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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 開催『次世代交通技術研究成果発表会』 1

 ◇


 数日が過ぎ、ついに『次世代交通技術、研究成果発表会』の開催日がやってきた。


 開催される会場は、王城の隣りにある王国議会公会堂。普段は貴族議員による討論会や、王政府と市民代表団との対話などが行われる場で、石柱が何本も立ち並ぶ大きな建物だ。

 中は500席もある大きな議場だが、招待客で満員らしい。


 今日は大勢の関係者が出席し、様々な団体や個人が研究成果を発表する事になっているが、もちろん俺もその一人だ。


 発表会の壇上に上るのは、『チーム・ググレカス』の面々だ。

 俺とヘムペローザ、そしてレントミアに妖精メティウス。マニュフェルノは俺の妻として会場に招待されている。

 そして、試作品の展示会のほうではルゥローニィをリーダーに、プラムと変装したチュウタが準備をしてくれている。

 スピアルノとリオラ、そしてラーナと四つ子たちは家でのんびりと留守番だ。


 夏の青空の下、会場周辺は朝から大勢の人々で溢れかえっていた。


「なんだか、思った以上の人出だね」

「あぁ、王国文化祭のノリに近いな……!」


 貴族の青年のような格好で正装したレントミアがすまし顔で言う。白と青を基調として、袖や襟に銀糸の施された貴族服風の衣装で、おめかししている。


 最も多いのは、王政府の役人と王国軍の関係者だろうか。次いで投資先(・・・)を探しに来たと思われる貴族や、金持ちそうな商人たちだ。彼らは王政府の招きで参加し、優れた研究に開発費や援助を行うスポンサーの役目を担うのだという。彼らにしてみても王政府に取り入り利益を得られるメリットがあるのだろう。


 他には会場周辺を警備する衛兵たちの姿が目につく。儀礼服を着た王国軍の魔法使いの姿も見える。何よりも目立つのは、『中央即応特殊作戦群(メタノミリティア)』の有する戦闘用ゴーレムだ。国産の74式・改が数台、駐機姿勢で待機している。

 74式は魔王大戦での主力だったゴーレムだが、すでに旧式だ。とはいえ全高3メルテを越える動く甲冑とでも言うべき威容は、王国の威厳を示すには分かりやすい。

 装備は長さ2.5メルテ、幅80センチメルテもある長大なバスタードソード。攻撃にも防御にも使える特殊装備だが、刀身に彫刻が施された儀礼用装備らしい。


「なんだか、やけに厳重な警備だね……」

「王城周辺に大人数が集まるということでだろうな。他国の商人もいるのだし」

「王様もいらっしゃるとかいってたもんね」

「元々主催はスヌーヴェル姫殿下なのだがな……。仲良くもご臨席遊ばされるらしい」

「ふぅん?」


 極秘の「魔王城騒乱」事件以降、スヌーヴェル姫殿下の公務復帰になるのだろう。


 歩いていると、報道業者(マスコミー)や、王政府の許可を受け、ちょっとした軽食や飲み物を売る露天が幾つも開店している。


 よく観察すると「発表する側」らしい人物の姿もチラホラと見かける。彼らは例外なく大きなカバンや書類の束、あるいは謎めいた道具の包を抱えて急ぎ足で歩いている。


「正装して来いって言われたけど、こういうことだったんだね」


 暑い季節なのにもかかわらず涼しい顔で魔法使いのマントを羽織っているのは、マントの内側の温度を下げる特別な魔法が掛けられているからだ。賢者のマントと同様に、魔法協会の工房で加工してもらったらしい。

 王国最高位の魔法使いであることを示す白いマントは一見すると暑苦しいが、夏の日差しも遮るので身につけたほうが涼しいのだ。


 俺は、賢者カラーともいえる紺色のシャツに、黒い革製のズボン。シャツの襟と裾には、金糸によりオシャレな刺繍入り。

 レントミアと同じように、会場(ここ)では『賢者のマント』を翻しながら歩いている。

 多少仰々しく目立ってしまうが、王様から賜ったものである以上、こういう場では身につけるのが基本なのだ。


「単なる、物好きな研究者の集まりかと思っていたが、いつの間にか国の威信をかけた行事に格上げされていたとはな」

 リーゼハット局長もこれに関してはいろいろと説明してくれたが、本来の主催者だったスヌーヴェル姫殿下に代わり、国王陛下御自ら「我が国を起点とした魔法産業の発展」という目標を掲げて旗を振りだしたらしい。


「僕らの発表、大丈夫かなぁ」

 少し不安そうなレントミア。発表用の資料には構想やコンセプト、将来像を纏めてある。展示品もあるので決して見劣りはしないはずだ。


「別に一等賞に選ばれなくても、頑張ったのだから結果は気にしないさ」

「そうだね。ヘムペロちゃんも僕も、今日は壇上だけどがんばろうね」


 とハーフエルフが優しい気遣いを見せて振り返ると、俺のマントの裾を握りしめたままのヘムペローザがいた。さっきから歩くたびに引っ張られる。いつもぺちゃくちゃとおしゃべりをしているのに、随分と大人しい。きっとプラムが居ないことに加えて緊張しているからだろう。


「……うー。緊張してるにょ」

「指先が冷たいぞ、大丈夫かい?」


 マントを掴んでいるヘムペローザの手をとり、内側に引っ張り込んでから、細い指先を確かめる。ちょっと冷たくこわばっている。


「わ、ワシは喋らなくても平気なんだにょ?」

「あぁ、俺が弟子の魔法を使わせてもらった、と説明したところで皆に紹介するから、頭を下げればいいよ」

「賢者にょに任すかにょ」


 俺の腕を、ぐにぐにと細い指が揉みまくる。そうしているうちに、段々と緊張もほぐれてきたようだ。


 そんな様子を横から眺めていたマニュフェルノが、ヘムペローザのドレスの襟首についた紐の乱れを整える。


「招待。されちゃったけど、私とヘムペロちゃんの服、これで良かったのかしら……」


 ヘムペローザの服装は俺とお揃いの紺色のロングドレス。ノースリーブで大人っぽさを、白いレースのフリルで少女らしさ感じさせる。長い黒髪はハーフアップで、サイドはいつもよりも丁寧に編み込まれている。


「俺達は貴族じゃないんだから、ドレスコードはそんなに気を使わずともいいだろう」


「大事。そこがすっごく大事なのよ、わかる?」

「だ、大丈夫。ふたりともよく似合っているから」


 今日は妻として、マニュフェルノも同伴している。

 清楚な夏のロングドレスは、白い薄手の布地にフリルがあしらわれている。肩を出し、腕には白いシルクの手袋が上品な印象。髪は左側に一つに結わえて垂らしている。


 周りを見回しても、豪華で派手な貴族以外は、シンプルで品のいい服装が多い。マニュフェノの選んだ二人の服装も上手く溶け込んでいるようだ。


「ググレ、僕達の試作品、うまく準備できてるかな?」

「今から見に行ってくる。手配した業者が設置してくれているはずだが、ルゥたちが困っていないか調整はしないとな」


「他の発表者のやつも見たいなぁ」

「あぁ! 発表会の後は展示会の会場で見られるから楽しみだな」


 今回特筆すべきは、研究発表会後のイベントとしては、実物や試作品の展示会があることだ。

 ここから少し離れた王城前の広場が、「研究成果に関する実物、あるいは試作品」の展示会場となっている。

 そこは特設会場として、実際に作られた試作品を持ち込んだ団体や個人が、展示と説明を行うことになっている。発表は構想と書類だけで行う研究機関が5つ、実際の展示を行う団体が4つあるという。


「レントミア。マニュフェルノとヘムペローザを連れて、中の控え室に先に行っていてくれ。冷たい飲み物も準備されているみたいたぞ」


「うん、そうする。いこうヘムペロちゃん、マニュ」

「はいにょ」

「了解。いきましょうか、レントミアくん」


 レントミアにエスコートされて歩いていくマニュフェルノとヘムペローザ。その後ろ姿を、ちょっとだけ胸を焦がしながら見送りつつ、俺の足は王国議会公会堂の横にある王城前広場へと向く。


 王国議会公会堂は、メタノシュタット王城の隣りにあるので、王城前広場で繋がっている。王城の周りは、芝生で季節の花々や観葉樹が幾何学模様を描いて植えられている。

 今は旬とばかりに深いクリムゾンレッドのローズが咲き誇る。その芳醇な香りを感じながら、石畳の広場へと足を踏み入れた。


 と、そこで驚くべき美人のマダムに声をかけられた。歳の頃は20代後半、スタイルがよくグラマラス。目鼻立ちのハッキリとした南国美人さんだ。


「賢者様、ググレカスさま。先日はどうも主人ともども」


「お、あ……これはこれは……って、マダム・ポレリッサ! お久しぶりです」


 思わず変な笑顔のまま挨拶をする。彼女は『海竜職人集団(シードゥン・メイカーズ)』の代表者、ポレリッサ・ヘパイストさんの奥様だった。


「主人がお世話になりまして」

「い、いえいえこちらこそ! 今日は……発表会にご主人ともども?」

「はい。主人はもう発表会の会場に」


 と、二人の少女が飲み物を抱えながら駆け寄ってきた。


「あ!? メガネの賢者さまだー!」

「ここでもメガネに遭遇……」


 それはマリノセレーゼの「操術師」の少女達だった。

 一人は褐色の肌に濃い茶髪が特徴の元気少女で、名はハーネリア。

 もう一人は白い肌に赤銅色の瞳、明るいグレーの髪。ツンとした表情が印象的な美少女、リヒラロッタだ。


「おまえらも……いるよな」


<つづく>


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