ラブコメ主人公とイオラの仲間たち
「私が思うに、ヘムペロちゃんが可愛かったからかな」
「オラもそう思うッス」
リオラの言葉に、四つ子と庭先で遊んでいたスピアルノがうんうんと頷く。
賢者の館では、出発の準備が進んでいた。
ちなみに何の話題かと言えば、茹でジャガイモの屋台で、なぜ少年魔法使いのムチルがヘムペローザを助けてくれたのか……? ということだ。
赤の他人がインチキ商品を掴まされても、別に関係ないはずだ。でも、少年魔法使いのムチルはヘムペローザが虫入りの茹でジャガイモを食べようとするのを阻止し、代わりに店主に文句を言ってくれたのだ。
つまり、その行動の動機は思春期特有のアレ……つまり女の子が可愛いから、気になったからだ、という事らしい。
合理性を欠いた行動の裏にはそういう気持ちがあったと考えれば、なるほどなと思う。
あの事件の後、ヘムペローザと俺はムチルに助けてくれた事への礼を言った。代わりに、ムチルの両親からは息子を救ってくれた上に、自分の力に自信と誇りを持たさせてくれたと、ひたすらに感謝の意を示された。
広場で別れてしまった少年魔法使いムチルの胸の内は結局、聞けずじまいだった。
「そうかにょー? まぁ、ワシは可愛いと賢者にょから言われてるしにょー」
腕組みをしてふんぞり返り、自信満々にニョホホと高笑いをするヘムペローザ。決して、頬を赤らめて乙女のように身体を揺らすのではないのだが、一応照れているのだろう。
「……賢者ッスは誰彼構わず可愛いって言ってるッスね」
何故かジト目で俺を睨むスピアルノ。
「スッピ、違うんだよ。それぞれ意味とか、ニュアンスがちゃんと違うんだよ!?」
「そうっスか。でも、オラには言った事ないっスよね?」
「そりゃ、ルゥの奥さんだからな」
「参考までに、言ってみて欲しいっスね」
なんだか話がいらぬ方向に流れてゆく。
「賢者ググレカス、言って差し上げませんと」
「え? あ……そうか?」
肩に座ってニコニコと楽しそうな様子の妖精に促される。足下には、いつの間にか館スライム達がモゾモゾと集まってきていた。ヒゲを生やした青いのとか、カチューシャを生やしたピンク色のとか……まるで会話に興味があるかのように。
意を決し、スピアルノに向き直り、可愛い点を探す。まぁ、内巻きのショートボブ風の髪と垂れた犬耳がチャームポイントか。
「犬耳が垂れていて……カワイイ?」
「……なるほどッス」
甘いッスね、とでも言いたげなスピアルノ。きっとルゥローニィにもっと良いことを囁かれているのだろう。
「じゃ、私は?」
「リオラもか!?」
次にリオラが顔を近づけて、瞳を輝かせた。
こちらも、言わない訳にはいかないだろう。スピアルノとは違い、愛する妹なので淀みなく言える。
「それはもう健康的な元気さと、キラキラとした笑顔の眩しさがリオラの魅力だな。それに時々仔猫みたいに甘えてくれるころがなんとも可愛くて……あとは」
「も、もういいです! 十分ですっ」
顔を真っ赤にしてキャーと走り出すリオラ。呆れ顔のスピアルノ。
「ま、結局ワシが一番じゃろうにょー」
何故か自信に満ちた顔つきで、リオラの退場を見送るヘムペローザ。
「え、俺は何て言ったっけ?」
「弟子が可愛いのは当然だとか、長い黒髪が良いとか、ほっぺたが柔らかくていいなーとか褒めておったでおろうがにょ」
「た、確かに言ったけど……。可愛いって意味っちゃ意味だけど……」
「じゃろ?」
ヘムペローザのまっすぐな瞳にタジタジになる。
「いいえ、私が一番(近い)っておっしゃいましたわ」
ぼそっと耳元で声が聞こえた。夢見る乙女の如き笑みを浮かべる妖精に、混乱も極まる。
「えっ!? いつ?」
「秘密ですわ」
「……!?」
ダメだ、これ以上この話題は危険だ。何を言われるかたまったもんじゃない。
というか、何故にこんなことになったんだ。俺は王都で人気のティーン向けラブコメ小説の主人公か!?
「賢者ググレカス! マニュフェルノ様とレントミア様が接近してきますわ!」
「ナイス索敵だメティ!」
妖精メティウスが二人の接近を知らせてくれた。危ない危ない。
ホッとしたのも束の間――
「リオラから話は聞かせてもらったよ、僕は?」
「愛情。最高の言葉を頂きたくて参りました」
何故か真顔のレントミアと、怖いほどに優しい笑みを浮かべながら歩いてくるマニュフェルノ。
「いっ、いつも言ってるじゃないか、勘弁してくれ!?」
◇
なんだかんだと二時間ほどの滞在を終えて、ティバラギー村を旅立つ時が来た。
慌ただしい訪問ではあったが、イオラに再会できたことが嬉しかったし、元気に村で活躍している事もわかって良かった。
見送りにはイオラとハルア、それと村で冒険を共にしている仲間たちが来ていた。
「イオラ! マジすげぇ……! 賢者様んとこの弟子だったって、与太話じゃなかったんだな!?」
「マッスフォード、だから本当だっていったじゃんか!」
「悪かったぜ、相棒!」
一文字の眉を大袈裟に寄せた大柄な青年が、イオラと肩を組む。
短く刈り込んだダークブラウンの髪に浅黒く日焼けした肌。顔の彫りは深く、農作業と日々の鍛錬の賜物か、イオラ以上に筋骨も逞しい。
あれがイオラの言っていた第三班のリーダー、マッスフォードらしい。
「すごいなー、イオラくんあんな人達と知り合いだったんだね」
「いやいや、勝手に押しかけて居候させてもらったんだよ」
イオラと話している小柄な少年剣士、名前は確かティル・リッカー。
「魔王と戦っただなんて、想像できないレベルだよねー」
「実際、メッチャ強いから。でも普段はすごく優しいし家族想いなんだよ」
赤毛を短く刈り込んだボーイッシュな少女もいる。大きな瑠璃色の瞳と相まって、まるで小動物のような印象だ。弓を背負っているので、彼女が弓術師のハーリミールか。
「魔法界の最高峰をこの目で見られただけで、ご利益がありそう」
「はは……」
唯一、魔法使いっぽいのが、紫色のマントを羽織り四角いメガネを掛けた女の子だ。
淡い桃色の髪でやや丸顔。小脇には魔導書もう片方の手には杖を持っている。見た目は立派な「魔法使い」そのものだ。
リオラはイオラとそんな仲間たちを、複雑な面持ちで見ている。
その胸中は如何ばかりか。村に残りたいと言うのだろうか。もう俺はリオラを離したくはないのだが……。
「イオラの頼もしい仲間たちとも会えた事だし、そろそろルーデンスへ出発しようか」
「はい!」
リオラは差し出した俺の手をぎゅっと掴んだ。
<つづく>
【作者よりのお知らせ】
次回、ルーデンスへ到着します!
なのですが、並行連載作品を書きたいので、お休みを頂きます。
休載:6月27日(火)
再開:6月28日(水)
また読みに来てくだいね!
ではっ!




