表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
1081/1480

 解決の糸口と、形になる夢

 ◇


 ヘムペローザから『蔓草魔法(シュラブガーデン)』の特性を聞いた後、一度は挫折しかけた。


 だが、どうしても『木道』交通への夢を諦め切れなかった俺は、過去の戦闘データや日記代わりの記録を紐解いてみた。 

 そこに記されていた内容を丹念に調べてゆくと、やはり(たね)発芽(・・)に関しては、ヘムペローザでなければ上手く行かない、という事実が明るみになる。

 けれど一度芽吹いてしまえば、栄養や水のように『魔力』を吸収し、成長を続ける特性を有しているようだ。


「そうか……! 重要なポイントを見落としていたな。諦めるのはまだ早いぞ」

「何を見落としていらっしゃったのですか?」


 書斎でノートにペンを走らせる。妖精メティウスには、秘書として考えをまとめる作業を手伝ってもらっている。


「解決の鍵は、イスラヴィア動乱における巨大な鉄のゴーレムの一件さ。あの時、ヘムペローザは鉄のゴーレムを『蔓草魔法(シュラブガーデン)』で縛り付けて沈黙させた」

「そうでしたわね。今はもう、緑地となって成長しておりますわよね」


 妖精メティウスがノートを覗き込み、ゆっくりと歩き回る。

 砂漠での戦いでは、敵対していた魔女アルベリーナが操る巨大な鉄のゴーレムを、ヘムペローザの『蔓草魔法(シュラブガーデン)』が緑のオブジェに変えたのだ。


「蔓草の塊は今も成長しているし、数ヶ月前に、それを目にしたよな」

「砂漠が少しずつ、緑に覆われておりましたわ」

「あぁ」


 蔓草は、照りつける太陽の光と砂の中に染み込んでいる水分、そしてゴーレムの残骸から供給される魔力を使い、たくましく繁茂していた。

 その成長は止まることがなく、砂漠を緑地化させてなお勢力を広げている。成長のエネルギー源の一つは、中心核となった「鉄のゴーレム」からの魔力供給だ。

 更には、地元の魔法使いたちが祈りを捧げ魔力を注ぐことで、「成長を加速させる」という事も行われていた。


「ヘムペローザに頼んで発芽さえしてもらえば、後は周囲の魔力を吸いながら成長できる」


 例えばもうひとつの例は、『聖剣戦艦』から『世界樹』を生み出した事だ。時限式で発芽させた以外は、自律して猛烈に成長した。暴走状態の魔法反応炉(・・・・・)が放出する、膨大な魔力のエネルギーを、すべて吸収し樹木へと変化した結果が、巨大な世界樹となった。


「……ならば、種の段階で、『まっすぐ、レールのように育て』という魔法術式による命令を、最初に書きこんでから、ヘムペローザに発芽させてもらえば……いけるんじゃないかな」


「形状をコントロール出来る、ということかしら?」

「おそらく、な」


 つまり、発芽だけは生みの親であるヘムペローザに頼む。

 芽さえ出れば、あとは魔力の注入による急速な成長など、他の魔法使いでも可能なのだ。さらには、成長の形状をあらかじめ指定する事だって可能な筈だ。


 机上の空論で無いことは、過去に起きた出来事や経験から証明できる。


「イスラヴィアの緑地拡大に関する記録はないかな?」

「はい、えぇと……ありましたわ」


 妖精メティウスが検索魔法(グゴール)で、イスラヴィアの緑地管理日誌を探し当てる。それを読み解き、様々な試みの痕跡を見つけて読み解いてゆく。


「記録は、王立公文書館に提供されておりましたのね」

「明日、図書館に足を運ぶ手間が省けた。どれどれ……」


 戦術情報表示(タクティクス)の小窓を空中に浮かべ、呼び寄せた文章を読んでゆく。


 それによると、イスラヴィアの部族出身の魔法使いたちは、少しでも緑地の範囲を広げようと、様々な努力を重ねていた。

 魔法使い達は、魔力波動を蔓草に照射する強さや、照射部位を変えながら、蔓草の成長の変化を毎日、事細かに記録していた。


「なるほど……。効率の良い成長に欠かせないのは、日照、温度、水分。そして、刺激となるパルス状の魔力波動照射が鍵か。その間隔は2秒あたり3回……」


「成長の段階になれば、魔力波動の特性などはあまり関係がないようですわね」


「そうだな、交代で魔力を注いでいるし、そこは問題ないな」


「これで発芽から成長まで、なんとか目処が立ちましたわね」

「ありがとう、メティ。おかげで進展があったよ」

「どういたしまして」


 妖精メティウスが、しゃなりとお辞儀をする。


 これで『木道』を完成させる上で必要な要素はあと一つ。それは、水平方向に育つ樹木とし、て任意の形状に育成する……ということだ。

 だが、これに関しては、種に魔法術式を仕込めるという事は先日も試したばかりだ。工夫次第では、かなり自在に操れるはずだ。それには『形態維持魔法(ソノマーマ)』の応用などが考えられる。


「明日、実際に『レール』を作ってみよう」

「失敗したら、お庭がレールだらけなりますわね……ふぁ」

「その時は、薪にして使おう」

「そうないさいませ。私、眠くなってまいりましたわ」


 妖精が大きくあくびをする。眠くなってきたし、今日はここまでのようだ。


 何にせよ、諦めずに考えてみてよかった。

 ゆっくりとだが、着実に進んでいるという実感と手応えがある。

 今はもう、ふわふわとしたマニュフェルノを、ぎゅっと抱っこして眠りたい気分だ。


 ――さて、今夜はマニュフェルノが待っている。夫婦の寝室へいかねば。


「……ごゆっくりお楽しみを。おやすみなさい、賢者ググレカス」

「え、あぁ? おやすみメティ」


 妖精メティウスは小さくうふふと微笑み、本の隙間へと入っていった。


 ◇


 そして、翌朝から俺は、いろいろな試行錯誤を繰り返した。

 

 ヘムペローザにはもちろん、レントミアにも協力してもらいながら、およそ一日がかりでなんとか「木のレール」として、形にすることが出来た。

 館の前庭には、試作品の木のレールがごろごろと何本も転がっている。


「いいんじゃない? いきなり横倒しの樹木が育つのはなんだか気持ち悪いけどね」

「そう言うなよレントミア」

 出来上がった『レール』の一本を眺めながら、レントミアが。


「ところでさ、木道(レール)の上を走らせる乗り物は考えたの?」

「それなんだが……。結局俺には、スライムの魔法しか無いからな、ゴーレムを改良してみるよ。……ちょっと考えもあるし」


「ふぅん? 何をするのさ?」


 ガレージから『フルフル』と『ブルブル』を呼び出した。四本の脚を動かしながら、ワイン樽のゴーレムが歩いてくる。その後ろからは量産型の『(バール)』が3個転がってくるのが見えた。


「ちょっとした日曜大工さ。チュウタも来いよ、工作をしよう」

「はい! えと、何をするんですか?」

 庭先で見学していたチュウタが、瞳を輝かせて駆け寄ってくる。


「さぁ、ここからは魔法と日曜大工のターンだ」


<つづく>


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ