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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 暴走、『沸(わ)く沸(わ)くどっぷーん』


 ◇


「……と、いうわけで。新型給湯システムを考案してみた」


 俺はスチャリとメガネを指先で持ち上げて、静かに言った。


驚愕(えっ)。……早すぎない?」

「ぐぅ兄ぃさん、一体どんなものですか?」


 夕飯を食べ終えて、台所でお茶の準備をしていたマニュフェルノとリオラが、驚きと不安、期待混じりの表情を俺に向ける。


 ここで「賢者の館」の設備を今一度おさらいする。

 まず、食事の準備に使う「コンロ」と「オーブン」がある。これは薪を使うタイプで、どこの家庭にもある普通の物だ。

 他にはパン焼き専門の「窯」があり、暖炉と表裏一体になっている。館全体の暖房と空調を司る大きな暖炉の煙突内部には、金属パイプがぐるぐると内張りされていて、中を通った水が温まりお湯が作られる。

 お湯は二階と一階の中間に設置された樽の中に貯められる。それをシャワーに使う、というわけだ。


挿絵(By みてみん)


「賢者にょ、何を作ったにょ?」

「きっと魔法の面白道具ですよねー」


 皿を運んできたヘムペローザとプラムも興味を示す。


「皆の家事やお風呂を快適に、さらに便利にする魔法の道具さ!」


「ほぉー?」

「怪しげな物作りがブームなのかにょ」

「あ、怪しくなどない」


 次世代の交通機関の研究と構想では、未だに「完成形」を見いだせなかったが、自家用の魔法道具となれば話は別だ。

 生産性とか量産とか、一切考慮しなくていいから楽なものだ。


「暖炉。無しでもシャワーやお風呂に使うお湯を、沸かせるようになるの?」

「以前ぐぅ兄ぃさんが、『湯沸かしの石』とか作っていましたけれど、あれは小さなポット用でしたよね」

 マニュフェルノとリオラは普段からキッチンを使うので、興味津々だ。


「その通りさマニュ。そしてリオラも正解だよ。その『湯沸かしの石』の応用品さ。ポットどころか、シャワー用の湯をたっぷり沸かせる、超高性能なやつだぞ!」


「へぇ、魔法の湯沸かし道具かにょ?」

 夏の装いのヘムペローザも興味深げだ。両サイドの髪を少しひねってから、後ろで結えたハーフアップにしているが、それが最近のお気に入りらしい。


「じゃーん! これだ」


 俺は金属の筒の束を持ち出した。長さは50センチメルテ。太さは三センチメルテほどの真鍮製のパイプを7本束にしたものだ。元々は暖炉の中を通っている金属パイプの補修材料の余り物だ。


「賞状入れの束かにょ?」

「違うよ、湯沸かしの便利魔法道具(ガジェット)、名付けて『()()くどっぷーん』くんだ。いいネーミングセンスだろう?」


「……水に投げ入れるのです?」

「ま、そういうことだな」


 名前についてはプラムでさえ軽くスルー。チュウタが「ぷっ」と笑ってくれただけだ。


 実は湯沸かしに関して言えば、最近では『炎熱石(ヒトス)』という、炎の魔法を封じ込めた「湯沸かし用」の魔法道具(アイテム)が市販されている。

 見た目は丸い水晶の玉のような物で、水桶に放り込めば熱を発して湯沸かしが出来る……という優れものだ。しかし価格が100ゴルドーを超える高価な代物で、一部の貴族や金持ちの商人が、奥方様用のお茶道具として買って使うぐらいだろう。しかも魔法力を消耗するたびに、魔法使いが炎の魔法を充填しなければならない。お抱えの魔法使いが居るような、金持ち用の特別な魔法道具ともいえる。


 実はリオラが言い当てた通り、俺も以前、似たような道具を試作していた。とはいえ俺は「炎の魔法」などは使えない。

 そこで、高密度に圧縮した魔力糸(マギワイヤー)を無数の水晶の結晶(しかも、なるべく不純物を多く含んだ質の悪いもの)に封じ込める。その封じ込めた魔力糸(マギワイヤー)を徐々に放出してゆくと、不純物との魔力抵抗(・・・・)により熱に変換され発熱する……という、魔法の原理を使っている。


「ググレ、それって湯沸かしの魔法道具? ……もう出来たの?」


 レントミアがやってきた。

 今回は既存の仕組みをそのまま使ったので、筒の中身は余り物の水晶やら輝石を詰め込み、ペレット状に突き固め、たっぷりと魔力を充填する作業だけ。実質、小一時間ほどで出来てしまった。


「良いところに来た。湯沸かし実験をするから見てくれよ」


「大浴場に水は溜めてあるから、そこでお湯を沸かしてみせてよ」

 やはり興味がある風のレントミア。

「あぁ!」


 原理は単純なので、魔力糸(マギワイヤー)を高密度に圧縮して封じ込める「コツ」さえつかめれば、マニュフェルノでも、ヘムペローザでも魔力の充填ができるかもしれない。

 だが、今は俺が魔力を超高密度で充填させた状態だ。参考出力なので、賢者(うち)の館専用品という事になるだろう。


「これで湯が沸かせる? どういう原理にょ……」


 訝しげに眉をひそめるヘムペローザに、師匠としてひととおり説明する。


「中に詰め込んだ魔力糸(マギワイヤー)の連鎖開放による発熱の相互作用。水の中に沈めないと高温になりすぎてヤバイぞ……」


「なんだか、危険な気配がするにょ」


「心配ない、大浴場の浴槽で試してみよう」


 ◇


「準備は宜しくてよ」

 妖精メティウスが補佐として『戦術情報表示(タクティクス)』で状態を確認する。


「では、加熱開始!」


 ドボン、と『()()くどっぷーん』くんを風呂場の浴槽に沈めて、魔力糸(マギワイヤー)で稼働させる。


マニュフェルノやリオラ、ヘムペローザにプラム。ラーナやチュウタなどが興味深げに事の成り行きを見守っている。

 風呂場の入り口にはトーテムポールのように顔が並んでいる。ルゥローニィやスピアルノも子供たちを連れて見学にやってきた。


「まぁ見ていてくれ、大樽二杯分のお湯をわかすのに僅か10分……!」


「――ペレット封入金属筒、内部温度上昇!」


「いい感じで連続反応が起き始めたな……」


封入高密度魔力糸(マギワイヤー)、揮発率0.7% 予定の定格出力を維持」

「よし、では連続反応……加速!」


「賢者ググレカス……湯温30度、40度……成功ですわ!」


 ゆらゆらと湯気が立ち始めた。それを見て皆がおぉ……! と歓声を上げる。


「あんなに早く湯が沸くなんて……!」

「暖炉。使わずに大量のお湯が使えるのね!」

「すごいじゃん、ググレ」


「ハッハ、さぁもういいかな……って、熱っいいいっ!?」


 と、沈めていた『()()くどっぷーん』君を取り出そうとして手を入れて、思わず悲鳴を上げた。


「け、賢者ググレカス! 水温70度! もう手を入れられませんわよ!?」

「あちち、はやく教えてくれ……」


 ボコッ……! とアブクが一つ浮かびあがったのを皮切りに、ボコボコ……ブコココ……と猛烈な勢いで沸騰し始めた。


「おぅおぅ!? ちょ、ちょっと湧きすぎかな……止めるぞ」


 停止命令を送り込む。

 

 だが、どうも反応が止まらない。

 

 物凄い湯気が、浴室に立ち込めてメガネが曇る。真っ白い湯気に追い立てられるように、皆が一斉に逃げ出した。

 もはやボコボコボコと猛烈に沸騰し、近づけもしない。


「嫌な予感が的中したにょ!?」

「退避。皆逃げてー」

「きゃー!?」

「ぐぅ兄ぃさんー!」


「ちょっとググレ! 止めて! 止めてよ!」

「やってるんだが、連鎖反応が……とまらん」


「魔力詰め込みすぎだよ! どれくらい詰め込んだの!? ゴーレム何体分?」


 レントミアが魔法の結界を展開し、皆を守りつつ逃がす。


「多分……ゴーレム10体分ぐらい」


 つい調子に乗りすぎて詰め込み過ぎたらしい。


「そんなに!? 一斉に放出したら館ごと吹き飛ぶよ!?」


 ――湯温、100度!

 

 『戦術情報表示(タクティクス)』が真っ赤な警告を発する。


「け、賢者ググレカス! お湯が沸騰して、水位が下がり始めましたわ!?」


 このままでは、水面から露出し加熱、炎上してしまうかもしれない。


「くっそ、阻害術式を全力注入……超駆動(アクセル)! それと……『隔絶結界』ッ!」


 風呂のお湯が全部蒸発する寸前で、なんとか球形の『隔絶結界』で封じ込めることに成功した。

 途端に湯気が消える。今や、風呂場には球形の真っ白い球が浮かんでいる。


「ふ、ふぅ……!」

「あぶなかったですわね……」


「ググレのバカ! 思慮が浅い! 思いつきで簡単につくりすぎ!」

「トホホ、ごめんなさい」

 レントミアに俺は、ピシャリと叱られてしまった。


<つづく>


【作者よりのお知らせ】

 明日 4月19日(水)はおやすみとなります

 今期アニメの撮り溜めも見ないといけませんからね!


 再開は明後日、4月20日(木)です!

 また見に来ていただけると嬉しいです★

 ではっ!


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