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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 構想、スターリング・スライム・エンジン、バージョン2

 今日は『8の月』になってから初めての週末。学舎も官公庁も休みになっている。


 真っ青な空には雲ひとつ無く、セミもジーワジーワと自由奔放に鳴いている。実に夏らしい良い一日になりそうだ。


「ぐぅ兄さま、日曜大工って何をするんですか?」


 チュウタが瞳を輝かせて駆け寄ってきた。緑色のタンクトップに大きめの半ズボン、足元はサンダル履きという格好だ。日焼けしたような色合いの肌にすらりと伸びた腕と脚は、元気のいい夏休みの少年といった感じがして微笑ましい。


「ワイン樽ゴーレムを一台改造して、見栄えの良い魔導機関(エンジン)を作ろうと思うんだ。カナヅチとノコギリも使うから、手伝っておくれよ」


「魔導……? やります! 面白そう」

「そうこなくっちゃ」


 俺はお気に入りのナマコ模様の柄シャツに、ベージュ色のハーフパンツというラフなスタイル。足元はサンダル履きだが、日曜大工をして金槌を足に落としたり間違って叩いたりしないように気をつけよう。


「見栄えの良い魔導機関(エンジン)って……中身はいつもと同じスライム入りの『ワイン樽ゴーレム』なんでしょ?」


 呆れたような表情をするレントミアは、上品な襟付きの白い半袖シャツに、八分丈のズボン。サスペンダーで留めているのがポイントか。首すじまで伸びた若草色の髪を、すっきりと後ろで一つに結んでいる。


「ふふん、心配は無用さレントミア。新しいギミックは考えてある。スターリング・スライム・エンジン、バージョン2! 強力な回転軸に車輪を装備。新機構の試作機をつくる予定さ」


「それを、木道レールの上で走らせるつもりなんだね」


「馬の代わりに客室(キャビン)を牽引させるのさ。『魔導機関(エンジン)』で牽引する理由は、何かこう……パッとした目玉(・・)が欲しいからだ!」

 俺はフハハと笑いながら言い切った。


「目玉ねぇ」


 新型の交通機関の発表会が、いよい数日後に迫っていた。


 マリノセレーゼの四角いメガネことポレリッサは、おそらく「工業製品」として完成度の高い商品(・・)を展示するだろう。量産型ゴーレムの開発力は本命と言っても良いだろう。


 対して、メタノシュタットの魔法工術師(マギナテクト)組合(ギルド)からは、普通に使われている馬車のアップグレードキットが発表される。こちらは安価で実用性も高く、方向性としては面白い。


 それらとガチンコで真正面から対峙するのは、一人ギルドの魔法使いである以上、流石に不利だ。


 だからこそ俺は、魔法使いとして出来る知恵と発想で対応する。『木道レール』と新型『魔導機関(エンジン)』という、特殊な魔法技術で解決するという方向性で行くことに決めた。


 庭先に何本も転がっている『木道レール』の試作品は、ヘムペローザしか生み出せない魔法の賜物(たまもの)だ。それに魔法制御技術を駆使した牽引車、『スターリング・スライム・エンジン、バージョン2』(仮称)を走らせてみせる。


 庭先には、完成した木の『レール』が10本ほど積み上げてある。

 太さはおよそ10センチメルテで、一本の長さはおよそ8メルテほど。表面は茶色で、磨かれた木のような色合い。手触りは滑らか。

 これを二本並べてつなげれば、30メルテほどの展示用『木道レール』となる。


 これらは、先程までヘムペローザと一緒に試行錯誤を重ねて、なんとか形にしたものだ。


 まず、蔓草魔法(シュラブ・ガーデン)の種子に対して、予め成長後の形状を決める魔法の制御術式を書きこんでおく。これには、俺とメテイウスが術式を編み、レントミアが監修した特殊な魔法術式を使うことで実用化できた。


 種子からの発芽はヘムペローザに頼み、成長とレールへの形成段階で必要な魔力は、俺とレントミアが供給した。


 魔法力を発芽したばかりの蔓草に注ぎ込む。すると、蔓が伸び成長してゆく。だが途端にぐるぐると丸まってしまったり、大きく曲がったりと失敗の連続だった。あるいは、まっすぐに伸びても太くならなかったり、葉っぱが茂ったりと上手く行かなかった。


 そして二時間ほど格闘の末、いい感じに真っ直ぐな『木道レール』を生成することに成功した。

 無論、これが国家事業として即採用されるわけではない。


 ――だが、実際に量産するとなると、別の製造方法も考えねばなるまいな。


 一応は成功したが、新たな問題点も浮上した。何よりもまず、発芽にヘムペローザが絶対必要なのだ。魔法力の絶対量がそんなに多くはないヘムペローザは、一時間も魔法力を使い続ければ疲れてしまう。それに本人も飽きて、集中力を無くしてしまう。


 交通網の整備ともなれば、発芽させる種子もかなり膨大な数が必要だ。種子を同じ性質を持つであろう『世界樹』の種子で代用できないかとも考えたがあれも上手く発芽できない代物だ。

 つまり、ヘムペローザが疲弊してしまうことへの解決策にはならない。

 発芽させる魔法の研究をする事も考えたが、かなり難しいだろう。それにヘムペローザの魔法使い個人としての優位性と特殊性、それに将来性さえも失わせかねない。


 ならば、ここはガラッと考えを変えて、レールを「ひこばえ」のように生み出す特殊な「ミニ世界樹」をヘムペローザと一緒に作ってしまうというのはどうだろうか……?


「うん、悪くないかもな……」


「ぐぅ兄ぃさま! カナヅチとノコギリ、針金に釘も持ってきました」

「ありがとう、チュウタ」


 木道レールの失敗作を眺めながら暫し考え込んでいたが、そこへガレージへ道具を取りに行っていたチュウタがルゥローニイを伴って戻ってきた。


「大工仕事なら、拙者も手伝うでござるよ」

「おぉ、いいね! いっしょにやろう。じゃぁ、始めようか」


<つづく>


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