ルゥローニィとニャコルゥ
「ただいま帰ったでござるー」
ルゥローニィが帰ってきたようだ。
ずっと道場で稽古をつけていたのだろう。少し疲れた様子でリビングダイニングへと姿を見せた。
途端に、四つ子たちが一斉に飛びかかる。
「ぱー!」
「きゅうん!」
「ぱーぱ!」
「にぁああ!」
「にゃははは……! 元気がいいでござるねー! スピママや皆を困らせてなかったでござるかー?」
同時に四人で素早く動き回るので咄嗟に見分けがつかないときもあるのだが、犬耳の女の子がミールゥ、猫耳の男の子がニーアノ。それに猫耳の女の子がニャッピ、犬耳の男の子がナータ、四つ子の姉兄妹弟だ。
疲れも吹き飛んだ様子で、ルゥローニィが四つ子たちを抱きかかえた。きゃっきゃとはしゃぐ子どもたち。
スピアルノが近づいて「おかえりっス」と笑顔で出迎える。
「にゃ? お客さんでござ……」
と言いかけたところで、ルゥローニィが紫紺色の瞳を大きく見開いた。
「……ルゥ……くん! お久しぶりだにゃぁ!」
立ち上がり駆け寄ったのは、ニャコルゥだった。
「にゃ、ニャコルゥでござるか!?」
「そうだにゃぁ! わかる? 私のこと」
「あたりまえでござろ……! 良かった……生きていたでござるか!」
ニャコルゥはルゥローニィの手を取って強く握りしめた。四つ子たちが居なければ間違いなく抱きついていただろう。
「まぁ……! お二人は旧知の間柄でしたのね」
「そうらしいな、スッピが固まってるが……」
「旧知。それは窮地……!」
「上手いことをいうなマニュ」
マニュフェルノがメガネを光らせる。どうも、修羅場の予感がする。
感激のあまり泣きそうなニャコルゥだが、ルゥローニィの手を離すと、ぺこりと再びスピアルノに頭を下げた。
「ルゥくんは同郷で……幼い頃から知ってる友達にゃぁ。でも、魔王大戦で村が魔物に襲われて……大混乱になって。ルゥくんと私の家族が一緒に逃げたんだにゃぁ……」
「けれどその後、拙者たちネコ族は……プルゥーシアから来た連中、卑劣な人間狩りに捕まったのでござる!」
ルゥローニィは、足に抱きつく幼子の頭をなでながら、そっと語り始めた。
「酷い……!」
「そうか、それでルゥは……」
「プルゥーシアでは毛並みのいい猫族は、貴族の奴隷として高く売れるらしいにゃぁ……。魔王大戦の混乱に乗じて、多くの仲間が捕まったにゃぁ。でも……ルゥくんは弱いくせに、臆病で泣き虫だったくせに……一人で人攫いに立ち向かって。連中を相手に戦って……。私達を逃してくれたにゃぁ」
「にゃはは……。そうでござったね。あの頃はまだ、剣術はヘナチョコで……拙者、弱かったでござる」
「でも、私の家族も弟も、それで何とか逃げられたんだにゃぁ! 本当に感謝しているにゃぁ」
「良かった……。ずっと心配していたでござるよニャコルゥ」
ルゥは苦笑しながら頭を掻いた。
「逡巡。思い出したわ……。その後、ファリアさんとエルゴノートさんに助けてもらったのよね」
「そうでござる。ファリア殿には……返しても返しきれない御恩があるでござる。だから拙者、修行して修行して……ファリア殿の助けになろうと頑張ったでござる」
それで今や魔王を倒した剣士。
ここにも、ファリアを強く慕う男が一人居たようだ。ただし、己を磨き強くなることで、その想いを伝え忠義を尽くしたということだが。
「ルゥくん……」
「あ、それとニャコルゥ! 紹介するでござる! これが拙者の家族! 世界で誰よりも愛しているスピアルノでござる。奥さんでござるよ! それと、かわいい子どもたちでござる」
「け、賢者ググレカス! お聞きになりました!?」
「堂々。世界で一番愛していると」
「ぐぅ兄ぃさん……素敵ですね」
「す、素敵だな! あぁ俺だって……その……」
ダメだ、恥ずかしくてここでは言えない。
ルゥローニィはまっすぐに、淀み無く言い切ったのに。なんだか凄くじとっとした目で見られている。とんだとばっちりだ。
「さっき、実はもう紹介して貰ってますけどにゃぁ。幸せそうですにゃぁ、ルゥくん」
「幸せでござるよ」
「……にゃぁ」
眩しいものを見るように目を細め、一歩下がるニャコルゥ。
「ルゥ猫! は、恥ずかしいこと言わないで欲しいッス……」
ルゥローニィは、瞳をぱちくりさせているスピアルノの肩に手を回して抱き寄せた。
「どうしたでござる? 変な顔してるような気がするでござるが……?」
「そ、そんな事ないっス! さ、さぁ……! 食事! 食事の準備をするっスよ!」
スピアルノは表情を明るくして、背筋を伸ばした。自信と安心感、満ち足りたいつもの顔に戻っている。
「スッピのカリィは最高に美味しいでござるよ。ニャコルゥも、そちらのクマさんも、是非食べていくといいでござろ。良いでござるよね、ググレ殿!」
「あ、あぁ! もちろんだとも」
<つづく>




