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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 開催『次世代交通技術研究成果発表会』 2


「賢者さま、ご機嫌麗しゅう」

「……どうも、お世話様です」


 マリノセレーゼの「操術師」の少女達は、マダム・ポレリッサと共にいるからか、妙に淑やかだ。


「ハーネリアにリヒラロッタ。久しぶりだね。君たちは展示会場担当かい?」


 身につけているのは、上下が繋がっている作業着(つなぎ)だ。それは、身体のラインに添って縫製された特殊な「操術師服(パイロットスーツ)」というものらしい。

 背中には『海竜職人集団(シードゥン・メイカーズ)』所属であることを示す大きな海竜の刺繍が施されている。


「そうでーす。今日は新型の高速移動型(・・・・・)ゴーレ……って! これ、まだ言っちゃダメなんだっけ!?」


 慌てて口を押さえて相棒のヒリラロッタに顔を向けるハーネリア。シャギーの入った茶髪が元気に踊る。対するリヒラロッタは、明るいグレーの髪を編み込んで結い上げている。


「……アウト」

「どうせあと一時間後にはお披露目じゃないの!?」

「情報漏洩罪で死刑……」

「もー! ロッタの意地悪」


 表情をあまり崩さないリヒラロッタだが、僅かに目を細めて小馬鹿にしたようにニタリと笑う。彼女なりの冗談らしい。


「ははは、聞かなかったことにしておくよ」


「……すみません、この子たちが騒がしくて」


「お気になさらずに、マダム・ポレリッサ。うちでも似たようなものですから」


「そういえば広場で、ネコ耳の剣士さまと、赤毛の子、プラムさんに遭ったよ! 妹さんにも」


「あ、あぁ! そうだな。ウチも試作品を出展しているから準備中なのさ。では、またあとで!」


 俺は彼女たちに別れを告げて、王城前広場へと向かった。

 しかし妹とは誰の事だろう。ラーナは家にいる筈なのだが?


 ◇


 王城前広場は、関係者以外立ち入り禁止になっていた。およそ80メルテの円形広場は、展示会場内の関係者だけが忙しそうに働いている。

 中央には直径10メルテもある大きな噴水があり、竜を形どった彫刻があり水を口から吹き出している。その水場をぐるりと囲むように、磨かれた石畳の敷かれた広場がある。


 広場では既に何組ものチームが展示会の準備を進めていた。


 青い作業着が目立つのは、『海竜職人集団(シードゥン・メイカーズ)』のスタッフたちだ。

 展示物は大きなゴーレムらしいものが一台。まだ機体には布が被せられている。


 ――高速移動型(・・・・・)の新型ゴーレムを展示というわけか。


 実に楽しみだが、想定内の出展とも言える。


 その対面に位置するのが、メタノシュタット王国軍の一団だ。かなり大きな物体を、十数人の王国軍の兵士たちが整備していた。

 布で覆われていて全容は分からないが、馬車の客室(キャビン)を3つ繋げたようなサイズだ。


 去年開催された「魔法技術のお披露目会」において、魔法兵団長バリケリウス卿がイメージ映像のみで公開した秘密兵器だろうか。

 

 ――万能陸上戦艦(・・・・・・)、『剛力(マイティ)突貫(ラッシャー)号』

 

 確かそんな名前だったはずだ。

 だが、それと比べると随分と小さい。構想では全長30メルテにも達する、巨大な陸上戦艦だったはずだ。

 運用戦術としては、重装甲を活かして仮想敵(・・・)の魔王城に単艦で突撃。先端の衝角で城壁を粉砕し強襲。そこから戦闘用ゴーレムや兵士を突撃させるという、陸上の強襲艦をイメージしていたはずだが……。

 あれではゴーレムはおろか、兵士もそんなに乗せられないだろう。それとも何か別の物だろうか?


「ま、大人の事情もあるのだろうな」


 王国軍の発表を楽しみに待つとして、自分のチーム・ググレカスのブースは……と、展示物を横目で眺めながら進んでいくと、下町の組合(ギルド)チームの陣地(ブース)があった。


 その先に、俺達のチーム・ググレカスの展示場が見えた。


 下町の工房組合ではあまり発明品を隠すつもりも無いらしく、馬車にいろいろな部品を取り付けて『ハイブリッド推進型馬車』の調整中だった。

 十名ほどのスタッフがあれやこれやと、作業台の上に部品を置き、調整しながら作業をしている。

 通りすがりにふと見ると、車輪の下に潜り込んで、顔を真っ黒にして作業しているハーフエルフの少女がいた。


 今や俺の友人の一人、魔法工術師(マギナテクト)を目指すナルル嬢だ。仰向けになったまま、俺を見つけて手を振ってくる。


「あ! 賢者様こんにちは!」


「やぁナルル。って、手を離すと危な……」

「え? きゃん!?」


 コツンとボルトが額に落ちて、目を白黒させるナルルに軽く手を振って別れを告げ、ようやく自分の陣地(ブース)へとたどり着いた。


 そこでは、二本の『木道レール』の上に、布を被せた『魔導車』が据えられていた。

 作業はもう終わっているらしく、陣地(ブース)の前にはルゥローニィがまるで用心棒のようにビシッとした顔つきて立っている。『魔導車』の屋根の上にはプラムが座って足をブラつかせていた。


「ルゥ、プラム、準備は終わったのかい?」


「ググレ殿! 準備は万端でござる……と、拙者たちは何もしていないでござるが。運搬業者さん達が指示通りに仕込んでいったでござる」


「ありがとうルゥ。ていうか、そんなに警戒しなくてもいいよ」

「なんとなく……落ち着かないでござるから」

「そうか?」


 帯剣はしていないが、どうにも人が多いので警戒を解かないようだ。それぐらいのほうが頼もしいが。


「ググレさまー、ヘムペロちゃんはー?」

「あぁ、会場に行ったよ。プラムがいなくて緊張していたよ」


「私が居ないと、ヘムペロちゃんはダメですしー」

「はは、よく言うよ」


 プラムの服装は黒い短パンの上にフリフリの白いミニスカート。上半身は軽やかなピンクのキャミソール。肩や腕を(あらわ)にした、涼し気な夏の装いだ。

 会議場入りをするヘムペローザに比べれば、こちらは作業着や普段着でも別にいいが、少し露出が多くて心配になるが。


 赤毛をツインテールに結ったプラムは、俺を見つけて屋根の上で立ち上がると、「とうっ!」と跳ね跳んで、軽々と着地してみせた。

 軽やかに着地してから、遅れてツインテールがふわりと動きを追う。地上まで2メルテはあるというのに、全然余裕らしい。


「ほいっ」

「お見事」

 と、着地のタイミングで、赤いウロコ覆われた竜人(ドラグゥン)の羽根が顕になる。思わず広げてしまったのだろうが、純血の竜人(ドラグゥン)に比べればサイズは4分の一程度で、飾り羽のように見える。


「あ、背中の羽根は一応隠しておきなさい」

「そうですかー? ハーフ・ドラグゥンかっこいいって、学舎では言われますけど」


 ぱたぱたっと背中の羽根を動かしてせみる。まるで小悪魔のコスプレ少女のようで可愛らしい。だが、あまり目立ちすぎるのも問題だ。


「学舎ではそうでも、ここでは隠しなさい」

「なんでですー?」

「怖い人がいるかもしれないだろう。マニュフェルノに、薄手のリネンシャツを貰っただろ?」


「あれは、チュウタに貸したのですー」

「そうか」

 はて? とあたりを見回すがチュウタの姿が見えない。


「チュタ殿なら、魔導車の中でござるよ」


 布で覆われた展示用の『魔導車』を指差すルゥ。


「そこまで隠れなくてもいいのに。バレないように、変装をマニュフェルノに頼んだじゃないか……」

「だからでござろ」

「へ?」


 苦笑するルゥの反応を不思議に思いつつも、布を払い除け、『魔導車』の操縦席を覗き込む。


「チュウター?」


「ぐぅ兄様……! み、見ないで!」


 そこには美少女がいた。顔を真赤にして涙目の、美少女姿(・・・・)のチュウタが。


「……お、おおぅッ!?」


「ぼ、僕は嫌だって言ったんですー! でも、人生は経験だからとか、外に出るにはこれしかないのとか……マニュさんが、無理やり……くすん」


 細身の身体を包むのは、白いふわふわのロング丈のワンピース。日焼けした肌が実によく似合う。髪は短くショートカットではあるが麦わら帽子を被っているので違和感もない。

 もし、夏のひまわりが咲く麦畑を歩いていたら、これぞ夏の美少女(女装少年?)という絵が描けそうだ。


「……可愛いじゃないか」

「ぐぅ兄ぃさままで!?」


「変装っていうか、女装でござった……」

 ルゥが目をつぶりながら小さく首を振る。


 青空の向こうで、我が妻マニュフェルノが丸メガネを光らせて親指を立てている姿が目に浮かんだ。


 やるな、マニュフェルノめ……。


「まぁ……あれだ。新世界へようこそ」

「え、えぇえ!?」


<つづく>


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