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 剣客、ルゥローニィの戦い

 ◆


 ――やはり、尾行(・・)されているでござるね。


 妙な胸騒ぎがするし、何か嫌な視線を感じる。


 相手は二人。時折入れ替わりながら尾行してきている。


 駐馬場へ向かう猫耳の剣士(サーベリア)ルゥローニィが、追ってくる謎の気配に気がついたのは城を出てすぐ後のことだ。


 目指す『賢者の館』が駐まっている駐馬場は、首都アークティルズを囲む外壁外側だ。目の前の門を潜り抜けた先にある。


(やく)を持ち帰るわけにはいかないでござるね」


 門をくぐると駐馬場だ。停まっていたキャラバン隊の馬車の隙間を通り抜け、人混みに紛れる。ルゥローニィは腰に下げた愛用の刀の鞘に手を添えながら、歩く速度を上げた。


 これで追跡を()けるとは思わないが、目的はわかるはずだ。つまり仕掛けてくるつもりか、単なる偵察か。


 周囲には、周辺諸国から遠路はるばる、ルーデンス特産の加工肉などを買い付けに来た馬車や、交易品を運んできたキャラバン隊の馬車が100台近くも停まっている。

 プルゥーシア人と思われる白い肌の商人、やや黒髪のカンリューン公国からの商人、いろいろな人種が行き交う。彼らの多くはここで売買相手を見つけて話をつけ、(あきな)いを行う。その後は入国時に申請した品物と、所持金との差額により役人に税を支払って出国する仕組みらしい。


 馬車が行き交う足下の砂利は踏み固められ、周囲の森へと続く道に繋がる、半円形の大きな広場になっている。


 ここから見ると、『賢者の館』は広場の反対側に着地(・・)している。


 とはいえ、これはルゥローニィの目で見た場合の話だ。周囲にいる殆どの人間には視えていないだろう。見えているとしても、普通(・・)馬車(・・)としてだ。

 惑わす魔法を得意とする、賢者ググレカスが施した『認識撹乱魔法(イマジンジャマー)』は強力で、並の魔法使いではその術を見破り、館の姿を拝むことすら出来ないという。


 仮に館が見えたとしても、容易に侵入できるものではない。『施錠魔法(セキュア)』という魔法の力により、暗号鍵の魔法を施された家族以外の人間は、弾き返されてしまう。


 つまり賢者ググレカスの「ファミリー」は特別な解呪の魔法を授かっていて、館として普通に見て、自由に出入りすることが出来る、というわけだ。


 追跡者の目的がルゥローニィではなく、強固な防御魔法で護られた『賢者の館』への突入ならば、わざわざ案内することもない。


 ――ここでお相手するのが最善でござるね。


 ルゥローニィがそう思い少し開けた場所へ出て、はたと歩みを止めた時だった。


 ドズン! と真横の馬車が大きな音を立ててきしみ、揺れ動いた。御者が驚いた馬をなだめ、後ろを振り返ると「あっ!?」と声を上げた。


 大きな黒い影が馬車の屋根に乗っている。ルゥローニィが立っている位置からはちょうど逆光で、顔や姿の細部は見えない。

 だが、その怪人は獲物を狙う獣のように、血走った目を向けているのがわかった。


「ふしゅるる……!」


「何用でござる?」


 屋根の上の怪人は、大柄で手足は太い。背中に亀の甲羅のような金属板、おそらくは盾を背負っている。ルゥローニィは魔法のことはよくわからないが、そこから妙な気配がした。

 


 馬車から距離を取ろうと、後ろに飛び退いた、その時。


 視界の隅で、銀色の鋭い光が瞬いた。


「――御免!」

「にゃっ!?」


 ルゥは咄嗟に身体をひねり、巨大な剣の一撃を避ける。それを剣先だと判断し、対応できたのは生来の優れた動体視力に加え、日々の鍛錬の賜物だろう。


 二人目の追跡者だった。


 またも大男。それも振り回した剣も並の剣ではない。刃渡りは1.5メルテほどもある長剣(ロングソード)だ。しかも刃の部分に魔法の文字が刻まれて、淡く光っている。


 ――魔法剣……!?


「こんな天下の往来で、一体なんのつもりでござるか!?」


「少々、お時間(・・)を頂きたく、仕掛けさせていただきます」


 礼儀正しい声で一礼をする大男の毛並みは赤。その頭の上には、ピンと立った先端だけが黒い耳が見えた。

 タイプは大型の犬型半獣人。猫耳族のルゥローニィが子供に見えるほどの体格差がある。


「まずは名乗るべきでござろう」


 ルゥローニィの言葉に、剣を一度下げ礼をする。


「失礼いたしました。私はタツジーン。ある組織で、()戦闘魔導師(・・・・・)として勤めております」


「魔導師にはみえないでござるね」

「戦っていただければわかります」


 ビキッ……と上腕筋が肥大化する。肉体強化系の魔法を使っているのだろう。それに手に持った剣も得体が知れない。


「このような場所でのいきなりの暴挙、理由を聞かせてほしいでござる」


 刀を鞘から抜き、地面に切っ先を向けて、静かに構える。


 既に周囲は大勢の野次馬が集まりつつあった。


 更に背後でズゥム! と音がした。先程の屋根の上の大男が地表に降りて、ルゥローニィを挟み撃ちにする位置につく。


 さっと視線を背後に向けると、同じく半獣人。髪の色は青紫。


 左手には大きな「盾」を持ち、右手にはモーニングスター。これはトゲが無数に生えた金属球を鎖で繋いだ打撃武器だ。


「その男は、ブシドース。盾の戦闘魔導師にございます」


 剣と盾、二人で一人を攻撃するとなればかなり厄介な相手だとルゥローニィは判断する。

 タツジーンという剣の使い手は得体が知れない。かなりの剣豪と見る。

 後ろのブシドースが持つ分厚い盾はかなりの大型で、ルゥローニィが持つ刀では、付け入る隙きがなさそうだ。

 おそらく攻撃を盾で防いで、鎖付きの棘付き鉄球で殴ってくるはずだ。


「……困ったでござるね、拙者に戦う理由がないでござる」


「グフュルル……、賢者ァググレカァスは消え、娘達(・・)も預かったァ」


 盾を地面でドズンと突きながらブシドースがせせら笑う。


「……なんでござると!?」


「グフュフュ……つまりこの街で、壊滅。住民に襲われ、壊滅。ナイス作戦」

「口を慎めブシドース」


「人質、ともうされたか?」


 ルゥが静かな怒りの炎を瞳に宿す。


「お分かりいただけましたか? つまりここで……貴殿を倒させて頂く!」


 タツジーンが大型の剣を振りかざして地面を蹴った。凄まじい爆発力に地面がめくれ上がり砂埃が舞う。


 ルゥローニィも地面を蹴った。真正面へでは無く、後方(・・)へ。

 迫りくる大型の剣から間合いを取るように、ステップを踏み――背後へとジャンプ。

「グフアッツ!?」

「何ィッ!?」

 バックジャンプしたルゥローニィは風に乗る羽のような身軽さで、ブシドースが構えた大型の盾を二歩、踏みつけると空高く跳んだ。


「一刻も無駄にできないでござる……ッ!」


<つづく>

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