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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 館スライムと、チュウタの受難


「開始。では、今からお家防衛隊、自主訓練(・・・・)の第3回戦を始めますね!」


 マニュフェルノはそう宣言すると、ぱちんと手を打ち鳴らした。


「チュウタくん、あっちですよー」

「う、うんっ……」

 それを合図にプラムとチュウタは駆け足で『賢者の館』の敷地の境界、石塀と鉄門扉の前に移動してゆく。どうやら二人が来客を装う「侵入者」の役目で、ヘムペローザやラーナがどう対応するか、という設定のようだ。

 

 プラムはショートパンツに、ピンクと白のタンクトップの重ね着。チュウタは膝までのハーフパンツにTシャツというごく普通の少年スタイルだ。

 続いてラーナが庭先に駆け出して、来客を装った二人を出迎える。ヘムペローザは逆に玄関側に下がって待機。その様子をマニュフェルノが見守っている。


「賢者ググレカス、マニュフェルノさまは訓練(・・)とおっしゃっていましたね」


 妖精メティウスが肩に立って耳元で囁く。俺達は少し離れた木の陰から様子を見ているが、興味と複雑な思いが交差する。


「どうやら侵入者が来た時の対処、訓練をしているようだが……」

「なるほどですわ。でも、お屋敷には賢者ググレカスが念入りに仕込んだ罠……いえ、防御魔法がございますのに……」


「ま、まぁな。でも……不安は拭えないさ」


 妖精メティウスの言うとおり、館には『賢者の結界』と同等の強度を持つ結界や、護りの魔法を幾重にも施してある。それらは俺の魔法力を使って24時間体制で維持され、同心円状に張り巡らせた対人結界により周囲を警戒している。接近する人間などを探知すれば、たちどころに『戦術情報表示(タクティクス)』に警戒情報が伝えられる仕組みになっている。

 接近する人物が不穏な動きを見せる、もしくは金属の武器を所持していると判断された場合、警戒レベルが引き上げられる。この段階でガレージで眠る『フルフル』や『ブルブル』、そして量産型『(バール)』達は覚醒状態に移行する。


 明らかな侵入の意図、あるいは呪詛や魔法による攻撃を行おうものなら、即座に『フルフル』『ブルブル』を筆頭とした、ワイン樽ゴーレムの戦闘部隊が出撃して防御、及び迎撃を行う。

 その間に館の住人たちは『シェルター』のように堅牢な館の中へと逃げ込む手筈になっている。


 西国ストラリアから送り込まれた刺客の襲撃を受けたときも、自律駆動術式(アプリクト)を複雑に組み合わせた魔法の防衛システムが機能し、かなりの時間に渡って侵入を阻んだ実戦経験もある。


 だが、そこまで反芻して初めて、マニュフェルノの意図に気がつく。


「そうか! 魔法の警戒をすり抜ける脅威もある……!」

「どういうことですの?」

「……あれさ」


 視線をプラムとチュウタに向ける。言うまでもなく二人は金属製の凶器など所持していない。だがプラムの運動能力は、仮に暗殺者(アサシン)として訓練でも積めば相当のものになるだろう。チュウタは短い木の棒を持っているが、使い方次第では立派な武器になる。

 ラーナが突然の来客に対応する、というシナリオが始まった。


「どちらさまデース?」


 鉄門扉の入り口は開放されている。別に危険な動きさえ見せなければ、出入りが出来ないわけではない。

 プラムとチュウタが、ラーナと2メルテほどの距離を置いて対峙する。水色のノースリーブのワンピースを着たラーナは、無警戒な子供そのものだ。


「おー、可愛いお嬢さんですねー。怪しくないですー、王都郵便の者ですしー」


「プラムさん怪しい……」

 チュウタがぷくくと笑いをこらえるが、プラムに肘で突かれる。

「次は、チュウタくんの番ですー」


「あ……、あの! えいっ! ……捕まえたっ!」

 突然、チュウタがバッと飛びかかりラーナを捕まえる。

「きゃー!? なのデース!」


「わ、ごめ……」

 悲鳴に思わず手を離すチュウタ。


中断(カット)。こらー! チュウタくん、逃しちゃだめですよ!」


 マニュフェルノ監督(?)が、手でバツを作り(げき)を飛ばす。


「えー、でも……」

 赤毛の少年は、照れくさそうに戸惑いを見せる。


「兄上。エルゴくんは女の子を捕まえるとき絶対に離さないぞ! って感じで優しく、強く捕まえてましたよ! チュウタくんにもきっと出来る」


「わ、わかりました!」


 マニュフェルノの励ましも果たして正しいのかよくわからないが、兄の名を汚してはならないと決意も新たにするチュウタ。


「それ、捕まえるのですー!」

「よ、よしっ!」

 プラムが指差すと、チュウタが逃げようとするラーナを後ろから抱き抱えた。悲鳴を上げて足をバタつかせるが、ラーナは人質になってしまった。


「降伏するのですー! さもないと、ラーナちゃんがチュウタくんに……とっても大変なことをされてしまうのですー!」


 プラムが悪人らしい台詞を叫ぶ。(ハーフ)竜人(ドラグゥン)である証拠の背中の羽を広げて高笑いをするあたりなんて、敵役としてなかなかのものだ。


「助けてなのデース!」

「え、えぇ!? 僕何もしないよ!」

「演技ですからー」

 赤面しつつもラーナを抱きかかえるチュウタの反応がいちいち面白い。


「あっはは! プラムとチュウタは面白いなぁ」

「もう、賢者ググレカスってば」


 と、玄関先から飛び出してきた設定(・・)のヘムペローザとマニュフェルノが颯爽と駆け寄る。


「ラーナを離すにょ!」

「要求。一体なにが目的ですか!?」


「ググレさまの恥ずかしい秘密を教えるのですー!」

「さ、さもないと……この子がどうなっても――」


 と、チュウタが、右手に持った木の棒をラーナに向けた瞬間。足元の草むらから、突如色とりどりの球体が勢い良く飛び出した。

『――制圧(ヤッ)!』

『シャー!』

『ゴラーッ!』

 それは、館スライムによる特殊部隊(・・・・)の強襲だった。一匹が顔の真正面に跳ね飛ぶと同時に、別の一体がチュウタの右手に絡みつく。ピンク色のスライムが顔を塞ぎ、青いヒゲ付きのスライムが右腕の武器を封じる。更に別の緑色の迷彩柄の一匹が脚を這い登り、ズボンの内側にするすると侵入していく。スライム達の恐るべき速業だ。


「う、わぁあああっ!? はぶっ!? ……ンーッ! はっ、ンーッ!?」


 チュウタはもんどり打って倒れ込んだ。顔を塞がれ、ズボンの中でスライムが暴れているという地獄のような状態だ。

 ラーナはその隙に、逃げ出してマニュフェルノの方へと駆け寄った。


「賢者ググレカス! 館スライムたちが組織的に攻撃しましたわ……!」

「お、おいおい!? あんなの聞いてないぞ……!」

「完全な奇襲、恐ろしい攻撃ですわ」


「っていうか、チュウタは大丈夫か……」


『ヤー!』

『ウラー!』

 チュウタを完全に制圧したピンクのメイドスライムが、腹の上で跳ねて勝どきをあげる。同時に他のスライム達が、今度はプラム目掛けて襲いかかった。

 だが、プラムの運動能力は侮れなかった。


「よっ、とっ!」


 ――速い!


 ひゅん! ビュン! と、地面から跳ねてくるスライムの攻撃を、プラムは飛んで避け、次に地面に着地して身を屈めてやり過ごしてみせた。


「おぉ……!」


 その動きは実に軽やかで、赤いツインテールが華麗に舞う。着地と同時に地面を蹴り、マニュフェルノとヘムペローザの方へと向かってゆく。


「警戒。ヘムペロちゃん!」


「来るかにょ、プラムにょ……!」

「勝負です、ヘムペロちゃんー!」


 ――プラムとヘムペローザの勝負だと……!?


<つづく>


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