祝福(フェス)の導きと、優先すべきこと
ルゥローニィは、迫りくるタツジーンの大型剣の一撃を避け、大きくバックジャンプ。
しかし、背後ではブシドースが大型の盾を持ち、待ち構えている。
「一刻も無駄にできないでござる……ッ!」
ブシドースが構えた大型の盾を蹴りつけるように踏みつけると、駆け上る。更にフードを被った大男、ブシドースの顔面を踏みつけると、空高く跳んだ。
盾を構えていたブシドースがブォン! と力任せに星球武器を振り回すが、空振り。
既にルゥローニィはその頭上を飛び越えて、近くの荷馬車の屋根へと飛び移っていた。屋根は柔らかい布製だが、両手と両足、まるで猫のようなしなやかな動きで衝撃を吸収する。
軽やかな猫耳の剣士の動きに、集まっていた野次馬から「おぉーっ!?」と、どよめきが起きた。
「な、なにっ!?」
「グファアッ!?」
虚をつかれ、間抜けな声をあげたのは二人の刺客のほうだった。
衝撃をほとんど感じさせないよう静かに屋根へと飛び乗ったので、御者も気がついていないようだ。
まるでタイミングを見計らっていたかのように、荷馬車が動き出した。二頭の馬が鞭打たれて嘶くと、ガラガラと音を立てて車輪が回り速度を上げはじめる。
「逃げるのか剣士!」
「待てうぬがグファア!」
「優先すべきは、子供たちでござる!」
刺客の二人組は「人質」と不穏な事を口走った。つまり、街に遊びに行ったプラムやヘムペローザ、ラーナとリオラに危機が迫っている、と考えられるのだ。
最悪、既に襲撃を受け拉致換金されているかもしれない。
それぞれ特別な力を持った子供たちではあるが、明確な意思と作戦を持った大人たちが、本気で襲ってくれば抗うことは難しいだろう。
――ここは一刻の猶予も無いでござる!
ルゥローニィは刺客の相手をすることよりも、まず彼女たちのもとへと駆けつけることを優先と考えた。
城を出る際、『マニュフェルノと合流して城へ連れてきてほしい』と、賢者ググレカスに言われた当初の予定は変更だ。
既にルゥローニィが『賢者の館』に迎えに行くことは、マニュフェルノに知らせていた。ならば、姿を見せない時点で何らかの突発的な事態が発生し、予定を変えたのだと気がつくだろう。
「マニュフェルノ殿は、ググレカス殿にも劣らぬ知恵者にござる故」
ルゥローニィは荷馬車の屋根の上で小さくつぶやいた。
突然始まった二対一の決闘は、ルゥローニィが争いを避けたかのように見えた。
「すげぇ、なんて身のこなしだ!」
「あれは、ルーデンスに来ていた六英雄、猫耳剣士さまだべさ!」
「二対一かよ! 強盗以下のクズ野郎だ!」
「――衛兵さんこっちです!」
「あいつらをとっ捕まえろ!」
周囲に集まっていたルーデンス人や、プルゥーシア人も含めた様々な国の混成野次馬たちは、猫耳の剣士の動きに拍手喝采を送り、禁止されている戦闘行為を突然ふっかけた二人組に非難の罵声を浴びせかけた。
「待て貴様ッ! ……追え、ブシドース!」
「グッファァ!」
投げつけられる小石や、野次馬の罵声などどこ吹く風。戦闘魔導師と名乗った二人組は、ルゥローニィが飛び乗った荷馬車を追いかけ始めた。
「戦略的撤退にござる。また縁があれば、お相手するでござる」
馬車は、ルーデンスの首都を背に森の方へと向かう馬車だ。
大型の剣を構えたタツジーンと、無様に「踏み台」にされたブシドースは、怒り心頭といった様子で、馬車を追いかけはじめた。
ルゥローニィはその様子を見ながら、荷馬車の屋根の上で刀を鞘に収めると、すっと身体を縮めて身構える。
すると、今度は向こうから来た馬車の屋根へと飛び移った。
「にゃっ……と」
別の馬車はより大型で4頭立て。硬い客室を持つ金持ち商人の箱馬車だ。ガラガラと音を立てて、ルーデンスの壁の門に向かい走ってゆく。どうやら許可を得て街の中へと荷を運び込む車両らしい。
追いかけていた方向と、真逆に進む馬車の屋根に飛び移った事で、間抜けな二人の襲撃者をあっという間に引き離してゆく。
「――くっ、くそ!?」
「グッッブァ!」
二人の刺客は悔しそうに地面を蹴りつけ、悔しさを露わにする。背後には衛兵を引き連れた野次馬が迫っている。
まさかあの大人数相手に、大立ち回りをするほど敵も愚かではないだろう。
ルゥローニィはふぅ、と一息をつきつつ、アークティルズの中心部へと向かう馬車の荷台の上で『賢者の館』を振り返った。
庭先では、なんとマニュフェルノと愛する妻のスピアルノが立っていて、ルゥローニィを見送っていた。
「にゃ……!」
マニュフェルノはどうやら「祝福」の魔法を唱えていたようだ。おそらくは「運気上昇」で、ルゥローニィの戦いが有利に進むよう支援をしてくれていたのだろう。
――拙者の動きに気がついていたのでござるね!
荷馬車の屋根を使っての戦線離脱。それは、ルゥローニィの身体能力に加え、マニュフェルノが呼び寄せてくれた「幸運」という要素が上手く力を貸してくれていたのだろう。
すると、スピアルノが「人差し指」を立てた腕を高く振り上げて、そして水平に、ビシリとアークティルズの街と城の方を指し示した。
それは「ルゥ猫が助けに行くっス!」と言っているように思えた。
館の護りは鉄壁、そう簡単に館が危険に晒されることもない。
だから、ここは大丈夫ッス、だと言ってるのだ。
「任せるでござる、スッピ!」
ルゥローニィは静かに、大きく頷いた。
◆
「おばけやしき……? ってなんですー」
プラムが不思議な看板を見上げて小首を傾げる。ツインテールに結い分けた赤毛が揺れる。
大通りから一本裏路地に入ったところで旅芸人の一座が公演をしていた。
「なんじゃ、プラムは知らぬのかにょ」
と、ふんと鼻を鳴らすヘムペローザ。本当に知っているのか疑問だが、とりあえず腰に手を当ててニッと笑う。
「えー? ラーナも知らないデース」
「確か、悪霊をつかまえて見世物にしているのよね……」
ラーナの声に対して、リオラが腕組みをしてうん、と頷く。
「えー!? 怖いですー!」
「にょ……おぉ、そ、そうなのかにょ!?」
「悪霊の声を聞いたから呪われた! ……って昔、村の祭りでイオラが泣いて帰ってきたことがあってね」
と、リオラが笑う。
「ぐーぐを呼んでこないとダメなのデース」
「そ、そうにょ! ここは賢者にょに適当にブッとばしてもらったほうがいいにょ!」
やや震え声のヘムペローザとラーナが、リオラの服の裾を掴んで揺らす。
と、そこへ顔を白く塗った道化師が、愉快な動きでビラを配りながら近づいてきた。
「だぁいじょうぶ! 全て安全で心配のない可愛らしくて、めずらしーい、悪霊が見られるのですよー! ささ! 中へ! 今なら先着4名様、無料キャンペーン!」
「おー、無料なのですー?」
「プラムにょ! 怪しいにょ! タダほど怖いものはないにょ、怖いに決まってるにょ!」
<つづく>
【作者よりのお知らせ】
ファンアート第二弾をいただきました!
館の女の子達などなどで、可愛いです♪
活動報告の方を是非ご覧くださいね




