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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 剣は鍛冶屋、まじないは魔法使い


 給湯用の魔法道具、『()()くどっぷーん』君は熱暴走(・・・)し、あわやの大惨事になるところだった。

 爆発寸前でなんとか『隔絶結界』に封じ込め、魔法力が消耗するまでの間、館の外に置いておくことにした。湖に沈めて冷却してもいいが、御庭番衆(・・・・)が怒鳴り込んできそうだ。


「賢者にょ、危ない魔法は家で使っちゃダメじゃにょ」

「そうですよー。ラーナとかルゥ兄ぃさんの子供たちもいるのですし」


「面目ない……」


 ヘムペローザとプラムにさえ説教をされる始末で、なんとも情けない。俺は空焚き寸前だった大浴場に水を運んで流し込んでいく。


「失敗でしたわね、賢者ググレカス」

「反省するよ。だが教訓も得たぞ。家で使う魔法道具は何よりも安全であることだ」


 幸いにも事なきを得たが、家庭内で使うものだからこそ、安全第一を考えねばならない。

 家族たちに火傷やケガなど負わせたら、俺はこんどこそ自らスライム漬けの刑に服することになるだろう。

 だが、これは一つの教訓となった。


 魔法技術の開発や、新しい挑戦ばかりに目を奪われれば、足元をすくわれ事故や怪我などが起こり得る。

 これは、これから最終的な構想をまとめてゆく予定の「次世代の魔法の乗り物」においても同様だ。

 安全という視点と、使う人間のことを決して忘れてはならない。


 より遠くへ、より速く、なんて事ばかり考えていると、俺達は結局『鉄杭砲』に乗せられることになりかねない。


「……成長されましたわね、賢者ググレカス」

「心を読んだのかよ?」

「表情でわかりますわ」


 くすりと笑う妖精メティウスは、何やら悟りを開いたような眼差しだ。


「ググレ、『隔絶結界』は明日の朝まであのままにしといたほうが良いよ」

 レントミアが戻ってきた。外に『隔絶結界』のボールを係留してくれていたのだ。


「温度が自然に下がって安全になるまで、庭先に転がしておくよ」

「今度やるときは、湖の上で船に乗ってやりなよ」

 レントミアが、ふぅとため息をつく。


「わかった。……火を使わないでお湯を沸かすというのは、いささか都合が良すぎたかな」


「でもま、発想は悪くないよね。低品質の水晶や輝石が持つ発熱現象の相互作用で熱を高める、ってのは良いと思うよ」

「そ、そうか!」


 レントミアにはこっぴどく叱られたが、魔法の技術的な側面は認めてくれたようだ。


「炎の魔法に頼らずに、原初的で単純な魔力糸(マギワイヤー)だけで発熱、そしてお湯を作れたんだから凄いよ。別の使い道もありそうだよね」


「別の使い方……か」

「うん、何か思いつかない? ほら、考えるのは得意でしょ、ググレは」

「うーむ」

「傷や不純物、濁りが入って使い道のない水晶や輝石は、元々発熱の問題が有ったからゴミ扱いだけど。その発熱現象を逆手に取ったググレの発明は、表の魔導車よりも、ずっと興味深いよ」


「うぬぬ、褒められてるのになんか悔しいな」


 金属パイプの中に詰め込んで固めた材料は、レントミアの言うとおり捨ててもよい二級品の余り物だ。魔力を注ぐと割れたり、発熱したりと使いものにならないものだけを集めて、逆に発熱させたのが今回の発明の基礎になっている。


 師匠であるレントミアは褒めてくれたが、俺たちは今、魔法を単純に行使する時代から、それを応用して何か成してゆく時代の幕開けに居るのかもしれない。


「熱で水がお湯にはなったんだよな……。その、熱い水蒸気を使って何か出来そうな気がするんだ」


「あ、サウナとか?」


 僕はサウナは嫌いだけど、とレントミア。


「いや、もっとこう、革新的な魔法技術の発展になりそうな使い道で」

「えー? なんだろ」


 俺とレントミアは風呂場で暫し思案する。と、妖精メティウスが何かをひらめいたようだ。羽を動かして舞い上がる。


「賢者ググレカス、マニュフェルノ様やリオラ様は、ポットから出る水蒸気を、服の布地に当てて、それからシワを伸ばしておられましたわ!」


「なるほど、シワを伸ばす魔法道具……って、それもなんか違うんだよなぁ」

「あら? 良いアイデアかと思いましたのに」


 うーん。何かがひっかかる。


 どうも思い出せない。以前、「水蒸気を使って凄い感じの事ができる物」を旧世界(・・・)で見た気がする。だが、俺の前身である「チヒロ」が、実際に見たり体感した物じゃないようだ。記憶として浮上してこない。


「気になるなら、外においてある『隔絶結界』ボールを見てくれば?」


「圧力でパンパンだから、穴でも空いたらどっかに飛んでいきそうだよ。きをつけてね」


 レントミアが左手で作った「ぐー」の拳に、人差し指を突き入れる。


「……あ! 圧力か……」


「圧力?」


「そう! お湯から出た水蒸気の圧力って、結構凄いじゃないか? ヤカンやポットの(フタ)も動くし!」

(フタ)なんて動かしてもねー」


 なんとなく、思い出してきた。

 

 蒸気の力を使う装置がある。そうだ、蒸気で蓋を持ち上げたりさげたり、そんな動きで何か……。


「あー! ダメだ頭のなかで形にならん」


 俺は頭をかいた。


「賢者ググレカス、湯気だけに?」

「……モヤモヤする!」


 どわっはは、と笑いあったところでアイデア探求はひとまずお預けだ。


 だが、この発想と着想を捨てしまうのは惜しい気がした。

 

 思いついたアイデアと構想を、誰か……王政府を通じて、鍛冶屋やカラクリの工術師に話し、アイデアを形にしてもらおう。


 剣は鍛冶屋、まじないは魔法使い。

 そんなことわざがある。


 俺はどんなに背伸びしても魔法使い。鍛冶屋でもカラクリ工芸の職人でもないのだから。


 ◇


 やがて数日が過ぎた。


 ついに『次世代交通技術、研究成果発表会』の開催日がやってきた。


「……さぁ、どんなアイデアがあるのやら、実に楽しみだよ」


<つづく>


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