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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 修行と新しい魔法、『花歌魔法(フレミング)』

【作者よりのお知らせ】

 明日はお休みと成ります

 休載:3月14日

 再開:3月15日

 また読みに来て頂けたらうれしいです!


「今から、目の前に浮かぶイメージを脳裏に焼き付けるんだ。それが写本(・・)と同じ意 味を持つはずさ」

「にょ……?」


 周囲を取り巻く魔法円が光を発すると、地表から空に向けてユラユラとしたオーロラのような淡い光を放ち始める。これは一種の認識撹乱用の結界で、邪魔な意志をもつ視線、魔眼の類を遮断するカーテンのようなものだ。


 夕日色に染まる庭先に満ちていた、蝉しぐれが徐々に遠くなる。


 俺は向かい合って立つヘムペローザの眉間に、そっと指を寄せた。


「……見えるかい? 本当は筆述で伝えるべき呪文だが、魔力糸(マギワイヤー)を通じて君に伝達しているのだが」

 本来ならば弟子のために魔導書(グリモワール)の一冊でも書き記せば良いのだが、生憎そんな暇などは無かった。だが、これから先の人生において、時間があれば「偉大なる賢者ググレカスの魔法の書」なんでものを書き記して置くのも悪くはない。

 だが、かつて俺がレントミアという魔法の師匠にしてもらったように、こうして言葉(・・)と魔力の伝達で、直接魔法を伝える方法もある。


「何だか不思議な感じがするにょ。……海の波……? あ、違うにょ、なんだか楽器のような……きれいな音が聞こえるにょ」


「音……?」

「ワシにはそう感じるにょ」

「ふぅむ、不思議だな?」


 俺が戦術情報表示(タクティクス)の上で制御用の魔法術式を操る時は、三角や四角のような「記号の塊」として感じている。おそらく魔法の術式として書き出せば、長い魔法文字の羅列なのだろう。だが、それをまるでブロックのように組み合わせて、線で繋ぎ、分岐させ、魔法の制御構造として複雑に組み上げてゆく。

 それを最後にひとまとめにした物が『自律駆動術式(アプリクト)』だ。

 『賢者の結界』の多層励起、『戦術情報表示(タクティクス)』による戦術情報の分類と抽出、そしてゴーレムの制御など、ありとあらゆる場面で使っている。


 ちなみに、師匠(・・)のレントミアから教わった時は、確か「ゲームの盤上でね、色の違う輝石を動かすみたいにイメージするんだよ」と言っていたことを思い出す。

 

 そして、ヘムペローザは「音」として感じているようだ。


 魔法の根源は同じでも、それぞれが違う感じ方をするということなのだろう。


 と、妖精メティウスが耳元でそっと囁いた。


「賢者ググレカス、『甘果(かんか)は時に()いし』なのですわ」

「ことわざかい。えぇと、甘いという果実も人によって感じ方は違う、ということか」

「同じ魔法なのですから、感じ方の違いだけですわ」


 妖精メティウスは俺と魔法を共有しているが、見ている景色は同じだとは言い切れない。魔法がヘムペローザに伝わるかどうかはわからない。駄目だった場合は、写本用の魔導書(グリモワール)を書くという、実に本末転倒な事をしなければならない。


「いま伝えているのは魔力制御用の術式の塊だよ。魔力の流れを細かく制御する魔法の言葉さ。『とまれ』『すすめ』『もしも』『もういちど』『きえろ』という順番で、もういちどゆっくり伝えるから、集中して感じてほしい。まずはこれが……『とまれ』」


「…………あ、なるほどにょ」


 しばらくの間ヘムペローザは、黙って何かをゆっくりと咀嚼(そしゃく)するような表情を浮かべている。やがて、こくりと納得したように小さく頷いた。


「次は、これが『すすめ』だ」

「やっぱり、短い音というかリズムというか、(うた)のようだにょ」


「唄……か。なら、試しに組み合わせてごらん。目を開けてもいいよ」


 ヘムペローザは目を開けると何度か瞬きをして、ふぅ、と一息。そして手のひらから緑色の魔力糸(マギワイヤー)を数本生じさせた。それらは絡み合いながら蔓草として実体化し、ゆるやかな螺旋を描くと、空に向かって成長しつつ葉を茂らせてゆく。



「――ん、んー♪」


 まるで鼻歌のように、ふんふーんと小さなリズムを口ずさむ。


 しゅるる……と伸びていた緑の蔓草の成長が速まり、鼻歌のリズムを変えると徐々に速度を落として成長が止まる。


「おぉ……! すごいぞ、なんだかいい感じじゃないか?」


「今までと違うのは、考えて動かす時に、リズムを付けたってだけじゃがにょー」


「それが、ヘムペローザさまの魔法との対話の方法なのですわね!」

「どうやら、そうらしいな」


「なんだか、面白い。不思議だにょ……」

 不思議そうに、伸びた蔓草を地面に向けて再び伸ばしては、鼻歌まじりに動きを止める。精度はまだまだ甘いが、鼻歌で魔法を制御できるならそれでもいい。


「魔法に名前をつけるなら、『鼻歌魔法(ハミング)』か?」

「嫌にょ! もっと可愛いのにするにょ!」


 蔓草で俺の足元を叩くヘムペローザ。


「では、『花歌魔法(フレミング)』なんていかがかしら?」


「にょほ!? 流石は可憐な妖精メティだにょ! どこかのセンス無し賢者とは大違いだにょ」

「どういたしまして」

「うぬぬ」


 ともあれ、今日の修行はここまでだ。


 ヘムペローザの集中力も切れたようだが、焦ることはない。少しずつ魔法を伝えてゆけばどんどん覚えてゆくだろう。


「さ、今日はここまでにしよう。それにそろそろ日も暮れる。リオラを迎えに行ってあげなきゃ」


<つづく>


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