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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 便利道具(ガジェット)と、賢者の身の丈

 プラムたちのボート遊びは、俺にとって思わぬ福音となった。


 ヘムペローザの生み出した魔法の蔓草を、プラムが手繰り寄せて進むボート。それは見方を変えれば、大きな力がなくても物を動かせることを意味している。抵抗の少ない水面は「二本のレール」に似ている。手繰り寄せる蔓草は「駆動装置」と置き換えられる。


 今回作った「魔導車」は、車輪を回す力で進もうとしたが、上手く行かなかった。それは地面が平坦でないことで、抵抗が大きいからだ。

 非力な今のままの魔法の駆動装置では、重い荷車を素早く動かすには力不足なのだ。


 俺はゆっくりと帰路につきながら、少し考えを整理してみた。


 まず発想を変えてみる。

 二本のレールの上を走らせる荷車自体に、複雑な魔法の動力を用いない方法だ。例えば、目的地の間に渡したロープ状の物を、簡易な魔法の動力を使って引っ張りながら進む方法だ。


 量産型ワイン樽ゴーレムを2つ横並びに配置し、密着させる。そして同時に糸車のように回転させて、ロープを挟み込むことで引っ張る「ローラー装置」を作る。回転力はそんなに強くなくても良いはずだ。ロープを引っ張りながら進むが、ブレーキ装置は別に必要だろう。

 ……という方法はどうだろう?


 だが反面、ロープがレールと同じ長さ分必要になる。メンテナンスまで考えると、レールの他にも追加費用が発生することになる。


「うーむ、なかなかいい考えに至らないな」

「どうかなさいまして?」


 妖精メティウスが肩に腰掛けて、小首をかしげる。


「二本のレールの上を、魔法で動く荷車(・・)を走らせる構想がまとまらなくて。執着してはダメなのかな」


「……よくわかりませんけれど。賢者ググレカスは一人で抱え込み過ぎなのではございません?」


「う……」

「優れた魔法を使えても、万能ではございませんわ」

 思い当たる節が有りすぎてドキリとする。

「た、確かにな」


「時には降参したとしても、誰も賢者ググレカスを(とが)めないのではなくて?」


 メティウスの投げやりにも思えるアドバイスも、案外、的を得ている気がした。

 思い付きと勢いだけでなんとかなってきた今までとは違うのだ。皆の協力で試してきた要素で、もう一度出来ることを考えよう。


 そもそも魔法の蔓草から生み出す「レール」は、本当に必要だろうか?

 下手をすると、ヘムペローザに負担をかけ、永遠に煩わせることになりかねない。


 それに、実際に作ってみてわかったが、俺が考える「魔導車」程度では実用的ではない。

 むしろ、マリノセレーゼの優れたゴーレムを作り出すプロ集団、『海竜職人集団(シードゥン・メイカーズ)』に外注したほうが確実なのかもしれない。


「優れたものを優れていると認め、他人の力を認めるのも知恵………ということか」


「魔法使いは、元々そういうものですわ」

「なるほどな、ありがとう、メティ」

「どういたしまして」


 何だか肩の荷が降りた気がした。


 ◇


 夕方になり、館に戻りガレージの横に魔導車を停車させる。

 

 ルゥローニイとチュウタと共に雑談しながら玄関に向かうと、丁度帰ってきたレントミアとばったり鉢合わせした。


「あ、レントミア殿でござる」

「レントミア、どこに行ってたんだよ?」


「みんな、おかえりー。僕は湖畔の木にハンモック吊るして、昼寝してたんだけど……」


 と、庭先の向こうに見える湖を振り返る。そこは、先程までプラムやヘムペローザ、ラーナがボート遊びをしていた湖と同じ「三日月池」だ。


「ハンモックか、それもいいな! 優雅に昼寝ができそうだ」


 木陰で読書をしながら昼寝なんかしたら最高に心地よさそうだ。


「……と思うでしょ? 寝てたら毛虫が降って来たし、何かの虫に刺されたし……。想像してたのと違ってた……」


 赤くなった腕を見せて、しょげたようにエルフ耳を下げるレントミア。


「はは、想像と違うってのはよくあることさ。例の魔導車も走りが最高にご機嫌……のはずだったんだけど、そうでもなかったかな」


 思ったよりも速度も出ず、動力源として利用したワイン樽ゴーレムも、近所を走っただけなのに表面がガリガリとすり減ってしまった。

 どうにも問題は山積みだ。正直に言えば、実用には耐えられない代物と言える。


「でもでも、とっても面白かったです!」

「拙者も、日曜大工は楽しかったでござる。自分で道場を建てられる気がしてきたでござるよ」


「二人とも……! そうか、よかった」


 チュウタにとっては殊更に「夏の素敵な思い出」になったようだ。そういう意味では最高の出来栄えとも言える。


 今後は少しずつアップグレードして、いろいろな研究用として使うことにしよう。


「ふぅん? なかなか面白いものが出来たみたいだねー。じゃ、それは明日乗せてもらうよ。ってかググレさ、汗だくじゃん? まずはシャワー浴びてきなよ……」


 と、小さく顔をしかめて言う。確かに汗でベトベトだ。


「うぬ? そうだな、夕飯前にシャワーを浴びるとするか」


「拙者は外の井戸で、水浴びしてくるでござる」


 ルゥは敷地外にある井戸から水を汲んで行水するらしい。すたすたと歩いて井戸へと向かってゆく。だが、俺は冷たい水は苦手で、夏でも温水を浴びたい派だ。


 リビングダインングに一度顔を出し、リオラにお湯は溜まっているかと尋ねた。リオラはマニュフェルノとスピアルノと、夕飯の支度の最中だった。


 マニュフェルノが、汗だくで遊んで帰ってきた俺とチュウタを見て、「子供みたい」と笑う。


「暖炉は4時ぐらいから火をつけましたよ。シャワーは一人分ぐらいは大丈夫そうです。二人分だと……暫くかかりそうですけど」

 リオラがキッチンの壁にある湯量メータを確認する。お湯の量は水晶の結晶に仕込んだ魔法での輝きで大まかにわかるようになっている。


 賢者の館には元々、暖炉の予熱を利用して給湯する「シャワー室」がある。

 そして、ルゥローニィとスピアルノの子供が生まれたのを機に、「大浴場」という湯船のあるお風呂を増築した。だが、夏場は大浴場は使わずにシャワーだけで済ませている。


「そうか仕方ない。チュウタも一緒にシャワーを浴びてしまおう。少し狭いが、いいかい?」

「……あ、はいっ」

 少し照れくさそうだが嫌ではないらしい。ここは男同士なればこそ。ササッと湯を浴びてさっぱりしたい。


「給湯。便利なんですけど、夏は暖炉が熱くてね」

「そうですよね。でも、お湯は暖炉がなくちゃ沸かないし……」

 マニュフェルノとリオラが顔を見合わせる。


 シャワーの給湯も、大浴場も暖炉に通した金属のパイプの中に水を循環させてお湯を沸かし、タンクに貯めて給湯する方式だ。

 だが、夏場はお湯を沸かすにも、暖炉に火を()かねばならず、部屋が熱くなるのが欠点だ。


「うーむ、確かにな。お湯を浴びたいのに、汗をかいちゃうな」


「得意。ググレくんは生活に便利な道具をつくるのが得意だものね。馬無(・・)しで荷車(・・)を走らせるのに比べたら簡単では?」


「そっ、そりゃまぁな!」


「さすがぐぅ兄ぃさん」

「期待。してるね」


 何気にマニュフェルノとリオラに期待されてしまった。


 だが、確かに魔導車やら次世代の乗り物も大事かもしれないが、まずは自分達の生活も大事だ。以前は『便利道具(ガジェット)』と称して、掃除用具やパン生地こね機を発明した事もある。


「暖炉の代わりにお湯を沸かす道具……か」


 なんだか、俄然やる気が出てくる。

 こういう生活を便利にする道具を考えるほうが、俺の身の丈なのかもしれない。


<つづく>


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