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 宰相の身の上話と、真の敵

【作者よりのお詫び】

 昨日は疲れで寝落ちしてしまい、執筆できませんでした(汗

 ご心配をおかけしましたが連載再開となります★





 ここはルーデンスの首都、アークティルズ城の「謁見の間」。俺はレントミアとルゥローニィと共に、ルーデンス王の御前に立っていた。


 光の差し込む美しい広間は、柱や壁のそこかしこに、ルーデンス建国の歴史と花鳥風月をレリーフした繊細な彫刻が施されている。

 屈強な「竜撃戦士の国」という印象が強いルーデンスだが、長い冬の間は雪に閉ざされる土地柄で、色鮮やかな自然への憧れがこうした深い美意識を生むのだろう。ファリアにそうした美意識があったかは……謎だが。


「賢者ググレカス殿にもわかるよう、事の顛末を報告せよ、宰相ザファート・プルティヌス」


 ルーデンスの王であり、族長(・・)のアンドルア・ジーハイド・ラグントゥスが、白い髭を扱きながら命じる。

 痩せてすっきりとした印象だが、玉座に腰掛けるとやはり風格が戻ってくるから不思議だ。


 発せられた言葉から察するに、王はなんらかの事情を知っているのだろう。宰相と王のみが知る、ファリアや国民が知らなかった真実を。


 俺達は正面の一段高くなった場所に座るルーデンス王と王妃、そしてファリア姫と向かい合っている。宰相であるザファート・プルティヌスは玉座に近い位置に立つと、事の顛末をゆっくりと話し始めた。


「はい。では、最初から説明申し上げます。……そもそも、ワタクシがこのルーデンスの王宮にお勤めさせて頂いておりますのは、ひとえに偉大なるジーハイド王に拾って頂いたからに他なりません。生まれ故郷のプルゥーシア皇国では権力争い……政争(・・)に巻きこまれ、あらぬ疑いをかけられて、斬首寸前という身でしたから……」


「まぁ……?」

「なんと、そうだったのですか」


 驚いた表情の妖精メティウスと顔を見合わせる。検索魔法(グゴール)では身辺調査の及ばない話だったからだ。


「えぇ。ググレカス殿を出迎えた()番人(・・)である竜騎兵の二人も、元々はワタクシの屋敷で働く私兵でした。それに『健康指導協力隊(ヘルシアフォース)』のメンバーも全てワタクシに仕えてくれていた昔からの者達でして……。彼らにも苦労を強いています。あわや全員拘束という噂を耳にしたワタクシたちは、亡命する決意をしました。宵闇に紛れて翼竜(ワイバーン)の背に乗り、国を去りました」


 宰相の口から語られたのは、とんでもなく辛い逃避行。身の上話だった。


 食中毒と何処で繋がるのか興味が湧くところだが、ここは今しばらくレントミアと共に耳を傾けることにする。


「しかし、すぐに追手が迫りました。私たちはなんとかルーデンスの領地まで逃げてきましたが、森へ不時着……。迷い彷徨っておりましたところを、通りかかった竜撃戦士の方々に救って頂いたのです」


「疑いから亡命ね。疑われやすい体質なの……?」

 レントミアが訝しげに尋ねる。


「おそらく……幼い頃からワタクシ、目つきが悪いせいで……よく疑われます。学舎でも誰かの給食費が盗まれるとまず最初にワタクシが必ず疑われたり……ううっ」


 思わず涙ぐむ宰相ザファート・プルティヌス。


「あ、ごめん。古傷をえぐっちゃったみたい」


 真面目な話をし始めると、宰相は老けたような暗い表情になった。

 年の頃は三十代も半ばで、貴族階級出身だとわかる言動は板についているが、くたびれた中年のような顔だ。


 出会った時は「ニッコリ」とした貼り付けたような笑顔が印象的で、人懐っこいが胡散臭く思えた。どうやらそれは本来の暗い表情を隠すための「仮面」だったのだろう。


「結局こうなってしまうんですね……」


「実はザファートは、ワシが若い頃プルゥーシアに半年間留学した時、宿泊先やらいろいろと手配してくれた貴族じゃった。すっかり忘れておったがのー。恩義があるから、雇うことにしたのじゃよ」


 と、ジーハイド王も異国からの亡命者を起用した理由を語る。


「そうでしたか、納得です」

「しかし、ザファートは良く働く男ぞな。食中毒事件でも、いち早く気がついて対策を練り、よくぞやってくれておると評価しておったのじゃが……」


「賢者様、最初……ワタクシを見て、お疑いではなかったですか?」

 じぃ……と暗い表情で俺を見る宰相。


「いっ!? いや、そんなことは……」

「いいんです……そういうの、慣れっこですから。疑われるのはいつものことですし」


 自嘲気味に床に視線を落とし、ため息をつく宰相。なんだか申し訳ない気持ちで一杯になる。


「でも、仕事ぶりは凄いと思いますよ、ジーハイド王が申されたとおり、素早く的確な指示を出されていますし」

「あれ……? 私の仕事、ご覧になりましたっけ?」


 つい検索魔法(グゴール)で調べた事まで喋ってしまい、ちょっと焦る。


「いや……そんな風に、思えたというか、ファリアからそう聞いたもので」

「そうでしたか、お心遣い感謝いたします。賢者様は本当にお優しい……。ファリア姫の申されていたとおりのお方です」


 だが、笑顔の仮面さえも力がない。

 どんよりと暗い負のオーラが漂ってくる。最初に感じた影のある表情や視線は、本来の性格が透けて見えていただけだったのだろう。


「賢者ググレカス、宰相さまは『不幸』という属性を背負っている方みたいですわね」

「こりゃ全力で追求してたらヤバかったな」


 宰相に対して謀反(・・)や私腹を肥やしているのではないかという嫌疑をかけて追求でもしていたら、自分の不遇を嘆きそのまま自殺でもされかねない。そんな負のオーラを漂よわせている。


「それで、今回発生したルーデンスの不良品質肉による食中毒と、貴公の身の上話がどう関係するのですか?」


 正確には、食肉テロ……『魔法毒』の仕込まれた肉による、明らかなテロ攻撃だが。


「はい、最初に申し上げたとおり、今回の食中毒騒ぎの元凶はわかっています。この手口(・・)に……覚えがありますから」


「覚えとは?」


「ワタクシがプルゥーシア皇国で貿易担当大臣をしていた時、他国への介入で……食品に『魔法毒』を仕込んで混乱を誘発する……特殊な役目の魔法使いがいたのです」


「……なるほど、それが黒幕ですか」


 ここまでの説明で話には矛盾が無い。ようやく黒幕が見えてきた。やはりプルゥーシアの仕業ということだろうか。


「その人物の名は、魔導士ラファート・プルティヌス」

「プルティヌス……?」


「私の腹違いの姉です」


 宰相、ザファート・プルティヌスは重苦しい口調で告白した。驚きと困惑が謁見の間に広がってゆく。


「まぁ!? なんてことでしょ賢者ググレカス」


「わかったぞ、つまり……ルーデンスに亡命し宰相(・・)の座についた貴公の失墜を狙った……攻撃ということか」


「はい。ルーデンスを弱体化させ、更に……裏切り者であるワタクシの追い落としも狙っての事でしょう。姉は肉に特殊な『魔法毒』を仕込み流通させた後で、儀式級魔法を仕掛けるつもりです。『魔法毒』が蔓延していれば特殊な魔法術式で精神的に感応し、錯乱……ひどい場合には凶行に走る場合もあります」


「まぁ、そんな恐ろしい魔法を……!」

「宰相ザファート・プルティヌス、貴公も魔法を使えるのですか?」


「使える、というほどではありません。姉は魔法使いを極め『魔道士』として国に仕えていますが、私は魔法使いになれませんでした。程度の『魔力感知』が関の山です。でも……おかげで姉の『魔法毒』はすぐにわかりました」


 まっすぐな瞳を俺達に向ける宰相。


「じゃ、その魔道士をぶっとばせば万事解決じゃん?」

「まぁそういうことだな」


 そこまでわかれば、話は簡単だ。

 単なる食中毒事件として内々に始末しようとしているが、その理由は今のルーデンスには、卑劣な手を使う黒幕を排除する力も方法も無いからだ。


 これでは対応が後手にまわり、ルーデンスに今以上の混乱が起きかねない。


 ならばここからは俺達の出番というわけだ。


「まってください! 実は……ファリア姫の妹君、サーニャ姫が、昨日から行方不明なのです」


「な、なにぃ!?」

 宰相の発した言葉に、勢いよく立ち上がったのはファリアだった。


<つづく>


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