竜撃のサンドイッチ店、ふたたび
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ファリアの話題が出たので、なんとなくルーデンスの味が恋しくなった。
というわけで今日のランチは、街の中心部にほど近い、東大通りのサンドイッチ店に行くことにする。
マニュフェルノとリオラ、プラムにヘムペローザとラーナを誘い、ランチへと連れてゆく。
スピアルノと四つ子たちは留守番をすると言うので、お土産を買って帰る約束をする。
ガレージから馬車『陸亀号』を引っ張り出して、いざ出発。王都メタノシュタットの外周道路をぐるりと移動する。
城を大きく迂回し、賑やかな南通を過ぎて東大通へと進むこと、およそ15分。
「馬車での移動はここまでだ。ここからは歩こう」
東大通の広い道は馬車が行き交うが、何箇所かに駐馬場が設けられている。駐馬場の整理係の青年に料金を支払い、ワイン樽ゴーレムの馬と客車を預ける。
「賢者様の馬車……!」
ワイン樽のゴーレムを間近で見ることがない通行人には、やはり珍しがられる。
最近は新しい交通手段が盛んに研究されているが、俺はこれで十分だ。古くからの相棒である『フルフル』と『ブルブル』。ゴーレム牽引による圧倒的な信頼感は、当面手放せそうにない。
「徒歩。家から歩いても良かったのに」
「そうですよ、なんだか申し訳ないです」
マニュフェルノとリオラは歩くほうが良かったと言うが、暑いので疲れるのだ。
「暑いし、歩きたくなかったんだよ……」
マニュフェルノは膝下までの長さの平服で、ナチュラルカラーの袖なしだ。髪は一つに結い左肩から前に垂らしている。
リオラは黒っぽいタンクトップを下着に、薄手のリネン素材ワンピースを重ね、ふわりと軽やかな印象だ。
「ワシは毎日の通学も送迎して欲しいくらいだがにょ」
「えー、でも帰りに屋台でアメを買ったり、クッキーを買ったり出来ないのは、ちょっとつまんないですねー」
「アイスも美味しいのデース」
「それもそうだにょ……」
「おまえら、寄り道してないで帰ってこいよ」
などと言いながら歩いている今日の目的の店は、サンドイッチ屋だ。
――竜撃のサンドイッチ店 ~ルーデンス野味~
そこは、密かにファリアの弟と妹が働いている、最近話題のお店だ。
東大通りの表通りは高級レストランや衣料品店、宝飾品店などが立ち並び、裕福層向けの華やかな店が多い。
しかし一歩こうして裏通りに入れば、途端に庶民的な店が立ち並ぶ。
食べ物屋はもちろん、衣類や靴、雑貨に日用品、そして魔法の触媒屋。雑多で数多くの生活に必要な品々が手に入る。
もちろん、これらの商品は自由市場や露店でも買える。けれど、こうして店舗を構えて売っている品物は、やや値は張るが品質がいいので安心して買えるのだ。
石畳と、水場の噴水の脇を通り過ぎて、古い店構えの喫茶店や食堂のある商店街の一角につく。やがて、目的の店があった。
「あれだ!」
オープンスタイルの店は今日も繁盛しているようだ。
テーブル席が4つ、緑の街路樹の木陰が涼しそうなテラス席が5つほどある。
店の飾り付けや雰囲気は、ルーデンスを連想させる竜の爪をイメージした金属製の飾りがあり、壁には竜のウロコ風のレリーフや、斧が飾られている。
『竜撃のサンドイッチ店 ~ルーデンス野味~』の外観は三階建ての建物で、一階は店舗で、二階と三階は居住スペースなのだとか。
「あ! 賢者様! それに皆様、いらっしゃいませ!」
早速、元気な声で出迎えてくれたのは、銀髪にエメラルドグリーンの瞳が可愛らしい少女――フォンディーヌだ。水色のドレスに、白いエプロンが涼しげな夏服なのだろう。
店員用の白いエプロンの端を持ち上げて優雅にご挨拶。ささっと案内してくれる様子は実に手慣れている。
「妹君。ファリアの……2つ下の妹さん……?」
「そうだよ。ファリアの妹で、ルーデンス王家の三女」
マニュフェルノに耳打ちする。
「フォンディーヌ、また来たよ。今度は家族も連れてきた」
「嬉しい! ささ、ちょうどテラス席が空いてますからどうぞ」
「おねーちゃん、何名様? って賢者様だ!」
もう一人店先で働いていたのは、四女のフィリーナだった。
背格好はプラムやヘムペローザとおなじぐらい。すこし丸顔で、瞳がぱっちりとしてて愛嬌がある。
サンドイッチとドリンクのセットを皿に載せ、別のテーブルのお客さんに運んで行くところらしい。
「やぁフィリーナも元気そうだね」
「いらっしゃいませ! 皆様もきょうはご一緒なんですね!」
席について店を見回すと、ファリアの肖像画が飾られていた。
だが、ちょっと変化があった。
「あれ……? 絵の下に『売約済み』って札がついている?」
<つづく>




