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★イオラの成長と、ティバラギー村の困り事


「……ぐっさん! マニュさんにルゥ師匠っ! レントミアさん、それにみんな、お久しぶりです!」

 イオラはリオラと半年ぶりの再会をひとしきり喜ぶと、俺達に向き直り爽やかな笑顔を向けた。


「おぅ! 元気そうでなによりだ」

 本当は俺も抱擁したいくらいだったが、ここは平静を装う。


「立派。たくましくなりましたね」

「あれは実戦による鍛錬の成果でござるね」

 マニュフェルノの言葉にルゥローニィが腕組みをして頷く。村を守る戦士として立派に成長していることが感じられて、ルゥは嬉しいようだ。


「館から出て成長した感じがするね。ここにいると甘えちゃうもん」

「おいおい、レントミア。俺が甘やかしていたみたいじゃないか」

「だってそうじゃん?」

「う、そうなのか?」

「そう」

 すまし顔のレントミアの言葉にドキリとする。確かにイオラは自分で館から巣立つことを決めて、ぐっと成長したような気がする。

 もしかして、チュウタも同じように甘やかしていただろうか?


「イオ兄ぃ、少し背が伸びましたー?」

「お、プラムもちょっと……あんま変わんねーか」

「えー? 成長したですけどー」

「あはは」

 背が伸びて胸も少し大きくなったプラムに対しては、照れたような顔をする。


「イオ兄ぃ、久しいにょー」

「ヘムペローザ、なんか魔法使いっぽい顔つきになった……?」

「わかるかにょ!? まぁ賢者にょの一番弟子じゃからにょー」

「それは知ってるけどさ」

 すると、ヘムペローザはイオラに顔を寄せて小悪魔のように囁く。

「ところでリオ姉ぇは、最近賢者にょとすごく仲良しでイチャイチャしてるにょ」

 早速余計なことを言う。

「まてぃヘムペロ! 誤解を生むような言い方をするな。大切にしてるのは勿論だ。だって大事なイオラの妹だからな」

 確かにリオラとは仲良くしているが、今ここでイオラに妙な嫉妬心でも起こされたりしても面倒だ。

「ぐっさん……ありがと」


「にょほほ、そうじゃったにょ」

「ったくもう」

 ヘムペローザを追い払ったところで、本題(・・)を思い出した。


「って、そうだ。ところでイオラ、あの広場の集会は何だ?」


 大勢集まっている広場の方を顎でしゃくる。


「あ、あれね、害虫対策の会議をしてたんだよ」

「害虫?」


「そう、野菜に虫がついちゃって……それで」


 イオラが広場の方を振り返ると、ちょうど役場の職員と、村長らしい紳士が俺達を見てペコリと頭を下げた。

「ようこそティバラギー村へ! 歓迎します、賢者ググレカス殿」

「突然の訪問をお許し下さい」

「いえいえ、村を救ってくださった英雄たちの訪問なのですから、嬉しいだけです」


 彼らに歩み寄り挨拶と握手を交わす。


 早速、村長さんと担当の村役場職員に話を聞いてみると、収穫を控えた葉物野菜に、今まで見たことのない虫がついて困っているそうだ。葉物の野菜とはリーフレタスやキャベツなど、王都へも出荷される大事な収入源だ。


 一部の畑では穴だらけにされて被害が出始めているらしかった。街で売られる野菜は「虫食い穴」が多少有って当たり前だ。しかし、流石に食い荒らされてボロボロでは売り物にならないのだという。


「それはお困りでしょう。しかし、生憎専門外でして……」


 流石の俺も、農業系の魔法はからっきしだ。マニュフェルノとレントミアとも顔を見合わせるが首を小さく横に振る。


「除虫。祝福(フェス)で虫除けぐらいなら効果は出せますけど」

「僕も野菜についた虫は殲滅出来ないよ」


 生憎、誰も害虫駆除(・・・・)の魔法のように都合のいい物は使えない。唯一、マニュフェルノの『虫よけの祝福(フェス)』が効きそうだが、殺虫効果(・・・・)は無いし、詠唱による効果範囲も持続時間も限定的だ。


 魔法協会会長のアプラース・ア・ジィル卿が詠唱しているような、大規模な儀式級魔法でも使えれば村全体を覆い、それにマニュフェルノの魔法の効果を上乗せする手が使えるかもしれない。

 とはいえ、昨日参加したばかりの儀式級魔法の真似事(・・・)を行うのは危険だろう。


「薬草。虫よけのハーブも探せばあるわよね?」

除虫菊(・・・)とかで薬をつくるにしても、この辺じゃあまり生えて無いんです」


 と、声をかけてきたのはイオラの友人……いや、恋人(・・)のハルアだった。リオラに駆け寄って挨拶。手を取り合って再会を喜ぶ。


「マニュフェルノさん! その節はお世話になりました。リオラちゃんもお久しぶり!」


 長い狐色の髪を一つに束ね、可愛い村娘といった感じの服装のハルア。

「ハルア! お久しぶりだね」


 懐かしい面々との再会を喜びながらも、害虫のことが気にかかる。


 村長は害虫の話に戻ると、ひとつ話を切り出した。


「実は……皆に集まってもらっていたのは、とある旅の魔法使い様が『農薬魔法』による薬を売ってくれると申されておりまして、費用をどう捻出するか話し合っていたのです」


「なんと! それは良かったですね。『農薬魔法』とは実に都合がいい」


「えぇ。本当に助かります。試供品を畑の一部で試してみたところ、殺虫効果もある確かな品のようでした」


 旅の魔法使いということで、行商のようなことをしている魔法使いなのだろう。魔法薬を売り歩いて日銭を稼ぐ魔法使いは、カンリューン公国に結構居ると聞いた事がある。

 家々を巡り歩き、病気の者がいれば魔法薬を調合し、売って収入を得る。あるいは瘴気が溜まり、災いを招いている家があれば、祝福(フェス)やお祓いのようなことをする。

 所謂、流しの魔法使いだろう。


「ぐっさんが来てくれたし、何か凄い魔法でブワーッて、害虫退治してくれるかと思ったんだけどな……。流石に無理だよね」

 ははは、と笑うイオラ。村長がちょっと慌てるが論気になどしない。


「期待に沿えなくて悪いな。魔法使いにも得手不得手があるんだよ」

「うん、いいんだ。でも、こうして皆と会えだだけで嬉しい」

「そうだな」

 会話を交わしながらイオラをあらためて見ていると、背が伸びて視線の位置がぐっと高くなっている。というか、リオラの背をついに越したんじゃないだろうか?


挿絵(By みてみん)


「それにしても農薬魔法なんて珍しいよね。後学のために一度お会いしておきたいね、ググレ」

 レントミアが目を細めつつ前髪を整える。


「あぁ、そうだな」

「同感。私も興味があるわ」


 話は決まった。害虫問題は解決する目処もあるようで安心だ。


 しかし魔法についての新しい知見を得られるとなれば、その点に興味が向く。俺達はルーデンス行きの旅の途中で、少しだけ寄り道をすることにした。


<つづく>


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