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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 開催『次世代交通技術研究成果発表会』 3




 ◇


 展示会場の準備を終え、王城の隣りにある王国議会公会堂へ戻ると、多くの人々で溢れかえっていた。


 程無くして『次世代交通技術、研究成果発表会』が開催の時刻となる。既に発表者側の人々が壇上の席に座っていた。会場全体が賑やかで、期待と緊張感に包まれている。


「賢者ググレカス様御一行は、こちらへどうぞ」


 案内係をしているのは内務省の女性職員だ。俺たちを壇上右側の席へと案内してくれた。


「ありがとう。行こうかレントミア、ヘムペローザ、メティウスも」

「こういう場は久々だね」

「にょう」

 余裕のレントミアに、緊張した面持ちのヘムペローザが続く。妖精メティウスは俺の肩の上だ。

「会場に座っている聴衆は、全部スライムだと思い込むんだ」

「にょほほ……こんなに並んでいたら面白いにょ」

「大丈夫ですわ、賢者ググレカスがご一緒ですもの」

「メティは余裕にょー。全部スライム……平気になってきたにょ」

「その調子だ」


 マニュフェルノは一足先に一般席の方に座っていて、俺たちに向けて小さく手をふるのが見えた。俺とレントミア、そしてヘムペローザは発表する側として壇上へと進む。


「おや、おやおや!? わが()、ググレカス君じゃぁありませんか!」


 すこし耳障りな声が響いた。マリノセレーゼの四角いメガネこと、ポレリッサだ。マリノセレーゼ特有の民族衣装の豪華版に身を包み、大きな太鼓腹を揺らす。


「これは……ポレリッサ君、奇遇ですね。先日はお世話になりました」

「水臭いご挨拶だね! 僕たちは友だちじゃありませんか、ハハハ」


 周りに聞こえるような声で言う。えぇい。恥ずかしいヤツめ。


「あ、あぁそうですとも、あとでゆっくり……」


 と思ったら、なんと隣の席だった。ポレリッサは一人ではなく『海竜職人集団(シードゥン・メイカーズ)』の魔法技師らしい若者と中年男性も一緒のようだ。隣りに同じような民族衣装の二人が座っているので、軽く会釈を交わして席に着く。


「ふぅ、やれやれ」


 壇上の席に腰掛けて一息、出されたお茶を飲みながら、あたりを見回してみる。


 演劇場を大きくしたような造りの王国議会公会堂を見回して見ると聴衆席は扇形になっている。

 一辺の長さは50メルテ程だろうか。石の柱が何本か高い天井を支えている。魔法の水晶ランプが無数に使われていて、壁には長大なタペストリーが垂れ下がっている。壁には彫刻やレリーフなどもあり、全体的に豪奢な印象の会場だ。

 段々畑のようなすり鉢状に席がずらりと並んでいて、着席できる席は500近くもあるだろうか。

 俺たちが今座っているのは、奥行き10メルテ、幅30メルテほどの高台だ。いわゆる演劇場の「演壇」のような場所で、観客席から見て左側が来賓席、俺は右側の発表者席側に座っている。


 王政府関係者や軍の高官などが、続々と来賓席に招かれて着席する。王国軍のギルケス将軍閣下に、魔法兵団団長のバリケリウス卿。彼らと談笑している白髪の老人は、荘厳な飾りの付いたローブを纏った魔法協会会長、アプラース・ア・ジィル卿だ。

 こちらに気がついて、おちゃめな様子で白い髭を撫でながら手を振ってくれた。ヘムペローザが照れながら会釈する。


 いつものメンバーともいえるが、こうして並ぶとなかなかに豪華な顔ぶれだ。


 対するこちらの発表者側は、彼らと向かい合って席が設けられている。数えると30名ほどだろう。何人かは顔見知りだが、見知らぬ顔も多い。


 そして、会場に座っている聴衆は、魔法協会に所属する上級・中級クラスの魔法使い達、貴族たちなどだ。他には魔法工房の関係者、魔法学校を代表する先生と思われる服装の人々など、実に多彩な顔ぶれが見てとれる。

 国王陛下やスヌーヴェル姫殿下は、ここから丁度真正面、会場全体が見渡せるバルコニーのような更に一段高い「貴賓席」へとおいでになられるようだ。

 既にバルコニーには近衛魔法使いのレイストリアらしい人影が見え、あたりを窺っている。


「今日の発表会は随分と物々しいね」

「そうだな、今までの集大成みたいなものだからかな」


 レントミアが顔を少し寄せて話し掛けてきた。俺の右側にレントミア、さらに右側にヘムペローザだ。緊張感をほぐそうと、妖精メティウスがヘムペローザの手のひらの上で何やらおしゃべりをしている。


 過去にもこうした魔法技術の発表会はあった。


 今から約二年前には、「メタノシュタット大文化祭」があり、各国の学生たちが新魔法の研究発表会を行った場所もこの隣にある。更に、去年はここで「次世代交通システム」の基礎技術、新魔法の理論の発表会が行われた。

 

 それらの魔法工学の基礎を発展させ、高速・大量輸送というテーマに挑むのが今回の発表会だ。

 やがて、会場全体がざわめき、「静粛に。ご起立願います」という音声拡張魔法(メガホニア)のアナウンスが響き渡った。


 立ち上がりバルコニーの方に向き直ると、コーティル・アヴネイス国王陛下と、スヌーヴェル姫殿下が現れた。荘厳な衣装を身に着け、左右に儀仗兵を従えている。会場全体を見回して手を上げると、大きな拍手が沸き起こった。


「――この日を楽しみにしておったぞ。我が国のさらなる発展と栄光のため、知恵を絞り、新しい技術の開発に尽力してくれていることを嬉しく思う。新しい時代を切り開かんとする研究者たちよ。その新しい魔法技術を、未来への扉の鍵を、ここに示すがよい!」


 開会宣言とも言えるお言葉を賜ると、割れんばかりの拍手が沸き起こった。ゆっくりと大きな玉座へと腰掛けるコーティル・アヴネイス国王陛下は、一見すると元気そうだが、以前のような眼力で相手をねじ伏せるような迫力が感じられない。

 武勇伝には事欠かない戦士という印象だったが、ここ最近は白髪が増え、やや年老いた印象を受ける。

 だが、スヌーヴェル姫殿下は元気そうで顔色も良い。相も変わらぬ美しさだが、今日はお言葉を発しないようだ。長い金髪のロールを優雅に揺らし、壇上の俺達に向けて微笑みを一度向けてから、同じように席についた。


 ――姫殿下、ようやく復帰なされたか。


 魔王城事件の謹慎も解け、ご公務に復帰されたようでホッとする。


 俺の所属する内務省はもとより、内政や外交と、頭の回転の速いスヌーヴェル姫殿下が実質的に取り仕切ってた行政機関は、「病気療養」していたこの半年間、全体的に業務が停滞気味だったように思う。


「お美しい姫君ですねぇ……。国民が羨ましい」


「おまえんとこの奥さんも綺麗じゃないか。さっき外で会ったぞ。モデルか何かだったのか?」

 小声で囁くポレリッサに、適当に言葉を返す。


「あぁ彼女ね、ミス・マリノセレーゼでね。僕の高等学舎時代から付き合って、そのままズルズルっとねぇ」


「嘘……だろ」


 思わず言葉に詰まる。なんだ、学舎時代からの彼女で、ミス・マリノセレーゼって。あぁそうか、何か弱みでも握っていたに違いない。


「女性はね、僕の優しさと知性に惚れるんだよねぇ。わかる、キミ?」

「わからんわ!」


 マリノセレーゼの女性はセンスがおかしいのか。南国はこういう自信家で太っている方が富の象徴とかで好かれるのだろうか……?


<つづく>


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