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 遠い日、ファリアと『森の主』


「決めた、私は肉を食う……! ググレ、肉屋の(あるじ)のところへ案内してくれ!」


 ファリアは立ち上がると、ヨダレを垂らさんばかりのテンションで、瞳を輝かせた。


 先程までまるで病人のようだった顔には赤みがさし、表情も活き活きとしはじめている。やはり、単純に空腹で一時的に病気のようになっていただけのようだ。

 まだ本調子ではないにせよ、本来の元気を取り戻しつつ有るファリアの様子に、ルゥローニィと妖精メティウスは安心したように顔を見合わせてホッとした表情を浮かべている。


「ファリア、空腹で頭が回っていないところすまないが、話をよく聞いてくれ。お前に逢いたがっていのは『肉屋の主』じゃなくて、『森の(あるじ)』だ」


「……『森の(あるじ)』?」


 ファリアがきょとんとする。


「お前にずっと想いを寄せていたらしい」

「私に……」

「あぁ、そうだ。けれど本来ならば俺が事前にその男に会って、詳しく身辺調査をしてから言うべき話かもしれない。詳しく知ってから胸を張って紹介してやりたかったが……、ファリアを元気づけるために話題を先に持ち出してしまった。驚かせてしまってすまない」

 俺は非礼を詫た。


 見合い話をするならば王や王妃はもちろんの事、縁談話を進めている宰相(・・)にも相談してからというのが筋だろう。

 だが、強引なダイエットによる陰謀の疑いが濃厚になった事で、少しだけ予定を早めたことになる。

 プルゥーシァの第三皇子に、ファリアが本気で惚れているのなら要らぬ世話なのだが、まずはファリア自身の気持ちを確かめたかったという理由もある。


「むしろありがとうだ。いや、気にするなググレ。第三皇子など会った事もない。一度、魔法の水晶球でご尊顔を拝謁し奉ったが、色白の小太りで正直……好みではなかった」


 俺とルゥローニィに、いたずらっ子のような笑顔を向けるファリア。見合いなどどこ吹く風と言った様子でふん、と軽く鼻を鳴らした。


「小太り……プルゥーシア式健康法はどうしたでござる?」

「全くですわね!」

「ははは」

 皆で笑ったところで、ファリアに伝えることを付け加える。


「そうだ、言っておくと『森の(あるじ)』ってのは、ルーデンスの周辺で暮らしている半獣人の一族の族長の事らしい。ファリアなら多分知っているのか? 名前は確か……ウォルハンド・ライアース」


「ウォルハンド……ライアース?」


 ファリアが、む? と何か思い当たるかのように腕組みをして首をひねる。


「知っているでござるか?」

「まさか……ウォルくん? いや……まさかそんな」


 ファリアはルゥローニィの猫耳をじっと見つめながら、何か記憶の糸を辿っているようだった。


「まさか知り合いだとでも?」


「かもしれない……。幼い頃から(セカンディア)(サーニャ)と、周囲の森を駆け回って遊んでいたが、その中にモッフモフの尻尾を持った、狼みたいな耳をした男の子が居たんだ。完全な半獣人じゃなくて、ハーフでちびっこくて。最後に遊んだのは確か、私が12歳ぐらいだったと思うが……」


「にゃんと!?」

「まぁ?」


「その子なんじゃないか? だって、ウォルハンド・ライアースは『勇猛なる月の銀狼族』とか、オオカミ系半獣人の血を引くハーフの人間、とか言ってたぞ」


「『勇猛な……銀狼族』!? 思い出した、間違いない! それはきっと、ウォルくんだ! 時々遊んでいたが、最後に泣きべそかきながら『僕は勇猛な……銀狼族なんだー!』って叫んで森に帰っていった、ウォル君……!」


 懐かしい思い出を噛みしめるように、瞳を細めて遠くを見る。


「って、どんな遊びをしてたんだよ」

「戦いごっことかチャンバラとかだな。私が勝ったら尻尾をよこせ! マフラーにするからとか言っていた気がしてきた」

「酷ぇ……」


 少女時代のファリアがどんなだったのかは、想像に難くない。なんとなく情景が目に浮かぶし。

 だが、どうやらファリアは『森の主』と見ず知らず、ということではないらしい。ならば話も早い。


「よし、ファリア。俺が再会の場を作ってやる。まずは少し休んでいろ、また来るから」


「いいや、私も行く! 着替えるから少し待っててくれ!」


「え!? だ、大丈夫なのか」

「当然だ!」


 ファリアはそう言うと、部屋の中へとすっ飛んでいった。


 と、その時。


『――ググレ、聞こえる?』

「賢者ググレカス! 通信ですわ」


 魔法の通信回線が開いた。


「レントミア?」


 戦術情報表示(タクティクス)を展開すると、映像中継(リアルライブ)により庭先の様子が映し出された。門柱の上に設置してある水晶球から見渡せる映像だ。

 

 庭先には、暇を持て余していたのか、レントミアとマニュフェルノ、それにリオラがいる。向こうからはプラムとヘムペローザが駆け寄ってくる。


『――なんだか、お客さんが来たみたいだよ』


 鉄門扉の向こう側には3人ほどの男女が立っていた。

 夏だと言うのにプルゥーシアの役人が羽織るような紺色の、ロングコートタイプの衣装を羽織り、片手には本のようなものを抱えている。


 ゴゴ、ゴゴゴ……と映像中継(リアルライブ)にノイズが走った。


『――わたしたちは、ルーデンス公認の健康指導協力隊(ヘルシアフォース)。皆さんの健康と美容、素晴らしい食生活のススメ、幸福と長寿を願うボランティア団体です!』


 爽やかな青年が、笑みを見せて一礼をした。


『――へー凄いね! ルーデンスはそういうことをやっているんだ』

『健康。興味あります』

『美容はわたしも』

『素晴らしい食生活ってなんです-?』

『長寿は興味があるにょー』


 みんな興味津々といった様子で集まってゆく。


「け、賢者ググレカス」

「凄い食いつきだなおい!?」


<つづく>


【作者よりのお知らせ】

 大ピンチなのかそうでもないのか・・・w

 気になるところですが明日はお休みを頂きます。

 休載:7月9日(日)

 再開:7月10日(月)

 (いろいろと新アニメも始まりましたからね!)


 また読みに来て頂けたらうれしいです。

 ではっ!



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