表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1105/1480

 北への旅は、ルーデンス行きティバラギー村経由

「おっ! きたきた」


 竜撃のサンドイッチ店『ルーデンス野味(ヤミー)』の看板メニューの一つ、『野牛ミンチ肉ベーコンサンド』が運ばれてきた。

 セットメニューの『青汁健康ハーブ・ミルク』と食べると、かなり栄養バランスもいい。皆の注文品も次々と運ばれてくる。


「おー!? これは美味しそうですねー!」

「やばいです……このボリューム感……!」

 まず一番瞳を輝かせているのは、プラムとリオラだ。


「肉感。パンからお肉がはみ出してますね、私を太らせるつもりですか……」

「マニュはぷにぷにぐらいがいいんだよ」

「赤面。もう」

 ちょっといちゃつく俺とマニュフェルノ。


「美味そうじゃが、こういうのは食べにくいんだにょー」

「大丈夫だよ、ほら」

 そうヘムペローザが言う事を予想していた俺は、料理を運んでいたフォンディーヌに、小さく切り分けてくれるように事前に頼んでおいたのだ。ナイス、心配りの俺。


「はい! そちらのお嬢様たちは、こちらになります」

 最後に運ばれてきた二皿は、食べやすくカットされたサンドイッチだった。


「にょ……これなら大丈夫だにょ!」

「食べやすそうデース」

 ヘムペローザとラーナも自然と笑顔になる。


「じゃぁ、皆揃ったな。……いただきまーす!」


 小さくお祈りっぽいことをしてから、一斉にぱくつく。肉の旨味とソースの香味、そして新鮮なトマトやレタスが実に絶妙だ。パンもライ麦をすこし混ぜた専用の物らしく、香ばしくしっとりとして、肉汁とよく馴染んでいる。


「んっ……美味しい! 野生肉の風味とソースが絶妙です」

 リオラが絶賛し瞳を大きくする。元気よく頬張る姿が健康的で実に見ていて気持ちがいい。

「美味。野菜が程よく挟まってて美味しい」

 マニュフェルノも気に入ったようだ。


「うむっ! 美味しいですー……んむっ」

 プラムはもう言葉もない。むしゃ、むしゃと、自分では優雅に食べているつもりだろうが……目つきが野生だ。


「味わい深いにょー。ラーナにょ、ほっぺにソースがついてるにょ」

「……ありがとうデース」

 口の小さいヘムペローザとラーナも、美味しさに幸せを感じているようだ。


「イオラとか、こういうの好きそう……」


 リオラが食べながらポツリと言う。そういえば双子の兄、イオラはあれからどうしただろうか。ティバラギー村では、ジャガイモ農家の働き手をしながら、村を守る青年自警団の一員として頑張っているはずだ。便りのないのは元気な証拠だとは思うが……。


「イオラ……。ティバラギーで元気にやってると思うけど、気になるなぁ」

「はい」


 すこし兄を思い出したのか、リオラが遠く外の景色に想いを馳せる。さらりと揺れる綺麗な栗毛が一瞬、寂しげな表情を覆い隠す。


「そろそろ会いたいな」


 と、リオラの言葉に、もぐもぐと口を動かしていたラーナが瞳を閉じて、眉間にしわを寄せる。


「……イオ兄ぃは、幸せ・元気・忙しい……そんな気持ちでいるようデース」


「わ、わかるのかラーナ?」

「一緒に行かせた分身の『ラナ子』からの秘密の通信デース」

「スライムネットワークも便利だなぁ」


 俺の館にいるものすごい数のスライムたちも、こんな風に、人間の感情を受け取って暮らしているのだろうか……? 


「ありがとう、元気ならいいんです」

 リオラが気を取り直したように言う。


 俺は暫く考えて、結論を出す。


「……色々考えたが、どうも俺たちは一度北に向かわねばならないようだ。決めたぞ。ルーデンスのファリアに会いに行こう! それと、ティバラギー村は通り道だ。ちょっと立ち寄って、イオラの様子も見てみようじゃないか! これは……そうだな、夏休み後半の、避暑旅行さ」


 とはいえ、俺が外国を訪問するとなれば、局長やスヌーヴェル姫殿下に御伺いをたててからだが。


「ぐぅ兄ぃさん……!」

 リオラが瞳を輝かせる。


「俺たちはファリアの親友だ。会いに行って何が悪い? ここのサンドイッチの看板メニュー、翼竜(ワイバーン)の肉を食べてみたいしな!」


「「賢者様……!」」

 俺の言葉を聞いたフィリーナとフォンディーヌは顔を見合わせた。そして頷くと、厨房に駆けていき、兄のセカンディアに顛末を告げている。


「旅行。みんなで行けば楽しそう。北の国はここよりも涼しいかしら?」

「おー、涼しいのはいいですねー!」

「涼しくて、安全じゃといいがにょー」

 半眼でため息混じりに笑うヘムペローザ。確かに今まで大手を振って安全だった旅はないが……。この時代、この世界では旅というのはそういうものだろう。


「大丈夫さヘムペロ、世界最高の魔法の結晶! 世界一安全な『賢者の館』で行くのだからな。ルーデンスまでひとっとびさ」


「ま、賢者にょと一緒の時点で、何事もないとは思っておらぬがにょ」

「はは、こいつめ」


 それに、ファリアが困っているのなら力になりたい。

 と、その時。

 店先に入ってた三人の客が、足を止め驚きの表情を浮かべている。


「あら? 賢者様……!」

「あ、ぐぅ兄ぃさま!」

「……あ、こんにちは」


「お!? チュウタ! それにイスタリアお嬢様と、ルミナリアお嬢様もご一緒か……!」


 それは、騎士団長ヴィルシュタイン卿のご令嬢、イスタリアお嬢様と、ルミナリアお嬢様、そして新しく家族になったチュウタだった。



<つづく>


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ