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 鎧袖一触(がいしゅういっしょく)のレントミア

【作者よりのお知らせ】

 今回はレントミアくん目線の三人称表現となります。

 いつもとすこし違う雰囲気をお楽しみ下さいね!


 ◆



 戦闘魔導師、と名乗った3人の男たちはレントミアを三方向から取り囲んだ。


 黒い(なめ)し革のマントは縁に赤い刺繍による縁取りがされている。階級を意味するのか、三人それぞれ文様が異なる。何かの組織に属しているのだろうかと思われた。


 ここはルーデンスの首都アークテイルズの大通りの広場。昼間ということで人通りも多く、道行く人々が足を止め大きな人垣が出来上がりつつあった。


 突如始まった「魔法使い同士が睨み合う」というルーデンスでは珍しい状況に、人々は何事かと興味と不安の交じる視線を向けている。


「狙いは僕? それとも……他の何か?」


 レントミアは訝しげな表情を浮かべながらも、戦闘用の索敵結界(サーティクル)を地面に薄く展開し、尋ねた。


 魔力波動を感じることのできる者ならば、緑色の細い線で描かれた魔法円が、まるで波紋のように周囲に広がってゆくのが見えるだろう。

 これは賢者ググレカスにも教えた魔法――索敵結界(サーティクル)原型術式(プロトタイプ)だ。

 敵の気配、位置、使う魔法の種類、その出力。全てを同時に「感知」することが出来るという、本来は感覚拡張魔法(オーヴァセンス)に分類されるものだ。


「美人エルフが絡まれてるぞ!?」

「賢者様御一行の魔法使いさんじゃない……?」

「余所者の魔法使いが三人がかりでなにやってやがる!」

「ありゃマズいんじゃねーか!? 誰か衛兵を呼んでこい!」


 ざわ、ざわと、周囲の野次馬たちが騒ぎはじめる。

 それを頃合(・・)いと見たのか、三人のリーダー格らしい一人が声も高らかに叫んだ。


「ルーデンスは我ら『()王国(・・)』が支配する!」


 その声に、人垣の輪がどよめいた。

 だが、レントミアはさほど興味なさそうにエルフ耳をつまむと、ぴんと弾いた。


「あっれー? 今さぁ、キミ『影の王国』って言った……? それって、このあたりの森で暮らす半獣人の部族の通称でしょ? 戦闘魔導師なんて魔法使いがいるの? ……ホントに? ねぇ、顔を見せてよ」


 7メルテほどの距離を空けて対峙する相手に向け、レントミアは腰に手を当てて少し前かがみになって相手のフードを覗き込む。


「……!」


 頭に被ったフードで隠れて見えないが、僅かに動揺した気配が伝わってきた。


「どうして顔を見せられないの? 森の王国の人なら、耳があるんでしょ?」


「お、お前を始末させてもらう、ハーフエルフ!」

「メタノシュタットの魔法使い風情が生意気な!」

「我ら戦闘魔導師、無眼流三人衆を相手にいつまで余裕でいられるかな!」


 三人が順番に叫ぶと、マントを振り払うようにして両腕を突き出した。身構えて魔法の詠唱態勢に入る。

 戦闘魔導師(・・・・・)の腕には指先までびっしりと「タトゥ」が彫り込まれていた。見たことない魔法の文字と魔法円が織りなす文様は、それ自体が魔導書としての力を有する。

 文様が瞬時に赤黒い光を放ちはじめる。


 ――高速詠唱用の埋め込み、フィックス術式……!


 レントミアは瞬時に敵の魔術特性を理解する。詠唱時間を最短とするため、身体に魔法円や魔法術式を彫り込んでおく手法だ。

 戦闘に特化した魔法使いが使う事が多いが、自らに埋め込むことで高速での魔法励起が可能となる反面、他の魔法の詠唱が出来ないなど、融通が利かないという弱点も有る。


 三人がそれぞれ別の魔法を励起し、同時に仕掛けてくるつもりなのだ。


「え? 三対一だけど……」

 レントミアがくるりと見回して、呆れたように声を漏らす。


 前衛となってくれる戦士も剣士も居ない。

 ましてや、無敵(・・)結界(・・)を自在に操る親友、賢者ググレカスが居ないのだ。


 ――ググレ……どこに行っちゃったのさ?


 忽然と魔力の反応が消えたググレカスに想いを馳せる。


 だが三人の戦闘魔導師は、レントミアの憂いを帯びた表情を、違う意味に解釈したようだ。


「怖気づいたか! 六英雄(・・・)の一人と謳われし最強の魔法使いとて!」

「前衛も居ない、庇護する賢者ググレカスも居ない今なら……!」

「倒せる! 最強殺しの栄誉は我らの手に……!」


 三人の周囲に魔法の力が励起され、ドウッ! と円柱状に砂埃が舞った。


「あのさ……三人(・・)じゃ足りないんじゃないのって意味だけど?」


 レントミアが小馬鹿にしたように言い放った。


「なっ……!?」

「にっ……!」

「き、貴様ァア!」


 激昂し顔を赤くした三人が吠える。

 それに対抗するように、レントミアが瞬時に魔法術式を編む。


 ――ウ・ルの門よ開け、風の精霊よ舞え、熱き砂塵、冷たき流砂、我が盾とならん――

 ――地獄の業火の番人にして、六柱魔の忠実なるしもべ、誇り高きフィフ・ア・ズールの炎の伯爵よ我に力を示せ、一条の赤き光の刃となりて汝の敵を討ち果たさん――


 強化型の結界を重ねたものと、火炎系の魔法。同時に複数の呪文を唱え、瞬時に魔法円を積み重ねてゆく。並の魔法使いなら一つの魔法励起が関の山だが、レントミアは複数の魔法術式を並行詠唱しながら同時に積み上げ、励起してゆくことが出来る。

 自ら生み出した圧縮言語(・・・)を組み合わせるこの手法は、自律駆動術式(アプリクト)の原型だ。思考の速さもそのままに魔法円を幾重にも積み重ね、魔法を励起する。


 この間、わずかに3秒ほど。


 背後に立っていた三人衆の一人が、猛然と地面を蹴り、レントミアの背後に迫る。


「バカめ、油断したな……!」

 全身がマントの内側でボコボコと盛り上がっているところを見ると、筋力強化――魔力強化内装(マギネインティクス)の使い手だ。

 手には刃のような物が見えた。索敵結界(サーティクル)が警告を発する。それは魔力を帯びた魔法使い殺傷用の、呪いの武器だと。


「じゃ、遠慮はいらないね」


 手加減は無用。魔法戦闘のルールを示したのは敵だ。


 しかも――敵の三人は誰も気がついていない。遥か15メルテ上空に生み出されたばかりの、真っ赤に燃える「炎の塊」の存在に。


 敵の一人が湾曲した黒いナイフをレントミアの背中を狙って突き出した。周囲の人垣から「きゃぁあっ!?」「危ない!」と悲鳴が上がる。


()っ――!」

 黒い刃物の切っ先が、レントミアの背中に迫り、男の口元がフードの下で喜悦に歪んだ、その瞬間。


「『指向性熱魔法(ポジトロール)』」


 レントミアは背後も振り返らずにつぶやいた。


 ジッ……! と、突き出された黒いナイフが赤熱、ばっと溶けて飛び散った。真上(・・)から放たれた赤い熱線が、男の腕を瞬時に黒焦げにする。燃え上がった右腕を押さえながら、男は悲鳴を上げて前のめりに倒れると地面を転がりまわった。


「ぎッやぁあああああ!?」


 それは、頭上15メルテからの熱線魔法(・・・・)による、精密狙撃だった。

 無論、索敵結界(サーティクル)により、敵の一挙手一投足、振り上げた腕の位置に至るまで「視え」ているからこそ出来る芸当だ。


 火炎魔法の放つ熱線を一方向に収束し、まるで光の刃のように放つ『指向性熱魔法(ポジトロール)』は、精密な狙撃と貫通力に優れている。手からの水平撃ちでは周囲に被害が及ぶと判断したレントミアは、最初から頭上から撃ち下ろす位置で魔法を励起していたのだ。


「惜しい、切断してやろうとおもったのに」


 純白の最上位魔法使いを示すマントを振り払うと、地面で丸くなって喘ぐ男の背中を、足で踏みつけてあざ嗤う。


「き、貴様ぁああ!?」

「よ、よくもジーソを!」


 だが、彼らは最初に気がつくべきだったのだ。メタノシュタット王国が誇る、最強魔法使いの「間合い」に入った時点で、もはや勝ち目など無いことに。逃げ道も隠れる場所さえも無いことに。


「答えてよ、他にも刺客がいるの?」


 残り二人は、それぞれ氷の刃と炎の塊を励起していた。顔を見合わせて、そして頭上を見上げて震え上がる。


「……は、ハハハ! もう遅い! 既に……別働隊(・・・)が、賢者ググレカスの娘達を拉致し、人質にしているころさ」

「俺達はそれまでの足止め……! あぁ、目的は果たせた!」


「あ、そ」

 ビギィイイ……! と二本の赤い光の線が地面を焦がす。赤熱し煙をあげる光の点が、まるで蛇のように二人の戦闘魔導師の足先を通り過ぎた。

 途端に、両足の先から煙が立ち上った。


「ぐっぎゃあぁあああ!?」

「ひぎゃあぁああ!?」

 二人は悲鳴を上げて同時に地面に倒れこむと、励起していた魔法が霧散。這々の体で逃げ出し始めた。


「ひ、いいい!?」

「あっ、あああ!」

「ま、まて……!」


「そうそう、その悲鳴いいね。ほらほら背中に当てちゃうよー、キャハハ!」


 ビッ! ジイイッ! と赤い光が三人を追い立てる。レントミアは実に楽しそうだ。心の底から愉しいという表情を見せるのは久しぶりだろう。


 歩くことさえままならず、這うように逃げだす三人を、ルーデンスの人垣は通すことはなかった。


「店の前で、あの美人さんに絡んでやがったな?」

「てめーら、三人がかりってのが気に食わねぁな」


 ヌウッと、大柄な男が二人立ちふさがった。


 一人は白髪の食堂の店主。白衣にコック帽ではあるが胸板は厚く筋骨隆々。明らかに「元・竜撃戦士」といった風体だ。

 もう一人はハゲた宿屋の主人だが、とんでもない筋肉ダルマだ。ゴキ、ゴキと首を鳴らし鋭い目つきで余所者三人を睨みつける。


「ヒッ!? いや、ちょっ……!?」

「じゃ、邪魔するな我らの崇高なも、もく……」

「あ、あぁああやめっ!?」

 ボコボコという音と情けない悲鳴が通りの広場に響き渡った。フードが取れた男達は普通の人間だった。

 やがて「衛兵さん助けて!」という悲鳴など聞こえなかったかのようにレントミアは歩き出した。


「さて、ググレよりもまず皆をたすけなきゃね」


<つづく>


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