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 大魔導師ラファート・プルティヌスの挑発

【作者ニュース!】

 「活動報告」にいただき物のイラストを公開しました!

 なんと「ちびメーカー」アプリによるレントミアきゅんなのです。


 ◇



『了解。じゃぁ今から、お城のほうに向かうね』


 魔法の通信ウィンドゥの向こうで、ゆるふわおさげ髪のマニュフェルノが頷いた。


「巻き込んですまないな、マニュ。ルゥローニイが迎えに行ったから二人で来るといい』

首肯(うん)。わかったわ。ルゥくんと一緒なら安心ね』

「そうだな」


 ルゥローニィは「鍛錬でござる」といって軽やかな駆け足で城を飛び出していった。アークティルズ城から駐馬場に着地した『賢者の館』まで、直線で五百メルテほどの距離だ。


 ルーデンスの首都、アークティルズの城下町は他の街に比べても安全で、昼であれば子供が一人でお使いに歩いている程に治安もいい。

 街の住民たちは連帯意識が強く、助け合って生きている感じがする。それに街の中を歩いている衛兵や竜撃戦士は信頼されていて、住民たちと気さくに会話をしている場面をよく目にする。

 

 とはいえ、妙な陰謀の気配が漂う今、独り歩きは避けたほうが良いだろう。無論、レントミアやルゥローニィは別だが。


「それとレントミアもそっちに向かっている。館の留守番組の面倒を見てくれるそうだよ」


『留守。今はスッピと四つ子たちがお部屋でお昼寝してるわ。それと、ベアフドゥさんとニャコルゥさんはさっき、森の主のところへ行くって言って出ていったし……』


 マニュフェルノがのんびりとした口調で言う。部屋で二人きりで話している時のような感じがしてホッとする。


 ベアフドゥとニャコルゥは『森の(あるじ)』を呼んでくるつもりなのだろう。少し距離があると聞いたが、彼らにとっては森はホームグラウンド。気にする事もないだろう。


「あれ? ところでプラムとヘムペロ、ラーナとリオラは?」


『娘達。子供たちと妹ちゃんは、四人で買い物……買い食いかしら?』

「大丈夫かな」

『安全。しっかり者のリオラが一緒なのよ?』

「ま、それなら安心かな」


 マニュフェルノはリオラを信頼している。それに「(リオ)ちゃんを大切にして可愛がってあげて」とも言う。その度に俺は、マニュを一番愛してると言って抱きしめるのだが。

 それはそうと、プラムとラーナだけで街に行ったとなれば心配だが、頭の回るヘムペローザが一緒だ。更に腕っぷしには定評のある……いや「しっかり者」のリオラも一緒なら心配はないだろう。


 あとで魔法の通信で様子を見てみよう。


 魔法の通信は、相手が通信用の魔法道具を持っている場合にのみ可能だ。

 マニュフェルノの場合は『金の腕輪』を持っているが、声だけが通じる音声通話機能を有している。

 ヘムペローザやプラム、リオラも魔法のペンダントなどを持っているが、最近は「お年頃」ということもあり、映像送信の術式は消している。(ちなみにこれは、マニュフェルノの提案だ)それと、双方の通話を可能とする「魔法のスイッチ」は、本人たちに任せている。


 つまりプラムやヘムペローザが望まない限り、互いに声は届かない。ただの水晶ペンダントのアクセサリーというわけだ。


 ちなみに今、俺がマニュフェルノと交わしている会話はリビングダイニングに設置してある通信用の魔法道具、『水晶球通信』を使っている。


 この水晶球で映し出せる範囲はリビングダイニングの中全体。皆にも「向こう側から見える可能性もあるよ」と注意をしている。

 だから時々、壺の中に投げ入れられていたり、床を這い回る『便利道具(ガジェット)』に飲み込まれていたりするのだが。


 あとひとつ、門柱の上に飾っている水晶球にも同じ魔法術式が仕込んである。庭先から館全体や周囲の様子を見渡せるので防犯上の意味が大きい。何よりも今は、騎士団長ヴィルシュタイン卿と王政府への映像中継という大事な役目を担っている。

 これら2つの水晶球の範囲は、俺が映像や音声を拾い『戦術情報表示(タクティクス)』に映し出すことが出来るようになっている。


 俺は魔法通信の点検を終え、眼前に浮かんでいた半透明の小窓(ウィンドゥ)を閉じた。


「さて、俺は城の中を少し散策させてもらうか」


 ルゥローニィもレントミアも居ないので一人になった俺は、城の廊下を歩き出した。


 妖精メティウスは少し休憩ということで、賢者のマントの内ポケットに忍ばせた、王都で人気の恋愛小説の中で眠っている。


「あ、キミ! あぁ怖がらなくていい。私はググレカス。知ってる? そう! メタノシュタットから来賢者の名を冠された有名な魔法使いで……」


「もっ、もちろん存じ上げております」


 廊下の途中で通りかかった可愛いメイドさんをつかまえて、サーニャ姫を見かけなかったかと尋ねてみたが、やはり昨夜から姿を見ていないようだった。


 と、その時だった。


『……ググレカスさんですか……?』


 不意に、女性の声がした。


 それは魔法通信だった。秘匿された魔法通信の波動に割り込んできたのだ。王都メタノシュタットからの長距離通信ではない。


 今この状況で語りかけてくる相手……まさか!


 瞬時に対抗術式――波動の発信元を特定する逆探知の術式が動き出す。索敵結界全体の僅かなゆらぎを検知して、方向と距離を割り出すのだ。


「どなたですか? まずは名乗って頂きたいのですが」


『……失礼しました。わたくし、ラファート・プルティヌスと申します。義弟(おとうと)が、そちらでお世話になっているようですね」


 なんと、疑惑の中心、大魔導師が自ら語りかけてきたのだ。


 魔力波動の発信元は不明だが、方向は北西。距離は……少なくとも、アークティルズ周辺からの近距離通信の波動と見える。そこは翼竜(ワイバーン)の死体がみつかった場所に近い。


「あ、あぁ! ルーデンスの宰相殿の……姉上様でしたか。確か、プルゥーシアの大魔導師様であらせられると伺っておりますが、何の御用ですか?」


『……ご存知でしたか。話が早くてたすかりますわ』


 取り繕ったように丁寧だが、掴みどころのない抑揚の少ない話口調。弟である宰相、ザファート・プルティヌスもどこか仮面めいた表情が特徴的だった。

 

 政敵の義弟を追放したと聞いたが、そこのところも本当だろうか気になっていたところだ。いろいろとちょうどいいタイミングだ。


「いやはや、手間が省けて助かります。して、ご用とは?」


『……はい、そちらのお姫様……サーニャ姫を預かっております。無事に返してほしければ、何も無かったことにして、王都にお帰りいただけませんか?』


 実にわかりやすい脅迫だ。そして、黒幕(・・)の登場と言うわけだ。


「おや、それは困りました。私は色々と見て聞いてしまいましたからね。何もなかったことにはできませんよ」


『……そうですよね。お立場上、答えは予想できますが。一応、確認したかったのもので』


「ところで、一つ聞かせてほしい。弟君である宰相ザファートは貴女の意思で動いていたのですか?」


『……いいえ。それは明確にノーです。彼は私が追放した身。もっとも……遠大な計画(・・)の手コマとして送り込んだのですが、彼自身は気づいて居ないでしょうが』


「なるほど、そういうことか」


 しかし、魔導師ラファート・プルティヌスは突然、なぜこんな話をしているのだ。


 それに何故、()なのか。


『……賢者ググレカス、貴方は今こう考えている。なぜ今なのか、と』


「そうですね」


『……お一人になる瞬間を、ずっと待っていたのです』

「なに……?」

『………そこから10メルテ廊下を進むとバルコニーが見えます、貴方を倒す方法をお見せしましょう』


 わずかな間をおいて、声にやや喜悦のような歪みが混じる。


「倒す……だと」


 大した自信だ。コソコソと隠れて卑劣な手を使い、ルーデンスを混乱させていた魔導師風情が。

 俺は言われた方向に歩き出した。


 廊下の先にはバルコニーが有る。そこから何が見えるのか。いや――遠隔からの狙撃(・・)か?

 

 バルコニーの手前で立ち止まると再びの声。


『……さぁ、どうぞ外をご覧ください。それとも、怖気づきましたか?』


「ぬかせ」


 索敵結界(サーティクル)に、改良を重ねた全一六層の「賢者の結界」も健在だ。一撃で俺を倒す方法などあるものか。

 

 一歩、バルコニーに向けて足を踏み出した、その瞬間。

 

 バコッ、という音が足下で響き、床に四角い穴がポッカリと開いた。


「――え!? ……っえぇああッ!?」


 視界が黒く染まり、強烈な落下感が全身を包む。

 俺は理解した。あまりにも単純な「()とし()」に嵌ったことに。


<つづく>


【作者よりのおしらせ】

 といわけで、賢者ググレカス初の大ピンチ?w

 なのですが明日はお休みを頂きます。

 休載:7月24日(月)

 再開:7月25日(火)

 また読みに来ていただけるとうれしいです!

 ではっ!


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