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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 馬貸業組合(レントホース・ギルド)の困りごと


「メタノシュタット王国軍、魔導装備開発局(・・・・・・・)が開発した、『陸走鉄車輪(グランホイル)Ⅱ型』は、評価合計、14点でした!」


 会場内に音声拡張魔法(メガホニア)によるアナウンスが響き渡った。


「ガッハハ、よいよい! 試作したものは車輪一つとて無駄にはせぬ……! 敵軍に突っ込ませる『戦車(チャリオ)』にはなるであろうて」


 総司令官である王国軍のギルケス将軍は上機嫌で、余裕の表情を見せる。


 開発者の、かなりマッドな魔導工学博士(マードック)フォン・ビュラウン少将も、敬礼をして席へと戻った。

 会場も新しい魔法技術の発表に、惜しみない拍手を送る。


「魔法工学の発展は目覚ましい。我ら王国軍魔法兵団は、個人の魔法能力だけに頼る時代から、転換を迫られておるようじゃな」

「魔法火力の戦闘教義(ドクトリン)から、高性能ゴーレムや高機動魔導車による『魔導戦闘(・・・・)教義(ドクトリン)』への転換というわけか……時代じゃの」


「水晶や輝石による魔力の蓄魔技術が実用段階に入った今、『魔法の汎用化』という方向での発展は、当面止められぬであろうて。最近では『世界樹の種』の有用性も報告されておるようじゃ」


「魔法使いと同等の力を一般兵士でも……か。遥か以前、伝統的な騎士と戦士による集団戦闘に、組織化した魔法使いによる『火力支援』を加えたがの、その時以来の転換点かも知れぬ」


 王国軍最高司令官ギルケス将軍と、魔法兵団長バリケリウス卿が感慨深げに語り合っている。戦士団出身の叩き上げ軍人と、軍属の魔法使いという違いがあるが、共に白髪の老軍人で戦友らしい。


 二人の隣では、魔法協会会長のアプラース・ア・ジィル卿が会話には加わらず、何やら静かに考えこんでいるご様子だ。


 一体、何を考えているのだろう? 


 アプラース・ア・ジィル卿と目が合う。その瞳は、憂いの色を帯びていた。


 確かに今の発表には問題もあった。だが、こうした魔法工学の発展は、国や生活を発展させる可能性を大いに秘めている。

 例えば、『水晶球通信』や湯沸かし用の『炎熱石(ヒトス)』などが代表例だ。


 だが、裏を返せば汎用的な魔法工学の普及は、現代を生きる魔法使いにとっては、優位性の喪失に繋がる事を心配……しているのだろうか?


 魔法協会会長の考えている事は、もっと別の、深い部分のような気がした。


「ググレ、次の発表が始まるよ」

「次はもう少し笑えるのがいいにょー」

「今のも地平線に消えていく最後のシーンは、ちょっと笑えましたけど」


 レントミアとヘムペローザ、妖精メティウスは気楽なものだ。マニュフェルノは聴衆席で、他のマダム達に交じってすまし顔で座っている。


 次の発表は、民間の『馬貸業組合(レントホース・ギルド)』からの発表だった。


 壇上に立ったのは、ニンジンのような顔をした若い男性だった。魔法使いや軍しか発表しないと思っていたが、思わぬ発表者の登場に皆の注目が集まる。


 『馬貸業組合(レントホース・ギルド)』は乗合馬車や運送屋、または軍や王政府にも元気な「馬」をリースする業者の組合だ。

 きれいに身なりを整えたニンジン顔の若者は、会場に向けて挨拶をすると、自らをカスーマ・ヒヒンと名乗った。

 静かに『幻灯投影魔法具(マギナプロジェクタ)』に美しい駿馬(しゅんめ)が駆けてゆく映像が映ると、発表が始まった。


「私達の『馬貸業組合(レントホース・ギルド)』は今、馬が余って困っています」


 いきなり問題提起から入るあたり、聴衆の心をつかむ。コーティルト・アヴネイス国王陛下や、スヌーヴェル姫殿下も耳を傾けて、静かに聴き入っている。


「魔王大戦が終わり、幾度かの戦乱や戦役はありましたが、そうした特需(・・)も終わりました。今は馬の借り手が少なく、廃業する者も出始めました」


 ここは『次世代交通技術、研究成果発表会』だぞ! と聴衆から心無いヤジが飛んだ。


 次世代とは言え、魔法の技術とは限定していない。だからどんな発表であれ、交通技術の発展につながるのであれば発表は自由だ。


 だがカスーマ・ヒヒンは顔色を変えず、むしろ想定していたかのように、映像を切り替えた。そこには一頭の白い馬が映し出された。


「――ところが、私たちに救世主が現れました。この白い馬は……そう! 皆様御存知、魔王大戦の英雄! 勇者、エルゴノート・リカルの愛馬、『白王号(ホワイティア)』です!」


 会場がどよめいた。俺もレントミアも思わず顔を見合わせる。

 巨大な体躯を誇る白い馬は、『白王号(ホワイティア)』で間違いない。


「この馬は、エルゴノート王子がイスラヴィア総督として赴く際に、私達の馬屋に預けていったものです」


 ちらっと貴賓席のバルコニーを見やると、スヌーヴェル姫殿下は、僅かばかり瞳を細めてその馬をご覧になっている。その胸中は如何(いか)ばかりだろうか。

 思わず俺は冷めたお茶を口に運ぶ。


 と、どうやらここからが本題のようだ。


「……あまり、この場で言うのも何ですが。英雄エルゴノートの愛馬、『白王号(ホワイティア)』の繁殖への欲求は……それは凄いものでした」


 俺は茶を吹き出しそうになった。


「夜中に手綱を金具ごと引きちぎり、隣の牝馬の厩舎へと侵入。見事、種馬(・・)として働いてくれたのです。翌朝に気がついたときには……すべての()が済んでいました。10頭ほどの牝馬がすべて」


「ぷっ! くくく……」

「おいおい……」

「ま、まぁ」

 レントミアが涙目で笑いを堪え、妖精メティウスが顔を赤らめる。


「何にょ? 済んだって何にょ?」

「い、いや……馬がだな……」

 ヘムペローザがレントミア越しに質問を投げかけてくるが、思わずしどろもどろと目を泳がせてしまう。


 目を閉じため息混じりで会場を仰ぎ見るのは、カスーマ・ヒヒン。会場ではあちこちで押し殺したような笑いが起き、眉間を押さえて肩を揺らす聴衆も見える。


「ガハハ……! 飼い主も大概じゃったが、馬までとはの……」

 国王陛下は「こういう話」が好きなのか、豪快に笑い声を上げた。

 大臣たちもようやく笑う。会場の空気も緩み、自然と笑い声が起こる。スヌーヴェル姫殿下お微笑んではいるが……あれはひきつった笑顔か。

 それでも、可笑しそうに国王陛下と談笑する姿に少しホッとする。


「……半年後、生まれたのが、これら『白王号(ホワイティア)・シスターズ』全10頭。まぁ、正確には兄妹ですが、この馬たちは実に驚くべき高い能力を有していたの!」


 そこで映像が切り替わる。10頭の並んだ馬は、ズゴゴゴ……とローアングルから映し出され迫力満点だ。馬体はどれも大きく筋肉がすごい。毛並みも美しく、馬は白を基調とした縞模様やマダラ模様の馬だ。

「お、ぉお……!」

「見事な馬体じゃの……!」


 同じ歳の馬だという普通の馬と比べても、1.5倍ほどの体格差がある。疾走している映像では、他の馬をぐんぐんと引き離し、圧倒的なスピードとスタミナを見せつける。

 これにはさすがの会場がどよめいた。凄い、素晴らしいの声が上がる。


「如何でしょう? 今は10頭のみですが、一ヶ月後にはまた……産まれそうです。確かに新しい交通技術も出てくるでしょうが、優れた馬こそが当面の主役ではないでしょうか? ぜひ、この馬たちを採用していただきたいと思います」


「売ってくれ!」

 ガタッ! 聴衆席で金持ちそうな貴族が立ち上がった。

「おい、こっちが先だ!」

「えぇい! 軍で全て買い取るぞ……!」


『……静粛に! 国王陛下、姫殿下の御前です』


 会場の騒ぎを場内のアナウンスがピシャリと遮った。そして裁定が下された。


 ――最高速度:3

 ――走行距離:3

 ――運搬質量:1

 ――安全運行:5(但し牝馬は危険)

 ――運用費用:5(低コスト)


 ――評価合計:17


 なかなかの高評価が出た。やはり馬ということで慣れ親しんでいるし、コスト面で評価されたようだ。


「あ、そういえば先日、下町の魔法工房で馬に飲ませる魔法薬があったな」

「やめなよググレ、飲ませたら大繁殖しちゃうよ……」


<つづく>


【作者よりのお知らせ】

 というわけで明日はおやすみです!

 アニメをみなきゃいけませんからねw


 それと、5月の連休には新連載を始めます!

 新しい異世界SF! 少年と少女の出会いと、戦いの物語……!

 (某ラノベレーベル新人賞で二次選考まで残った作品です)

 もう少しまってくださいね。

 

 休載:4月30日(日)

 再開:5月1日(月)

 また読みに来て頂けたら嬉しいです!

 ではっ

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