明かされる戦闘魔導師達の目的
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ルーデンスの首都、アークティルズ。
中心に位置するのは、歴史と数多の英雄たちを輩出した竜撃戦士伝説に彩られたアークティルズ城だ。
だが今、その美しい城の前の広場を、異様な黒衣に身を包んだ者たちが占拠していた。
人数はおよそ30人ほど。異様な黒衣を身につけた者たちは広場を占拠し、ウロウロと動き回りながら、周囲を威嚇するような素振りを見せている。
無論、勇猛なルーデンスの住民たちはそれを黙って見過ごしていたわけではなかった。
血気盛んな元・竜撃戦士の老人を中心とした「自警団」が排除を試みようと、挑みかかった。しかし、戦闘魔導師と名乗る彼らは、その全員が強力な魔法を使う者たちだった。炎や風の魔法を使って威嚇し、住人たちをあっという間に広場から追い払ってしまったのだ。
今や遠巻きに見守るしかないアークティルズの住人たちも悔しさを滲ませ、困惑の色を隠せない。
「守備隊長……! 街の各地の騒乱はほぼ鎮圧、犯人たちを拘束したとの知らせが届いています!」
若い衛兵が隊長に駆け寄り報告する。
「うむ。ならば、この場を護り通せば、連中を挟み撃ちに出来る……か」
「早馬を伝令に出して既に半刻が過ぎております。サーニャ姫の探索に向かった主力部隊と接触した頃合いです」
別の衛兵も報告を重ねる。
「城内からの知らせでは、連中はラファートという異国の魔法使いの手下のようです」
「何者かは知らんが好き勝手はさせぬ!」
初老の衛兵隊長は、険しい視線を向けながら、槍を構え直した。他の衛兵たちも背筋を伸ばし城門へと通じる橋を死守する構えを崩さない。
アークティルズ城へと通じる門を死守するため、武器を持って身構える衛兵隊の人数は、わずか、7名。
衛兵たちは城下町で、ほぼ同時に発生した争乱の鎮圧に向かったため、戦力が分散している。
更に、王国軍の主力を成す竜撃戦士たちは、巨大な翼竜の死体が発見された現場を中心に、サーニャ姫捜索の任を受け、森へと向かっている。
つまり、城の護りはかつて無いほどに手薄になっている。
それだけではない。突如城内で発生した「白い大型スライム湧出」に続いて、大魔導師ラファートという謎の魔法使いが城内に出現、ゲストである賢者ググレカスが応戦した、という事件が立て続けに発生していたのだ。
後始末や対応で城内は大混乱。衛兵はもちろん、大臣や王政府の職員も含めて対応に大わらわだ。
「あの薄気味悪い連中の突入を阻止できるのは我々だけだ!」
「ここは何があっても通すわけには行かぬ」
僅か7名の衛兵たちは、城の堀に架かる石橋を死守する存在となった。
もし、広場に集まっている30人の戦闘魔導師の集団が一斉に襲ってきたら護りきれるだろうか……、という不安を振り払う。
「しかし、妙だな……」
「えぇ。連中はかれこれ20分もあの様子です」
あの人数と魔法があれば、城門をぶち破り突入することも可能なはずだ。
だが戦闘魔導師と名乗る連中は広場を占拠。ただウロウロと動き回っては、周囲を威嚇するように口々に騒ぎたてているばかりだ。
まるで、何か……時間稼ぎをしているような、あるいは何かを準備しているような。そんな動きにも見える。
「何故、襲ってこない?」
と、その時。
「あー、そういうこと……か」
衛兵たちが護りを固めていた近くの建物、その平屋だての屋根の上に、小さな人影が現れた。
「何者だ!?」
「まて、あ、貴方は……!」
屋根の上にすっと立ち上がったのは、真っ白なマントを羽織った、細身のエルフだった。
綺麗な顔の輪郭に沿って、若草色の髪が揺れている。そして静かな表情を浮かべ、切れ長の瞳で広場を見下ろしている。
「六英雄の魔法使い……!」
「レントミア様だ!」
おぉ……! と衛兵たちがどよめく。
「儀式級魔法を準備しているみたいだね。それも……かなりヤバイやつ」
「な、なんと申された? レントミア殿」
「うん、あの連中、魔法円を広場に描いているよ。多分、魔法使いじゃないと見えないけれど……。巧妙に何か……とてつもない災いを呼び込む魔法の儀式を街の真ん中でやるつもりみたい」
魔法の目を持つレントミアには、彼らの意図が掴めたようだ。
「なんと……!」
「僕と、君たちであれを阻止しないと不味いかも……。もう! こういうのはググレがいれば楽勝なのに……。脱出したとか言ってたのに、どこにいっちゃったワケ?」
少し苛立たしげにマントを振り払うレントミア。
「いずれにせよ、あの連中を広場から追い払えばよいわけですな!」
と衛兵隊長が叫んだその時。
広場の向こうから突然、大柄な二人の半獣人が進み出てきた。
「やぁやぁ! 我こそは『森の主』――!」
「な……なにっ!?」
「あれは以前も城に来た、銀狼族の長です!」
突然の乱入に衛兵たちも驚きの声を上げる。
「あ、熊さん……ベアフドゥも一緒だね! てことは、もしかしてマニュフェルノもいるかな?」
レントミアが魔法の詠唱態勢をとりつつ、眉を持ち上げた。
<つづく>




