ひねくれ賢者の人探し
サーニャ姫が行方不明。
この事をメタノシュタット本国に連絡し、食中毒事件の顛末を知らせるべきか考えたが、もう少し調べてからにする。
ルーデンスに到着して2時間あまり。報告するにしても起きている事象と情報の断片だけでは、事件の全体像が掴めないからだ。
「でもさ、サーニャ姫を探すと言っても雲をつかむような話だね」
「そうでござるね。ルーデンスの森は広大で視界も悪いとなれば、土地勘のない我々では厳しいのではござらぬか?」
「そもそも本当に森に行ったのかな? 宰相の話は全部本当なの? 城の中に幽閉されているとか、街の中に隠れているとかかもしれないじゃん」
「疑いだしたらキリがないでござるね……」
レントミアとルゥローニィの会話を聞いていた俺は相づちをうった。
「ふむ……たしかにな」
「賢者ググレカス、どうなさるおつもりです?」
アークティルズ城の謁見の間を辞した俺達だが早速、問題にぶつかった格好だ。
「ルーデンスの王様には勝手に調べさせてもらう許可を得た。だが、森の捜索は土地勘の有る城の衛兵や、竜撃戦士たちに任せよう」
「そうだね。今から森を歩き回るのはゴメンだよ」
森に親しいはずのハーフエルフが、面倒くさそうに頭のうしろで腕を組む。
城の廊下を衛兵たちが走り抜けてゆく。慌ただしくなった城内で俺達は通路の隅に避けて道を譲る。
「では、拙者達は?」
「独自ルートでしらべよう」
まず、人探しといえばマニュフェルノの魔法が有効だ。
マニュフェルノは、たまたま拾った品物や風で吹き込んできた落ち葉でさえも、何か魔術的な意味があると考えるようだ。彼女はこれら「印の品」を利用して、たずね人や失せ物を見つけるような、原初的な「まじない」を使う事ができる。
ある程度範囲や場所が絞れれば、対人用の『索敵結界』で反応を探る、という手も使えるだろう。
以前行動を共にしたサーニャ姫の個人的な波動の記録は残っている。
身につけている服や鎧によっても『索敵結界』の反応は変化するのだが、戦術情報表示を構成する自律駆動術式に記録している波動の情報はある程度使えるはずだ。
「じゃ、マニュフェルノを呼ぶ?」
「そうだな、魔法の通信で呼びかけて、今から城に来れないか聞いてみよう」
「つまり、城の中から捜索するのでござるか?」
「あぁ。なんとなく……気になるからな」
「灯台下暗しということもあるでござるしね」
「そういうこと」
あんな話を聞かせられれば、誰しも城から飛び出して森を捜索したくなる。だが、ここは捻くれた賢者として、他人とは違う方向性で調べることにする。
「すまないがレントミアは館に戻って皆のことを頼んでいいか? 手薄にするのは心配だ」
「いいよー。みんな退屈してるだろうから、城下町で買い物とかしているね」
「あぁ、だが買い食いには注意しろよ」
「りょうかいー」
城の廊下をすたすたと進んでゆくレントミアを見送る。俺は早速、魔法の通信でマニュフェルノに呼び掛けた。
◇
「暇だから買い食いにいきますかー」
プラムが立ち上がった。ここはリビングダイニングの長テーブル。
「賛成デース!」
「なんだかマニュ姉ぇがさっき、賢者にょと魔法で話してたにょ。レン兄ぃも来るみたいだし良いんじゃないかにょー」
「ではお肉をたべにいくのですー」
「プラムにょ……さっき健康のために肉を減らせって言われたばかりにょ」
「んー?」
<つづく>




