表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1115/1480

 魔法協会会長のお仕事


 ◇


 時刻はまだ午前の11時。


 スヌーヴェル姫殿下との謁見を終えた俺は、その足で魔法協会本部へと向かっていた。

 魔法協会の会長アプラース・ア・ジィル卿が、何やら見せたいものがある、ということらしい。


「賢者ググレカス、おはようございます……」

 モゾモゾと賢者のマントの内ポケットから妖精が這い出してきた。王国の売れっ子詩人ハイネッケンの詩集に挟まって眠っていたのだ。


「メティ、お目覚めかい?」

「昨夜は酒場で夜更かしをしてしまいましたわ。おまけに詩集のせいで、変な夢ばかり……」

 ふぁ、と妖精が賢者のマントの肩に腰掛けながらあくびをする。髪を整えながら、背中の羽をピンと伸ばす。


「あぁ、確か『君の手にサンドイッチ、三度一致、二度ウイッチィ』ってのが掲載されていたな」

「えぇ……」

 頭がどうにかなりそうな詩集は、買って損した本のひとつだろう。


 メティウスに俺が「姫様側近の魔法使い」になった話をしながら歩いているうちに、魔法協会の本部へとたどり着いた。


「ここですわね」

 場所は城を支える巨大岩塊の半地下部分。建物の中でも最も古い区画で、千年に及ぶ悠久の歴史を秘めている。

 岩石を削って造られた通路にはスリット状の窓が幾つも開いており、斜めに光が射し込んでいる。、妖しげな雰囲気が漂い、秘密めいた魔法儀式と触媒の匂いがする。

 床や壁、柱などには幾重にも古い護りの魔法術式が仕込まれている。侵入者を検知したり、迷わせたりする仕掛けらしい。


「まるで魔法使いの巣穴(・・)だな」


「賢者ググレカス、なんだか楽しそうなお顔ですわね」

「あぁ、居心地は悪くない」


 何人もの魔法使いとすれ違う。以前とは違い、笑顔で会釈したり手を上げたりと、気軽にあいさつしてくれるようになった。


 この場所の雰囲気は独特だ。神聖な教会とも違う、光だけではない闇の背徳感がある。

 連綿と受け継がれている戦いの歴史、時に残酷な魔法という力、あるいは王国を守護する儀式級魔法の残滓が、混じりあい圧迫感や凄みのある気配の元になっているのだろう。


 地下通路のような通路を進み、いくつかの談話室(サロン)の扉の前を過ぎ、二階へと登る。

 衛兵のような魔法使いに挨拶をして、通る。やがて正面にひときわ大きな扉が見えた。そこが協会長がいる部屋であり、そして王国守護の儀式級魔法(・・・・)を執り行う中枢だ。


「ググレカスです」

「どうぞ、お待ちしておりました」


 岩盤に埋め込まれた古く大きなドアをノックをすると、ドアが開き若い女性の魔法使いが内側からドアを開け、俺たちを招き入れた。


「おぉ……」

「まぁ?」

 そこは、直径20メルテはあろうかという半球形のドーム状空間だった。

 肋骨のように湾曲した石の柱が何本も床から天井まで伸びていて、キノコの傘の内側のような空間になっている。壁全体が青白い燐光を放ち、本が読める程度の明るさがある。


 不思議な匂いのする香が焚かれ、床には複雑で巨大な魔法円が描かれている。赤いローブを身にまとった魔法使いが5人、丁度魔法円の五芒星の頂点に立ち、魔法力を注いでいるところだった。


「あ、ググレ、メティもいらっしゃい!」

「レントミア」

 ハーフエルフの魔法使いが、ニコニコしながらやってきた。若草色の髪を後ろで結び、白い最上位魔法使いマントを身に着けた正装だ。


「おぉ、待っておったぞな、ググレカス殿」


 その後ろを追うように、儀式用のローブを纏った魔術協会会長アプラース・ア・ジィル卿が、ゆっくりと歩み寄ってきた。


「魔法協会会長アプラース・ア・ジィル卿! このような儀式魔法の場にお招き頂き、ありがとうございます」

「ホホホ、大仰じゃの。これは日課、国の安寧と繁栄、安全を祈る儀式魔法じゃて」

「お勤め、ごくろうさまでございます」


 思わず深々とお辞儀をする。魔法協会会長の仕事は、自らの魔法力をすべて王国全体を守護する「護国の結界」へと転嫁することだ。それを一日も欠かさず続けることは深く重い意味を持つ。

 

 俺が戦闘時に自分の周囲に展開する戦術結界(・・・・)とは意味と目的が異なるのだ。


「賢者ググレカス、煙が……まるで地図のように」

「おぉ……!」

 妖精メティウスが指差すのは半球形状のドーム空間の中央。空間には焚かれた(こう)の白い煙が集まって、フワフワと王都メタノシュタットの詳細な地図を形成していた。

 城や周囲の議場や闘技場、貴族の館、そして十字に伸びる中央道路。さらに細い道や無数の民家までもが立体的な像として浮かんでいる。

 煙の粒子はゆっくりと漂いながらスクリーンの役目を果たし、青白く光る街並みを形作っているのだ。蜃気楼のように映される範囲は徐々に拡大し、フィノボッチ村、ファトシュガー村、そしてティバラギー村にまで及んでゆく。


「これが……邪悪なる魔の力や、災い、疫病、闇の勢力を退け、光の加護、正義と法。それらメタノシュタットの栄光が及ぶ版図じゃよ」


「すごい……」


 俺は素直に感嘆した。アプラース・ア・ジィル卿はやや照れながら白い顎髭をなでて、続ける。


「この広域儀式級魔法に、邪悪な『古の魔法』の効果を制限する魔法術式を付け加えようと思うのじゃ」


「国の守りを、より固めようというのですね」

「そうじゃ。以前、賢者ググレカス殿と共同で研究し、解析した例の術式じゃからの。見ていただきたいのじゃ」


<つづく>


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ