食レポ対決、レントミアVSググレカス
◇
「あー、美味しいねこれ!」
「思ったほどクセも無いし、風味があって美味しいわさ」
レントミアとアルベリーナが、野牛のパティ焼きサンドを頬張って目を丸くする。
二人はエルフらしい切れ長の瞳が特徴だが、美味しいものを食べた時の表情は、みんなと同じようなものだ。
「ふーん? キメの細かい小麦のパンにサンドされた、ひき肉のグリルはとびきりジューシー。パンがそれをしっかりと受け止めて包んでいる。美味しいパンだね。そして、ふむふむ……! 野牛のひき肉は風味が強いけれど、しっかりと焦げ目をつけて焼くことでかえって香ばしさに繋がっているんだね。何よりもこの絶妙なハーブとスパイスのブレンド! しっかり下味がついているから噛めば肉汁と相まってとても味わいが引き立つんだ……。もぐもぐ。そこに、爽やかさを運んでくるのは新鮮なトマトピューレ! 酸味と甘みが肉の旨味に変化をつけてくれる。そしてさいごはシャキシャキのレタスとオニオンスライスがたまらない。すべての相性が抜群だね!」
レントミアが瞳を輝かせながら、ちいさな口でぱくついては、すごい勢いで実況を折り混ぜてくる。
「レントミアが饒舌になった!?」
「レン坊の本当に美味しいもの食べたときモードだねぇ」
「……そんなのあるのかよ」
「おや、知らないのかい?」
「し、しってるとも! レントミアのことは、いろいろ!」
「おやおや」
レントミアの意外な一面を発見したが、またもやアルベリーナに軍配が上がった気がする。ま、それはいいとして、ひき肉のグリルサンドはかなり美味しいらしい。
俺の注文分はまだ来ないが、実に楽しみだ。
それにしても、ハーフエルフとダークエルフが並んでひき肉のグリルサンドを頬張っている図は、平和そのもの。どんな相手でも木っ端微塵にする爆炎の魔法使いレントミアと、あらゆる魔術に精通した長命なダークエルフの魔女と、こうしてテーブルを囲んでいるというのは不思議な気分だ。
そして竜撃のサンドイッチ店『ルーデンス野味』の看板メニューの一つだという、『野牛ミンチ肉ベーコンサンド』がやってきた。
「お待たせしました! って、本当に賢者さま……! いらっしゃいませ」
「おぉ、セカンディアか」
厨房から運んできてくれたのは、なんとセカンディア元王子だった。まぁ元王子というのはだいぶ前の話。今は、セカンディア兄貴といった感じだろうか。
「へへ。……その節はいろいろお世話になりました」
以前のド派手な「オレ様王子」ファッションから一転。シェフ姿で調理用のエプロンを身につけた姿だが、当時の雰囲気はまだ残っている。逆立てた銀髪は短くカットされていて、以前よりはずっと清潔感がある。しかし、白いシェフ帽を被ってはいるが耳にピアスとか、ラフに開けた胸元とか、黒い革のズボンに黒いシャツとか、ちょっとチャライ感じがする。
精悍になった顔に、すこしはにかんだような笑みを浮かべる。
「おいおいよしてくれよ、それよりなかなか景気が良さそうじゃないか?」
「ボチボチですよ、なんとかかんとか、やってる感じッスかね」
と言って、シェフ帽を整えて、背筋を伸ばす。
すると、店の中にいた他のお客さん――特に若い女性から、「あ! セカンディアくんだ」「やんちゃシェフキター」「……かっこいい!」と小さな悲鳴のような、歓喜の声が沸き起ったのを、俺は聞き逃さなかった。
――なにぃ……!? セカンディアが人気……だと!?
「う……まぁその、すごいサンドイッチだな?」
「えぇ! ルーデンスを代表する牧畜牛から作った自慢のベーコンで、ウチの一番人気の野牛ミンチグリルを包んで、そのうえ更にパンで挟んだ二段重ねッスから、ボリュームがあって美味いッスよ」
「オススメの上級者サンドイッチとやら、賞味させてもらうよ」
どうも自信満々な態度が鼻につくが、まぁどんなものか食べてみようじゃないか。
「セカ兄ィ! 早く厨房に戻ってよ、ヒルハイデス爺が怒ってるよ!」
一番下の妹のフィリーナが厨房の入り口から手招きする。厨房の奥からはおよそ調理とは思えない「うぉおおお!」という声と、ドドドバババ! という音が聞こえてくる。
一瞬見えた厨房の奥では、竜撃の戦士の一人『槍使いの老兵ヒルハイデス』らしい姿が見えた。白髪の老人がシェフの格好で、肉をミンチにしているのだ。
「あれは、ルーデンスの戦士だよな? あの……氷の竜との対決の時に助太刀してくれた槍使いだ!」
忘れもしない。極北の大国プルゥーシアからやってきた氷結の魔法使い、キュベレリアとの対戦で、ルーデンスの戦士として馳せ参じてくれた老兵だ。
「そうです。ヒルハイデス爺は、親父の腹心で……その、王都で暮らすウチの妹らが心配だってんで引退して……俺らのお目付け役ってことで、来てくれたんですよ」
すこし苦笑気味に肩をすくめるセカンディア。
どうやら三人兄妹だけでは心配だと、老兵が引退ついでに同居しているようだ。なんとなく俺もそれを聞いて安心する。
「ま、いろいろと納得したよ。さて、オススメの上級サンドイッチとやら、賞味させてもらうよ」
「どうぞごゆっくり!」
セカンディアは、店の中の他の客たちもぐるりと見回して一礼。「きゃっ♪」と歓喜の声を背に、厨房へと戻っていった。
そして俺はようやく『野牛ミンチ肉ベーコンサンド』を口にする。
「……っ!? う、美味いッ!? く……くそ、美味いぞ、なんだこれ、うまっ!? ふぉお……ふむぅ!?」
口の中に広がる肉汁とスパイシーな味わいは、レントミアの言うとおり絶妙で本当に美味しい。肉の味わいを楽しんでいると、更にベーコンの濃厚な味わいが襲ってくる。
それはまさに波状攻撃。肉の旨味の絨毯爆撃だ。舌の上がもう、肉のフェスティバルで満員御礼だ。
ルーデンスの肉を受け止めているのは、フィノボッチの小麦から作られたパンだろうか。そこにティバラギー産のオニオンスライスなどが風味を加えている。なんだか世界を食べ尽くしている感じがする。
「負けた……」
「きゃはは、ググレの反応がよくわからないね」
「……賢者の頭の中は謎だらけだからねぇ?」
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