サーニャ姫の行方
【作者よりのお知らせ】
帰宅が夜の12時を過ぎていて執筆できませんでした…。
最新話は明日、公開しますね!
「サーニャが行方不明とは、一体どういうことですか!? 私は聞いていない……!」
ファリアは険しい表情となり、椅子から立ち上がった。その横では驚きと共に心配そうな表情をうかべて顔を見合わせる王と王妃。
ファリアは宰相ザファート・プルティヌスに詰め寄った。
「そ、それが……昨日の夕方にお一人で『お花を摘みに行く』と申されて……馬で森のほうへ」
「お花摘みだと……!? 一晩、帰っていないではないか!」
「し、しかしワタクシも全てを管理しているわけでは……」
「『お花を摘みに行く』とは、ルーデンス乙女にとって『狩りをしに行く』……転じて『お礼参り』という意味の隠語でもあるんだぞ! 何故、今まで言わなかった?」
「それは……」
途端にしどろもどろとなる宰相の様子に、ジーハイド王が強い調子で詰問する。
「お花が……どうしてお礼参り?」
「真っ赤な血の花を咲かせる……ということかな」
「うわぁ」
レントミアが首をふる。
「申せ、何を隠しておる?」
俺とルゥローニィとレントミアは、そのやりとりに口を挟む事もできずに成り行きを見守るだけだ。
「……実は、今回の汚染された肉の、購入話を最初に持ち込んだのは……サーニャ姫様にございます」
宰相、ザファート・プルティヌスが重い口を開いた。
「なんと!?」
「では、サーニャはまさか……!」
ジーハイド王とファリアの様子から、次女であるサーニャ姫、独断による単独での行動と見て間違いない。
「サーニャ姫様は、今回の一連の騒動で思い詰めたご様子でした。話をつけに行くと申されて……ワタクシ反対したのですが。強く口止めされて……」
「サーニャは肉の売り主のところへ向かったということか!」
「おそらく……そうかと」
「衛兵をすぐに手配し探させろ! 場内にいる竜撃戦士で出撃できる者は出撃の準備を!」
ジーハイド王は謁見の間に響く声で命じた。壁際にいた衛兵たちの動きが慌ただしくなる。
宰相ザファート・プルティヌスは青ざめている。本来は次女に口止めされたとしても、忠義を感じているジーハイド王には相談すべき話だったはずだ。
俺は、じっとザファート・プルティヌスを見据えて思案、状況を整理する。
今回はいろいろな情報に惑わされ、判断を急いで失敗し、後手に回っている。これ以上の失態は避けたい。
まず、今回の食中毒事件を引き起こしたのは、ルーデンスを狙うプルゥーシアの特殊工作員の手による作戦と仮定していいだろう。
宰相の話が本当ならば、仕掛けた相手はプルゥーシアの魔法使い、それも特上の力を有する『魔道士』だという。裏付けは取れていないが『魔法毒』を解読、あるいは地面に描かれていたという魔法円を解析すれば敵の正体は判明するはずだ。
これまで姿を見せず立ち回っている手際は、特殊工作員として「最大の効果」を得るための戦術なのだろう。
真正面から襲ってくるよりも余程、たちが悪い。
だが――気になる点もある。
それは宰相ザファートの姉だという『魔道士』、ラファート・プルティヌスだ。
サーニャに肉を卸したのが彼女だとすれば、危険な状態にある。下手をすれば人質にされる可能性があるからだ。
宰相がこの事を報告しなかったことは、サーニャ姫本人が口止めをしたとしても、敵に塩を送るのも同然だ。これではまるで、敵を援護しているようなものだ。
まさか、宰相の姉だという『魔道士』ラファート・プルティヌスと、暗黙のうちに共同作戦を展開している……なんてことはあるまいか?
宰相ザファートが語った、国を追われた身の上話とて嘘だとも真実だとも証明できない。
――両方の可能性を考えて、ここから行動するべきか。
「サーニャ姫に肉の売買を持ちかけた相手って、つまりは魔法毒を仕込んだ人物……魔法使いラファート・プルティヌス本人か、その手下ってことだよね」
「だとすれば危ないですわ、賢者ググレカス」
「ググレ殿! 拙者達も行くべきでござろう」
「そうだな行こう。魔法で探し出せるかもしれない」
ルゥローニィとレントミアに頷き返す。
「ググレ! 私も行く……!」
ファリアがドレスの裾を邪魔そうに持ち上げながら駆け寄ってきた。
「いや、ファリアはここに残るべきだ。王と王妃を守るんだ。決して油断するな、何かあればすぐに知らせてくれ。『金の腕輪』は持っているか?」
「一応は、な」
ファリアはフッと微笑んだ。
「よし、ではサーニャを探しに行く」
事態が動き出したようだ。ここからは館のみんなにも、警戒するように伝えなければなるまい。
俺は王に対し、独自に動かせていただきますと断ってから謁見の間を後にした。
<つづく>




