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 魔法使い家族の『農薬魔法』

 ◇


「ルゥ、少しのあいだ留守を頼んでも大丈夫か?」


「よいでござるよ。イオラ殿の村での活躍を聞かせてもらうでござるから」

「いやー、活躍なんてしてないけど……」

 謙遜するイオラだが、身体つきもぐっと逞しくなったし、愛用の剣もかなり使い込んでいるようにみえる。

 再会した剣術の師匠と弟子の会話が尽きることはなさそうだ。

 横ではリオラとハルアがベンチに腰掛けておしゃべりに夢中になっている。後でイオラの近況を、別の視点で教えて貰えそうだ。


「お土産探検に行ってくるですー」

「プラムにょ、茹でジャガイモの屋台があるにょ!」

「あ、ラーナも食べたいデース」


 プラムとヘムペローザ、ラーナは村の商店街を見に行くという。「大事に使えよ」と、一人銀貨三枚のお小遣いを渡しておく。

 ちなみに、街に出かける都度お小遣いを渡すのと、月にまとめて渡すのはどちらがいいだろうか?


「わたしたちもご一緒していいかにゃぁ」

「実はこの村、初めてだクマァ」

「いいですともー」

 二人はルーデンス暮らしが長くティバラギー村は初めてだという。ニャコルゥとベアフドゥも一緒についていくのなら安心だ。


「丁度いい。プラムたちを頼んでいいかな?」

「まかせて頂戴にゃぁ」


 さて。

 俺とレントミア、そしてマニュフェルノの三人は、村長さんのあとについてゆく。途中で集まっていた村の皆様から握手を求められたり、歓迎の拍手を貰ったりしながら広場を横切り、目と鼻の先にある村役場へと向かう。


「賢者ググレカス、イオラさまとお話をしたかったのではございませんこと?」


 賢者のマントの内側に隠れていた妖精メティウスが顔を出した。


「こっちの用事はすぐ済むさ。あとでゆっくり話をするよ」

「そんなにお時間はございませんけれど」

「うーん。イオラも連れて行くか」

 ついそんな事を口にしてから、しまったと後悔する。

「まぁ? それは名案ですわね」

「いや、冗談だよ。あいつにはもう村での暮らしと責任があるからな」

「……そうですわよね」


 折角イオラと再会したばかりだが、別れはすぐに来てしまう。喜びもつかの間、寂しさを覚える。


 今はまず『農薬魔法』の使い手に会いに行くことにする。村長さんの前では「興味がある」とは言ったが、ちょっと気がかりな点があるからだ。


 謎の虫が畑に湧いて食い荒らし、そこに『農薬魔法』の使い手が薬を売りに来るなど、()が良すぎやしないだろうか?

 レントミアもマニュフェルノも口には出さないが、同じように感じているかもしれない。


 だが別にそうと決まったわけでもない。先入観は抜きにしても、純粋に農業に活かせる魔法には興味があるのも事実だ。


「こちらです。金銭交渉の途中なのですが」

「あぁ邪魔はしない。挨拶するだけさ」

 村長さんと若い職員の案内で、質素な木造の役場庁舎の廊下を進んでゆく。すると途中でトタトタと走ってくるプラムぐらいの年頃の少年とすれ違った。


 役場には不釣り合いな見慣れない服装は、異国の魔法使いだ。前開きの服を帯で結ぶ格好はカンリューン地方の民族衣装だろうか。手に木の杖を持っている。

 青みがかった前髪で左の目を隠している。ちょっと警戒するような表情で、チラッと俺達を見ながら通り過ぎる。


「……じゃっがいも、じゃっがいもっと」

 リズミカルにチャランチャランと小銭を手のひらで踊らせているところを見ると、広場脇の茹でジャガイモの屋台にでも行くのだろう。


「あ、今の子は例の魔法使いのお連れです」


「家族。なのかしら?」

「はい、なんでもご家族で流しの魔法使いとして旅をしているとか」


 と、マニュフェルノの問いかけに愛想のいい役場の職員が振り返りながら言う。


「家族と旅なんてググレと同じだね」

「そのようだな」

「僕も家族だよね?」

「恋人。でしょう」

「マニュ即答するな、友人だよ……」

 レントミアがきゃはは、と笑う。


「ま、まぁ家族で旅が出来るほどに、魔王大戦の頃より安全になったってことでございますな」

「それも皆様のおかげですよ」

 と、やや持ち上げてくる村長と職員さんに愛想笑いを返しつつ、俺達はティバラギー村役場の応接間に通された。


 そこで待っていたのは、夫婦(・・)の魔法使いだった。


 男性はガッチリとした体格で、中年に差し掛かったベテラン魔法使いと言った雰囲気。一直線の眉に、ややつり上がった目。青みがかった髪を後ろになでつけている。

 服装は先程廊下ですれ違った少年魔法使いと同じ系統の民族衣装。襟や袖の部分が黒い帯のような文様で飾られていて、前開きの服を腰紐で結んでいる。


 俺たちを見てハッとした様子で目を開き驚いた様子を見せたが、すぐに応接間のソファーから立ち上がり会釈をした。


「あなた方は……?」

「はい、こちらは旅行中に村にお立ち寄りになられた、メタノシュタット王国の賢者ググレカス様でございます」

「ググレカス様!?」

 奥さんの方も驚き、顔を見合わせる。服装は民族衣装の女性向けらしくロングバージョンだが、色は淡い萌黄色で胸の上に呪具らしいものをぶら下げている。肩にはストールのような薄衣を羽織っている。


「いやー、とつぜんすみませんご商談の最中に。珍しい魔法の使い手がいらっしゃると聞いて、つい来てしまいました。ご迷惑でしたかね」

 俺は培ったコミュニケーションスキルを発揮して笑顔で挨拶をして相手の心の懐に入り込む。


「いい感じですわ、賢者ググレカス」

「……おう!」


 俺と妖精のやりとりを見て再び、驚きの表情を見せる。


「世界的に高名な……賢者様とは! あ、申し遅れました私、ティン・テイドと申します。こちらは妻のメイリーン」

「は、はじめまして賢者様……そちらは奥様ですね、それとエルフの方は……メタノシュタット王国の、高位魔法使い様!」


「恐縮。こちらこそ」

「こんにちはー」

 とマニュフェルノとレントミア。


「私達は、しがない魔法の薬売りにございます。カンリューンや周辺の村々を渡り歩き、日銭を稼いでおります。今も害虫で困っているこちらの村で、お力になれればと……」


「おぉ! それは素晴らしい。オリジナルの魔法薬は財産です。簡単に出来るものではございますまい」

「いえ、とんでもございません」


 その鳶色の瞳はまっすぐで、礼儀正しく愛想も良い。表情に曇りや後ろめたさのようなものは感じられない。


 ――杞憂か。本当に農薬の魔法の薬を売っているだけのようだが……。


 と、その時、魔法の通信が聞こえてきた。

 

 ヘムペローザの持っている魔法のペンダントからだ。


『賢者にょー。なんだか絡まれとるんじゃがのー、ぶっとばしていいかにょ?』

「はぁ!?」


<つづく>


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