間たちに指示を出し『森の主』とベアフドゥから間合いを取った。包囲の輪を広げ広場全体へ散る。


「オレはそもそも戦いに来たのではない! 怪我をしたくなければ道を開けよ!」

「そうだクマー!」


 更に歩を進め、広場の中心部へと向かう『森の主』。戦闘魔導師達の数名が、炎の魔法を励起し狙いを定めている。


「いかん!」

「衛兵隊長殿、我らも加勢を!」

「我ら三名、援護に向かいます!」

 と、衛兵たちが『森の主』の獅子奮迅とも言える戦いぶりに、じっとしてはいられないとばかりに飛び出そうとした、その時。


「しまっ……!? 罠だよ! 下がって……! 来ちゃダメだ!」

 屋根の上で密かに魔法の詠唱を始めていたレントミアが、何かに気がついたように叫んだ。戦闘魔導師達が一斉に声のした方向に、怒りに燃える瞳を向けた。


「レントミア殿!?」

 衛兵隊長が、部下たちの突撃を両腕を広げて止めた、次の瞬間。


 ヴゥン……! と広場全体が淡い紫色の光で包まれた。オーロラを逆さまにしたような光が空に向けて立ち昇った。


「この魔法円……! 古代術式……いや違う!?」

 レントミアの瞳に映ったのは、禍々しい幾何学模様と幾重にも重なった巨大な円だった。これを戦闘魔導師たちは描いていたのだ。

 直径はおよそ15メルテ。魔法円の一種には違いないが、豊富な知識を有するレントミアでさえ、見たことのない未知の魔法円だ。


 あえて言うなら降霊術(・・・)、あるいは蘇生術(・・・)の構成に似ているだろうか。


「……水、闇、流転、血と骨……何かを呼び出すつもり!? 逃げて! 『森の王』にベアフドゥ!」


「なっ、なんだ……この光は」

「逃げるベアア……ァアアッ……?」

 ベアフドゥが胸を押さえて苦しみだした。驚く『森の主』がその巨体を横から支え、広場を去ろうとする。

 と、ベアフドゥが背中に抱えていた「肉」の袋がビクビクと脈動しはじめた。


「なっ!? 一体何が……まずい、捨てろ!」

「ベ……アッ!」

 その中には「ファリア姫への告白」真の気持ちの証として、狩猟したばかりの翼竜(ワイバーン)の生肉が入っていたはずだ。当然、死んだ肉だった。

 にもかかわらず、まるで生きているかのように蠢き始めたのだ。


 袋を魔法円の中で投げ捨てると、地面に落ち激しく跳ね回り、袋に赤い血が滲んでゆく。


「置いて逃げて……『森の王』ッ……グゥウアアア……!?」

「ベアフドゥ!」


「まずいっ!」

 レントミアが魔法詠唱を中断、一秒で詠唱可能な範囲の火炎魔法を励起。禍々しい紫色の魔法円に向かって投げつけた。

 それはシュッと炎の尾を引いて飛び、ベアフドゥと『森の主』の足元に命中すると、炎と爆発が起こった。

 一瞬、その周囲の魔法の力場がゆらぎ、魔法円が乱れた。


「今だよ! 逃げて!」


「魔法使い殿……恩に着る!」

 ベアフドゥと『森の奥』は路地の方へ、なんとか逃げ出す。逃がすまいと追う戦闘魔導師に向けて、レントミアは手から火炎魔法の球体を放ち、足止めをする。


「おのれ! メタノシュタットの魔法使い……!」

「あいつから殺れ……!」

「全員で………………ぐっ!?」

「う……ア………?」

「………カハ……?」


 魔法戦闘に備えて火炎魔法を更に励起し始めていたレントミアだったが、突如、広場に居た戦闘魔導師達に異変が起き始めた。

 

 突如苦しみ出して胸をかきむしり、白目をむき倒れる者や、地面で痙攣する者が次々と出始める。


「来たァああアァアアア! 我らが悲願……偉大なる最強の……大魔導師……!」

「ラファート……あぁ! われらが師よ……!」

「いまこそ、復活……の時!」

「我らが……魂と、魔力、竜の血、肉、全てを……捧げる……!」


 倒れながらも戦闘魔導師たちは恍惚とした表情で口々に叫ぶ。


 バリバリと胸をかきむしり服を引き千切ると、胸が露出する。すると、そこには赤黒く脈動する塊が見えた。


「あ、あれは!?」

「何か……黒い塊が!?」

「全員の胸に……!」


『『『『レェエエエッツ! 魂魄呪縛連携術式(コンバインド)ァアアア!』』』


 30人近い戦闘魔導師達が一斉に叫ぶと、胸から赤黒い塊が飛び出した。

 黒衣の戦闘魔導師たちは、歓喜の悲鳴を上げ次々と失神、そのまま白目を剥いて仰向けに倒れると、痙攣し動かなくなった。


 不気味な尾を引く「黒い人魂」たちは、魔法円の中心部に向かって集まってゆく。その光景はまるで呪われた魂が一箇所に集まり、更に巨大な呪いを生み出そうとしているかのようだった。

 広場だけではない。街のあちこちの方向からも、同じような人魂が集まって来ている。

 その中心にあるものは血で染まった布袋の竜の肉だ。


「そうか……! それぞれの魔力を呪詛が集めて……触媒に!」


 レントミアがハッとして、火炎魔法を全て集約する。

 すると、倒れていたリーダー格らしい戦闘魔導師が、ニタリと口元を動かした。


「無駄じゃ、もう……遅い! メタノシュタットの魔法使いよ……! 封印は……解かれた……。永い、永い、緻密なる準備の果て、ルーデンスの竜脈を乱し、ついに『封魔の闇穴』の封印を解いた! 地下深くに捕らわれていた……我らがラファート・ア・オリジナル! この地に蘇る……! 多少、邪魔(・・)は入ったが……」


「説明ありがと。でも、思い通りにはさせないよ!」


 レントミアが数発の火炎魔法を集約した特大の火炎魔法を撃ち放った。

 狙いは「黒い人魂」達が群がる触媒(・・)――ビクビクと動きを激しくする竜の肉だ。


 だが、火炎魔法は着弾直前で霧散してしまった。


「うそっ!? 超高密度(・・・・)の防御結界!? そうか……30人分の魔力を使って……!」


 ゴゥンゴゥンと魔法円が唸りを上げて渦を巻き、一点に集まり始めた。空は暗雲が立ち込め、広場だけでなく首都アークティルズ全体を赤黒い光で照らしてゆく。


 ――まずいよググレ! はやく来てっ!


 レントミアは魔法の緊急通信回線を開き、叫んだ。


<つづく>


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