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 旅の準備、そして新たなる訪問者


 ◇


 昼食を終えた俺達は、ファリア()の話題で盛り上がるヴィルシュタイン卿のご令嬢たちに別れを告げ、店を出た。


 チュウタがすこし名残惜しそうにしていたが、連れて帰るわけにもいかない。後ろ髪を引かれる思いだが、近いうちにまた旅ができるかもしれない。


「ルーデンス行きの旅には、必ずご一緒させて頂きますからね!」


 店を出る時、イスタリアお嬢さまは強い決意を示されていた。


 騎士になりたいと言ったり、ルーデンスのファリアに会いに行きたいと願ったり。堅物な騎士の娘さんにしては自由奔放、わがままで活動的な一面もあるようだ。父親(ヴィルシュタイン)にしてみれば心配の種で、困った娘なのかもしれないが、可愛くてしかたないのだろう。


「賢者様。お嬢様方がまた無理難題を……?」


 店の外で待っていた老紳士の執事長と会釈を交わす。


「いえ、とんでもない。楽しい会話をさせていただきました。お嬢様たちの願い、私で良ければお力になると、ヴィルシュタイン卿にお伝えください」


「はい。かしこまりました」

「では、失礼します」


 一礼をして横を通り過ぎる際、白い手袋の甲に文様が刻まれているのが見えた。僅かだが魔法の気配がする。おそらく何らかの近接戦闘用の魔法術式が仕込まれているのだろう。戦闘力の高いボディガード兼、執事長といったところか。


「北国。ルーデンスへ、ご令嬢さまとチュウタくんも連れていくの?」


 マニュフェルノが横に並び歩きながら、尋ねてきた。手には、スピアルノと留守番している子供たち用の「ランチパック」を持っている。


「うーん……。普通に考えて子供たちだけの旅を、ヴィルシュタイン卿が許すはずがないだろうな。絵を買い取る程度の娘の願いは聞いてあげるかもしれないが、流石に危険を伴う旅には。難しいだろうなぁ」


「令嬢。ふつうは旅になんて出すはずないですよね」

「そういうこと」


 二人で意見を交わす。魔王大戦が終結してはや三年。それでも庶民にとって純粋な観光(・・)を目的とした旅は簡単なことではない。安全性も向上し乗合馬車での往来についても自由、特に制限などは無いとはいっても、気楽に行けないのが実情だろう。

 殊更にも、盗賊のターゲットになるかもしれない貴族や金持ち商人は、護衛業者を引き連れての移動となるのが通例だ。


 王都では、聖地と呼ばれる『世界樹』はもとより、砂漠の国イスラヴィアや、南国マリノセレーゼへの感心が高まり新しい交通手段への要望も高まっているという。

 しかし交通手段のの開発から実用化への予算計画が承認され、工事が実現して開通……という段階に至るまでには、もう少し時間がかかるだろう。

 当面は手軽な改造で済む「ハイブリッド馬車」を普及させ、魔法工術の向上を鑑みながら次世代へ、というロードマップとなるらしい。


「残念。チュウタくんも一緒に行けたらいいのにね」


「その前にまず、今回のルーデンス行きの許可を得る必要があるんだ」

 苦笑するとマニュフェルノが理解を示す。


「溜息。社会人とはそういうものね」

「自由人のままでもよかったが。収入がね……」


 日々を冒険して暮らす護衛業者、あるいはフリーの魔法使い。そんな生き方も良かったかもしれないが、今のように、賢者の館で幸せに暮らすことはできなかっただろう。


「同人。私の同人誌の売り上げで養ってもいいですよ。けれど、より良い作品を描くには、ググレくんとレントミアくんには実際のモデルになって頂き、スケッチの参考にさせてもらう必要がありますね」


 丸メガネを光らせて、うへへと口元を歪めるマニュフェルノ。


「い、いや。仕事は俺が頑張るよ。でも……確かマニュは、魔法の治療薬の研究に協力していて、その売上げからのロイヤリティーがあったんじゃ……?」


「買物。忘れてた! リオラ、歯磨きと石鹸を買わないと」

「あ、そうでしたねマニュ姉ぇ。このへんのお店で……あ、あそこで売ってますよ」

 マニュフェルノとプラムは、露店で日用雑貨を買うために、プラムとヘムペローザを連れていってしまった。


「……」


 さて。


 まずは所属する王政府への連絡と許可が必要だ。


 他国に行くとなると、王政府経由で事前に通知の文書が飛んだり、相手国の要人と会合する場を調整したりと、いろいろと事務方の仕事も発生してしまう。

 相手の立場によっては「支援・支持」と捉えたり、逆に「圧力」と捉えたりと、意味が違ってくるだろう。


 気楽な親善訪問です。友人に会いに来ました! ……的なノリで相手にも負担にならず、お互いの気を使わないほうがいい。

 そこは国の意思決定に背かないように、程よく調整していこう。


 そもそも、ファリアがプルゥーシアの第三皇子へと嫁入りする件を、王政府は知っているのだろうか?


 おそらく情報機関――世界各地にいる情報連絡員からの報告で、メタノシュタット王政府は情報を仕入れている。『森の王』との一件や、その背景も含めて、何かを知っているような気がする。

 

 検索魔法(グゴール)で調べたい衝動を抑え、正式ルートで聞くことにする。


 と、妖精メティウスが昼寝から目覚めて、飛び出してきた。


「ふぁ……。なんだか賑やかでしたわね。お楽しみで?」

「うん。いろいろと旅に行く準備をしたいんだ」


「ヴィルシュタイン卿のお嬢様がたもお連れするのですか?」

「父親がいい、と言うのならお連れするが……な」


 俺はファリアの様子が気になるのでルーデンスに行きたい。今回は加えて、ヴィルシュタイン卿が娘達への旅を許可する可能性もある。

 空飛ぶ馬車『空亀号(スカイタートル)』や、空飛ぶ館『新空亀号(ニュー・スカイタートル)』は別格の安全(・・)を約束する移動手段とも言えるからだ。

 

 とはいえ……。俺の場合は、因縁のある敵対勢力と遭遇したり、先日のマリノセレーゼのように、海上で「見ず知らず」の邪悪な魔法使いに絡まれて戦いになったりもする。


 一緒にいくには、ある程度の覚悟も必要だ、ということだけは肝に命じて貰うしかない。


 ◇


 買い物を終えた俺達は、賢者の館に帰ってきた。

 昼は少し過ぎているので、スピアルノや子供たちがお腹を空かせているだろう。


 メタノシュタット王城を眺めながら、馬車で王都公園の森を抜けると、賢者の館が見えてきた。


 ――索敵結界(サーティクル)に反応……! 対象:2名


 眼前に『戦術情報表示(タクティクス)』の警告が浮かびあがった。どうやら館への訪問者がいるらしい。


「ぐぅ兄ぃさん、お客様では?」

「うむ?」

 馬車の御者席の隣りに座っていたリオラが指をさす。

 

 賢者の館を囲む石塀の外側、門柱の外に二人の人物が立っている。大柄な半獣人と小柄な半獣人。身なりは汚れてはいないが、旅装束のようだ。

 

 応対しているのは留守番中のスピアルノだ。


「なんだろう……?」


 それは見知らぬ男性のクマのような半獣人と、猫のような耳の女性の半獣人だった。


<つづく>


【作者よりのお知らせ】


作者ニュース!

・大好評、並行連載中のロボットSF作品

 『巨神装機トーヤ』は、ストックが完結まであります。

 今後は一日置きぐらいに更新してまいります。


・「文学フリマ」への参戦を決定!

 新作短編を近いうち(6月1日)に公開します!

 私の短編はちょっとスパイスを効かせた実験的な物が多いのですが、

 今回は「竜と少年」のファンタジーです。

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